なんでかわからないが、大学芋が無性に食べたくなった。

そして、これも謎だが自分で作ってみることにした。

その結果・・・・灰原におこられた。

 

〜大学芋〜

 

「軽いやけどで済んでよかったわ。」

「しかし、あんなにはねるんだな。」

「何、悠長なこと言っているの・・・。

後で黒羽君への言い訳、考えておくことね。」

 

事の起こりは、日曜の昼間。

特にすることもなくて、TVを付けていたら料理クッキング番組が始まった。

それで、作っていたのは今回の事件の発生元である“大学芋”

香ばしい匂いがブラウン管をこえて匂ってきそうなほど美味しそうにできあがっていた。

 

「材料も、家にある物で出来そうだし。作ってみるか。」

作り方の課程と材料や分量を全て頭にインプットした新一は、

快斗とお揃いで購入したエプロンを付けて、手を綺麗に洗うと早速芋をむき始める。

このくらいのことは、前々から母親を手伝って行っていたために簡単に出来た。

 

まあ、日頃は新一の手が荒れるだの傷つくなどで快斗は滅多に

新一を台所へとは入れてくれなかったのだが。

 

「えっと、芋を油で揚げるんだよな。」

水分を含んだ芋を油で揚げる時、ある程度油が飛び散ることを予想するのはたやすいことで、

新一は注意に注意を重ねて芋を投入する。

そのおかげか、見事に芋を上げるのも大成功だ。

 

「俺って料理上手なんじゃねーか。」

綺麗に柔らかく揚げ上がった芋を眺めながら

満足げに頷く新一を一般人が見たら、きっと目を点にするであろうが、

残念ながらこれを見物している者は誰一人としていなかった。

 

「さて、次はメインの蜜だ。水と水飴を入れて、焦げ色が付くまでしっかりと混ぜるっと。」

 

“簡単簡単”

そう思いながら今度は調子のずれた鼻歌がキッチンに騒音のように響いた。

 

暫くして、蜜の甘い匂いがキッチン全体を埋め尽くす。

甘いものが苦手な新一だが、大学芋は別らしくその匂いにますます上機嫌となっていく。

 

「最後に酢を入れて、そして直ぐさま芋を投入だな。ここがこの料理のカギを握るんだ。」

小太りの料理の先生がTVでそう言っていたことを思い出して、

新一は右手にお酢、左手に芋をスタンバイする。

もちろん、しゃもじも準備済みだ。

 

「これが終われば、大学芋が食える。よっし。」

 

 

 

 

・・・・・酢を入れた瞬間、すさまじい勢いで蜜がはねた。それはもう油以上に。

 

 

 

「予想できない事態だったんだよ。しかし、初めてにしてはおいしいだろ?」

「ええ、すこし水飴が固まって痛いけど、なかなかだわ。」

「この、水飴がすぐ固まるのが面白いんだよな。」

 

哀は、嬉しそうにそう言いながら次々に大学芋を口に運ぶ新一の姿を見て

日頃とかけ離れた彼の姿に苦笑を浮かべる。

子どものようにはしゃぎながら、自信作を見せる彼。

それは、可愛い以外いいようがないのだ。

 

「博士にも後で喰わせてくれよな。」

「ええ、感想も聞いておくから、早く帰ったら。もうすぐ黒羽君帰ってくるんでしょう?」

「そうだな、快斗にこれを食べさせないと。俺だって料理くらいできるって証明にもなるし。

これで少しはキッチンにも入れてもらえる。」

 

博士用の大学芋をラップで覆って、残りの入った皿を持ち上げると、

新一は足取りも軽く隣へと向かう。

 

それを見送りながら哀は内心

“もっとキッチンへ入れてもらえなくなったわね”と思っていたが、

あえてそれを言葉に出すことはなかった。

 

 

「ただいま〜。新一。」

「快斗、おせーじゃねーか。せっかく大学芋作ったのに。」

 

めったにお迎えなどしてくれない新一がわざわざ、玄関まで出てきてくれたので、

快斗は何かのお誘いと頭の中で勝手に解釈すると、ギュッとその褒美な体を抱きしめる。

だが、新一はそんなことよりも早く快斗に自信作の大学芋を食べて欲しいのか、

快斗の腕からスルリと抜け出るとその手を引っ張って食卓へと誘導した。

 

「わあ。上手に出来てるじゃん。」

「だろ、俺だって料理くらい出来るんだからな。」

「俺のために作ってくれたんだよね。俺って世界で一番幸者じゃん。ありがとう、新一。」

 

本当は隣に先にあげてきたのだが、なぜかそう言って感動している快斗に

そう言うことはできなくて、新一はとりあえず頷いていた。

 

そして、快斗はそれをひとつも残すことなくおいしそうに食べ終える。

 

「おいしかったよ。新一。ありがと。」

「そうか?よかった。でもさ、作った物を全部食べてもらえるって嬉しいことだよな。

俺もこれからなるべく食べる。」

「新一。やっと分かってくれたんだね!!これからは、少しくらい料理しても・・・。」

 

 

「快斗?」

 

 

手をギュッと握りしめて、一点を見つめたままの快斗に新一はその顔をのぞき込む。

心なしか、快斗の表情がこわばっているような・・・。

 

「新一、これ、これ・・・。」

「ああ、作っているときにやけどしたんだけど、別に大したことじゃ・・・。」

 

「新一。もう料理するの禁止!!」

 

「はぁ?」

 

快斗はそう叫ぶと大急ぎで隣の家へと走り去った。

おそらく、哀に傷が残らないかをわざわざ聞きに行ったのであろう。

電話一本すればすむことだろうに。

 

哀はその事を予想していたらしく、うざったそうにしながらも事細かに

やけどの程度について説明するのだった。

 

「哀ちゃん、結局、新一の肌は大丈夫なんだよね。」

「何度言えば分かるの。傷の治りの悪い老人でも治るわ。あのくらいのやけど。」

「こんどから、油は頑丈な金庫に片づけとかないと。」

「ばか?」

 

それ以来、新一が快斗のいるところでは決して料理をしなくなったとか。

 

◇あとがき◇

大学芋作りで皆さんが一度は経験したことがあると思うこと。

でも、蜜に醤油をいれたりする作り方があるとしって

かなり、びっくりしました。いろいろあるんですね。

 

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