小等部から高等部までのエスカレーター制となっている私立クロード学園。

この名前を知らないものは帝都には存在しない。

将来は世界のトップを担う若き猛者たちが入学する超エリート校であり、

その敷地面積や施設の充実性は、世界屈指であろう。

 

広大な体育館やプールはもちろんのこと、

少し離れた場所に学園の生徒会が利用する館まで存在する。

通称『空の館』は一年中花が咲き乱れ、池や橋まで存在するという異空間だ。

 

1階はそれぞれの会長室やシャワールームに応接室や仮眠室なのだが

2階は全てドーム上のガラス張りになっており、木々も生い茂る温室のようで、

隣接してシステムキッチンまで備え付けてある。

その造りはまるで空の中にいるような錯覚を覚えさせるということから、

高等部の初代会長に『空の館』となづけられたのだった。

 

 

After School

 

 

一番庶民と自負している少年、沢田綱吉はその館の前にたつといつも思う。

本当に自分はここに居ていいのかと。

 

わずか5歳の時に家にやってきたリボーンとなのる3歳年下の赤ん坊は

自分が今日からおまえの先生だと告げ、文武両道の精神のもと綱吉を指導した。

当時、幼い綱吉にはよく分からなかったが、今ではその状況もとりあえずは受け入れている。

 

鍛え上げられた理由は、どうやらこの学園に入学し、いずれは就くべき職のため。

その職業が何なのかを知っているのはリボーンと幼馴染のヒバリくらいだ。

なぜ、自分が知らされていないのかは甚だ疑問だが、知らないほうがいいと

幼いころから常人より鋭い直感が警告していたので、聞くことはなかった。

 

小学校から入学し,ダメダメだった自分にも仲間が出来た。

それがこの空の館に集まる小等部から高等部までの生徒会のメンバー。

そのほとんどがいっそ土下座したくなるほどの血筋をもっているが、

誰もそのことを鼻にかけることなく、一般人の綱吉にも普通に接してくれる。

 

中等部の生徒会長に立候補しろと言われたときにはなんの冗談かとも思ったが

彼らに出会えたことは綱吉にとっても幸運なことであり、

今では破天荒な家庭教師にも一応は、本当に少しだが、感謝していた。

 

「ツナ。お疲れ様。」

「あ、ルルーシュ。今日は早いんだ。」

 

茂みから現れた黒髪に紫の瞳をもった少年。名はルルーシュ。

その頭脳は世界レベルでどうして彼が会長じゃないのかということが疑問のひとつだ。

 

以前、そう告げたら『ツナほど会長に向いた人材は居ないよ』と綺麗な笑顔で返された。

 

本当に女性のように綺麗で、遠い国の皇子というのも納得がいく。

いろいろと事情はあるようだが、綱吉は彼が帝都で平和に暮していくためなら

何だってしようと彼に出会ったことから決めていた。

 

「珍しいね、スザクと一緒じゃないなんて。」

「いつも一緒ってわけじゃないさ。それより、イチゴは好きか?」

「うん。あ、ひょっとして。」

「新作のお菓子。みんなの好みに合わせて甘さもいろいろだけどな。」

 

持っていたバスケットを覗き込むと、美味しそうなタルトがみえる。

 

「雲雀さんが喜びそうだ。」

「本当にツナは雲雀先輩が好きだな。」

「あ、いや。」

 

クスクスと笑うルルーシュに後ろから大声で彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

チラリと見れば、予想通り先ほど話したスザクが慌てて走ってきている。

やはり、どこかで巻いたのだろう。と綱吉は小さく苦笑をもらした。

 

 

 

「君たち遅いよ。」

 

「予定時間ちょうどですけど。それにツナだって。」

「綱吉は特別。君たちと一緒にしないでくれる?」

 

ふぁとあくびをひとつ漏らすと、

日当たりのいい場所で本を読んでいた雲雀は視線で綱吉を呼ぶ。

首を傾げて近づいた綱吉はソファーに座らされ、彼の膝枕になった。

 

この扱いの違いになれているスザクとルルーシュは苦笑をもらす。

そして、スザクは中等部の会計をもって、

全体の総括ともいうべく高等部の会計にその書類を手渡した。

 

「お疲れ様です、工藤先輩。」

「スザク、珍しいな。ちゃんと仕事をすませてきてるなんて。」

「ひどいなぁ。あんまり工藤先輩に負担をかけるなって、ルルーシュが。」

「当たり前だろ。ただでさえ会長と副会長があの2人だぞ。」

 

スザクの隣に並んだルルーシュの言葉に、高等部会計兼書記こと工藤新一は苦笑を漏らす。

 

確かに、中等部は責任感の強い綱吉が会長で、手際のいいルルーシュが副会長。

多少の怠け癖はあるが、ルルーシュの言うことならば喜んで聞くスザクが

会計兼書記となれば問題は無いだろう。

 

だが高等部は、会長は大のお祭り好きでいい加減な黒羽快斗。

副会長は争いが趣味で、興味は沢田綱吉のみという雲雀恭弥なのだから。

その苦労は彼らを知るものたちなら、思わず同情の涙を流すほどだ。

 

ルルーシュは聡明な新一を尊敬しており、彼とチェスをするのも楽しみだった。

それに何よりも常識人で、気高い。彼の助けをしたいという気持ちは当然だと感じている。

 

だからこそ、スザクが彼の手を煩わせるわけにはいかないと思っているのだ。

ただでさえ、新一は体が弱いのだから。

 

「ありがとう、ルルーシュ。」

「いえ。」

 

憧れの先輩に感謝されたのが嬉しいのか、

少しだけ紅潮する頬にスザクはムッと眉をひそめた。

新一はそれにすぐ気付いて、クスクスと笑う。こんなところが年上の余裕だろうか。

 

「スザクは本当に素直だよな。快斗もそれくらいだといいのに。」

「黒羽先輩の執着心は俺よりあからさまですけど。」

「そうだったか?」

 

スッと新一の視線が入り口のほうへ向けられる。

ルルーシュとスザクが振り返れば、今しがた話題にあがった快斗が入ってきていた。

 

「俺の愛が新ちゃんに伝わってなかったなんてショックだなぁ。

こうなったら今から・・・。」

 

「遅れてきて、僕の前で群れないでよ。」

「仕事してない副会長には言われたくないね。」

「それは会長の君も同じだろ。」

 

正直、会長と副会長は犬猿の仲だ。

お互いに何かあったわけではないが、ようするにウマが合わないらしい。

 

綱吉に膝枕をされて気持ち良さそうに仮眠を取っていた雲雀はのっそりと起き上がると

スッと一瞬で快斗の前に降り立ち、彼に向けてトンファーをくりだした。

 

だが、快斗もまた無駄の無い動きでそれを避ける。

 

「ヒ、雲雀さん。ダメですよ!!」

「快斗。おまえ、また建物を壊す気か?俺が親父から嫌味を言われるんだからな。」

 

「それなら雲雀を止めてよ。俺は何にもしてないし。」

 

確かに快斗は攻撃を避けるだけで、特に反撃はしていない。

だが、それが余計にイラつかせることをわかってしているだけ彼も同罪だろう。

 

「また、始まったな。」

「先輩達って血気盛んだよね。あ、ルルーシュは危ないから離れてなよ。」

「あそこに近づく馬鹿はいない。」

 

お茶の準備でもするか、とルルーシュは備え付けのキッチンへ向かった。

スザクもその後ろを追いかけていく。こうなったら関わらないほうが身のためだ。

新一は大きくため息をついて、書類へと目を戻した。あとは綱吉に任せようと。

 

なんで、いつもこんな役回りなんだよぉ。

 

頼みの新一ももう無視を決め込んでしまい、綱吉は重々しくため息をつく。

チラリと窓から下を見れば、中庭の池のほとりで

楽しそうにこちらを眺めている小学生と目が合った。

 

 

リボーン、・・と哀ちゃん?

てか、2人も傍観決定!?

 

 

みれば“収まり次第中に入るから、さっさとどうにかしろ”と家庭教師は告げている。

 

 

やっぱり生徒会なんて入らないほうが良かったかなぁ。

 

ゆっくりとソファーから立ち上がって、綱吉は2人の間に飛び込んだ。

どうか傷1つできませんようにと。

 

 

 

 

 

「いつも言うけど、あの止め方はやめてくれる?心臓に悪いよ。」

 

ルルーシュの用意したイチゴのタルトをつまみながら

雲雀は隣に座る綱吉に呆れた視線を向けた。

突然ふられた話題に綱吉は食べかけのタルトを飲み込んで深々とため息をつく。

 

「それなら、黒羽先輩に喧嘩をふっかけないでください。」

「視界に入るのが悪いんだよ。」

 

そう言うと、話題は終わりとばかり決め込んで雲雀は再び菓子へと手を伸ばした。

隣で綱吉がまだ何かを言おうとしたが、もはや無駄なことと分かっているので

何度目になるか分からないため息をつくことで気持ちを収める。

いちいち彼のこういうところを気にしていたら、雲雀の幼馴染など務まらないのだ。

 

そんな2人の様子を向かい側に座って聞いていた快斗は、

綱吉の扱いに同情しつつも、まるで他人事のように軽くあくびを漏らす。

今日は日当たりも程よく、

ガラス越しに感じる暖かさは適度で、眠気を引き出すには充分だった。

 

「快斗。おまえも同罪だからな。」

 

新一はタルトをフォークで食べやすい大きさにし口に運びながら、坦々と告げる。

それに夢うつつを行き来していた快斗は一気に現実に引き戻された。

 

「なんで俺!?」

 

「楽しんでやってるのがバレバレなんだよ。

おまえら本当は仲が良いんじゃないか?

 じゃれてる猫みたいにもみえなくないし。」

 

「あれ。新ちゃん、ひょっとしてヤキモチ〜?」

「工藤、それ以上くだらないこと言ったら咬み殺すよ。」

 

雲雀がカチャリとフォークをテーブルにおき、

トンファーに手がいきかかったのをみて新一は口をつぐむ。

体力馬鹿の快斗と違い、肉弾戦は得意ではないのだ。

それにお茶の時間くらい静かにすごしたい。

 

第一これ以上のイザコザは、彼の妹の機嫌を害すには充分で・・。

そんなことを思いつつ、哀をみれば予想通り不敵な笑みを浮かべていた。

 

「ルルーシュ先輩のお菓子は最高よね。薬を混ぜても気付かれなさそうだわ。」

「え、哀ちゃん。まさか!?」

 

その言葉に一番に反応したのはスザクだ。

なんせ彼の席の隣は哀で、今まで一番被害を受けてきたといっても過言ではない。

同率で快斗が並ぶが、その理由は一番体力がありそうだから・・だとか。

 

「失礼ね、スザク先輩。まだ、なにもしてないわよ。

でも、ここには検体が多くて助かるわ。」

 

「工藤。おまえ、自分の妹の躾くらいしとけ。」

 

哀の向かい側に座っているリボーンは

不満を彼女にぶつけるほど命知らずではないのか斜め前の新一を見やる。

ちなみにリボーンも哀の検体の経験ありだ。

 

「無理なこと言うなよ。」

 

個々が強い面々であるが、

一番強いのは間違いなく我が妹だと思わずにはいられない新一だったのであった。

 

 

 

                            END

 

*おまけ*

 

「それにしても、本当に美味しいよ。このイチゴタルト。

ルルーシュはいい奥さんになるね。よかったなぁ、スザク。」

 

「はい。僕は幸せ者です。」

 

「黒羽先輩、俺は男なんですけど・・・。

それに黒羽先輩こそ料理上手だし。いい旦那さんになりますよ。」

 

「新ちゃんのためなら何でもするしね。」

 

「なら、さっさと仕事しろ、バカイチョウ。」

 

「ひどいよ新一〜。だいたいそれなら、副会長もだろ。」

 

「僕は何かと忙しいんだよ。君と違って。」

 

「俺も忙しいんだ!」

 

「一番忙しいのは工藤先輩だと・・。雲雀さん。工藤先輩を少しは労わってくださいよ。」

 

「自分の彼氏の調教もできていない部下の仕事をかい?」

 

「新一はてめぇの部下じゃねぇ!!」

「僕だって好きで君の部下に納まっているわけじゃないよ。」

 

「雲雀、黒羽。うるせぇぞ。てめぇら。」

「ふふ。検体は2人で決定ね。」

 

「「・・・・。」」

 

こうして、空の館の放課後はゆっくりと過ぎていく。