今日、工藤邸にアメが降った。 アメ・・・雨?・・・・いや飴。 そう、くどいようだが今日、工藤邸に飴がふった。 ◇残骸◇ ぽつぽつとそれは異様な光景で、新一は思わず目頭を押さえる。 その状態のまま目を瞑ってカーテンを閉めた。 目を開けて深呼吸して、おもいきりカーテンを開く。 きっと寝ぼけていたのだと言い聞かせながら。 だけど現実は変わらない。 「飴・・・だよな。」 ぽつぽつ、というより、ぽてぽてとベランダに降り積もる。 どうせなら袋入りであればいいのにと思ってしまうあたり慣れてきたのだろうか。 この光景に。 新一は振り返って後ろ手にカーテンを閉める。 寝直そうかとベットを見れば、気持ちよさそうに睡眠を貪っている旦那が一匹。 これさえも現実ではないのかも知れないと思いつつ、 その幸せそうな寝顔を思いっきり捻った。 「うがっ。・・・新一。かっこいいお顔が崩れます。」 「ギリギリ大丈夫だ。」 一気に覚醒した旦那こと快斗はつねられて赤くなった頬をさする。 どうせならキスでもして起こしてよ・・とブツブツ文句を垂れても この奥様はベットサイドに腰掛けてう〜んと悩んでいるだけ。 「新一。何かあったの。」 後ろからギュッと抱きしめると少し冷えているお揃いのパジャマ。 新一はその腕の中に収まった状態で“あれ”と外を指さす。 「カーテンがどうかした?」 「違う。外だよ外。飴が降ってるんだ。」 「雨が?天気予報じゃ晴れって言ってたのに。」 お天気お姉さんに騙されたーー。などと騒ぐ快斗のみぞおちに肘で一発。 ぐおっとくぐもった声を出して快斗は再びベットに撃沈。 馬鹿なことを言うお前が悪い。立ち上がった新一はそう告げてカーテンを開いた。 「見ろ。飴が降ってる。」 言葉のニュアンスでは通じにくい“飴”と“雨”の違い。 だけど、百聞は一見に如かず。これをみれば彼だって納得するはず。 「・・・飴だね。」 お天気お姉さんにも予測不可能な天気。 うそつきっていってゴメンナサイ。 快斗は寝ぼけているのか地なのか、ベットの上でぺこりと頭を下げる。 おそらくその相手はお天気お姉さん。 現実を直視することには慣れていたはずなのに。 と新一と快斗は思う。 特に探偵をやっている新一は常に真実と現実には向き合ってきた。 「受け入れたくない現実ってあるんだな。」 「まぁ、象がふるよりましでしょ。」 「どうせなら鰯でも良かったな。」 「新一!!!!!」 それなら食費が浮いたのに。 なんてことを言う新一に快斗はブンブンと首を振る。 そして同時に思うこれが飴で良かったと。 「どうやら我が家だけみたいだね。」 飴がふってるの。 「ああ、ご近所にばれる前にどうにかしねーとな。」 犯人はきっと我が家の屋根裏だ。 快斗と新一はどちらともなくため息をつくと、スリッパを履いて部屋を後にする。 “飴”を降らせる犯人のもとに。 飴の製造器。 その形はメルヘンチックだと由梨は思う。 ピンクの巨大な渦巻きのぺろぺろキャンディーのてっぺんから、 小さなぺろぺろキャンデーが飛び出す仕組み。 ちなみに手で持つ部分にはかわいらしくピンクのリボン。 両親を驚かせようと4人でつくったのは“飴降らせマシーン” ちなみにデザインは由佳が行った。 材料はふつうの飴と同じ。 あとはそれを家の真上に設置して、フルパワーで作動させればいい。 四方八方に飛び散る飴の数は、1秒に20個のハイペース。 きっと売り出せば高くつくなと思うのは必須。 階段をのぼってくる音に由梨は悠斗の肩を叩く。 「お父さんたち起きたみたい。」 「はやかったな〜。案外。雅兄、由佳姉。もうすぐ来るって。」 屋根裏の上にある小さな天井裏にいる兄と姉を呼ぶ。 2人は慌てたようにそこから飛び降りた。 「隠れてもばれるし。どうしよっか?」 雅斗はポリポリと頭を掻く。 どうやらあんまり考えていなかったらしい。 「とりあえずは悪あがきかな?」 「いや、無駄だって。」 由佳の言葉に悠斗は首を振る。 そう、両親に抵抗するのは無駄。 だてに自分たちの製造元ではない。 この飴が、飴製造器が、自分たちには敵わないのと同じで。 「「犯人発見。」」 ひょいっと雅斗と由佳は快斗に、そして悠斗と由梨は新一に捕まえられる。 小学3年と1年の彼らの体重はそんなに重くはないので、 首根っこを猫のように持ち上げられた。 「まったく。イタズラ好きだな〜。」 「てか、小学生で造れるものじゃないな。」 新一はそう言いながらスイッチを切るように悠斗に告げる。 ウイーンと音を立てて機会は止まった。 「驚いた?」 悪びれることなくニタニタと笑う雅斗に快斗がポカンとその頭を叩く。 この笑顔は快斗と同じだと新一はその光景を横目に見ながら思った。 「ほら、4人で後かたづけだ。」 1秒に20個の飴玉を作る機会が、30分もフル稼働したのだ。 その個数は・・・・個人で計算してもらいたい。 朝日が昇ってそとの気温は上がりはじめる。 そして、工藤邸の壁や屋根、そしてベランダや庭に・・・・ 無惨にも溶けてべとべとになった飴の残骸。 蟻にとっては最高のご馳走だが、家主にとってはこれほど迷惑なことはない。 甘い匂いが家中を取り囲む。 「1時間以内に掃除しろ。」 ドスの効いた新一の声に4人はコクコクと頷いて飴を片づけはじめるのだった。 |