日曜日のゴールデンタイム。 大学に提出するレポートがやっと終わって、 やっとゆっくりテレビが見れると、リモコンを手に取る。 テレビをつけた瞬間にチャンネルが、いつもはニュース番組のある国営放送へと 変わるのだけれど、今日はブラウン管に映し出されている人物に、 柄にもなく民間放送を見ることになってしまった。 現在を手に入れるための欠片 「そう言えば、テレビに出るって言ってたかしら。」 ドラマの移行期間中であるこの時期は、特番が多い。 そして、この民間放送も例外なく『今、噂のあの人』と ありきたりなネーミングで特番を放映していた。 おまけに、そのお客様は・・・・隣の年中発情期男。 まあ、これについては蘭さんと私がつけたネーミングなんだけど。 どんなことを話すのかしら?とか工藤君をからかえるネタになりそうね なんてことを考えながら、コーヒーを口元に運ぶ。 『いま、話題沸騰中のマジシャンですが、マジシャンになろうと思ったきっかけは?』 『父親がマジシャンだったのが・・一番影響してますね。』 一瞬、彼の顔色が変わったのに、司会者は全くそんなことには気づかず話を進める。 ポーカーフェイス・・下手になったんじゃない?私に見破られるなんて。 彼の父親、黒羽盗一の活躍について話が変わってから、瞳の色がよどんだ気がした。 きっと、工藤君の影響なのかしら。あんなに、気抜けして幸せボケもいいところ・・・。 今、組織の残党なんかに出くわしたら・・・考えただけでも恐ろしい。 「ん?快斗君じゃないか。」 「あら、博士。帰ったの?今日は、遅くなるんじゃ・・・。」 後ろから掛かった声に、体が少しビクッと反応してしまう。 どうやら、博士が帰ったことに気づかなかったみたいね。 人のことは言えないわ、私も平和ボケし過ぎている・・・。 「いや、ちょっと用事を思い出してな。・・しかし、快斗君もすっかり今では アイドルのようじゃのぉ。観客席の女の子も常に騒いでおるし。」 博士は、年のせいで視力もだいぶ落ちてきているためか、 目を細めながらブラウン管を見つめる。 いつのまにか、彼はマジックを披露し始めていて、 観客席の女性の声はBGMさえもかき消してしまうほどの音量だった。 「ほんと、今までは陰の中で生活してきたような物なのにね。 こうして、テレビにもでられるなんて・・・。」 「それだけ、時が経過したってことなんじゃろうな。」 あの頃は、予想も出来なかった幸せな生活がここにはある。 工藤君も幸せな家庭を持って、孤独な夜の奇術師も今は心から笑っている。 それ故に時々、感じる・・・不安。 いつか、夢が覚めるのではないか? 起きたら、組織の生活をしているのではないか?と・・・。 『ところで、黒羽さんって、私生活が謎で有名ですよね?』 『それは、時期が来たらいろいろと話すつもりですよ。 まあ、ひとつ言わせて貰えるのなら・・・今、とても幸せだってことです。』 『なるほど。それでは、最初のゲストは黒羽快斗さんでした。では、次のお客様は・・・。』 「今・・幸せ・・・ね。」 黒羽君に教えられるなんてなんだかシャクだわ。 今が幸せなんだから、不安を感じることもなくていい。 この先何があっても、この幸せな時間を心の糧としていけば生きていける・・。 「哀君、歩美ちゃんから電話じゃ。」 「ありがとう、博士。」 孤独だった“宮野志保”としての人生も、私にとってはかけがえのない人生のひとかけら。 それがあって、今の幸せが完成するのなら、あの頃も大切な時間だったのだろう。 灰原哀として、人生をやり直して得たのは、大切な人達。 子機の電話を受け取って、博士を呼び止める。 「ありがとう。博士。」 もう一度綴る、感謝の言葉。 博士はその言葉に含まれた私の気持ちが分かったのか、ニコリと優しく微笑んでくれた。 あの雨の日に、私を助けてくれて・・・本当にありがとう あとがき コナンの新刊のコミックを買って、突発的に書き上げてしまいました。 哀ちゃん、やっぱり好きだな〜。蘭ちゃんより好きです。本気で!! 快新とはほど遠い作品になったけれど、たまには・・・。 |