【だんらん】

 

 

[1]

 

真冬のある昼下がり。

庭に面した窓からは冬の儚いながらも暖かな陽光が部屋中を照らす。

傍では猫のように体を丸くして眠っている子供たち。

気持ちよさそうに4人で一枚の広めの毛布にくるまっていた。

 

 

新一はそっと悠斗の髪を撫でる。

その途端、口元をゆるませる彼の仕草に新一もまた柔らかな表情となった。

 

「で、何してるんだ?快斗。」

 

少しずれかかった毛布をかけ直すと

子供たちを起こさないように極力声量を落として新一は尋ねる。

 

 

「聖母の微笑みを記録しておこうと思って。」

 

 

ビデオを撮り続けながら快斗は口元をゆるませた。

 

 

 

「誰が聖母だ。誰が!!」

「し〜。子供たち起きちゃうよ。」

 

ビデオを向けたまま快斗はゆっくり近づくと、今度はUPで子供たちの寝顔をとる。

2人の会話はあったが、どうやら熟睡しているらしく起きる気配はなかった。

 

「かわいいな。」

 

「当たり前だろ。俺と快斗の子供だぜ。」

 

思わず落としそうになったビデオカメラ。

快斗はそれをどうにか手元にとどめると驚いたように傍らの妻を見る。

 

すると、新一はしてやったりという感じでククッと声を押し殺して笑っていた。

 

「新一も、かわいい。」

「も?」

「新一が一番です。」

 

いつもになく甘えモードの新一に快斗の顔はゆるみっぱなしだ。

ビデオカメラを一瞬のうちに消して、そっとその華奢な体を抱きしめる。

 

そしてお互いの視線が混じり合い、距離が縮まった瞬間

 

 

 

「ママ〜。おなか空いた。」

 

あと1cmのところでピタッとお互い止まりおそるおそる横を見れば、

先ほどまで微睡みの中にいた子供たちは

むっくりと起きあがってこちらを見ている。

 

「ママ?何してたの?」

「ゆ、由佳。おなか空いたんだな。今すぐお昼作るから。待ってろよ。」

 

抱きついた快斗の腕から飛び出して顔を真っ赤にしながら

新一は駆け足でキッチンへと消えていく。

 

快斗は急に寒くなった懐に軽くため息をついた。

 

「パパ?」

「ん?」

「寒いなら由佳が暖めてあげる。」

 

 

ポフッと抱きついた由佳は暖かく、快斗は“ま、いっか”と軽く微笑む。

 

 

その後、新一がお昼を作り終えて戻ってきたときには

子供が5人眠っていたとか。

 

そう言えば、子供たちの起きた気配を感じなかったと

不思議に思ったのはまた別の話。

 

END

 

[2]

 

窓先に置いていたシャコバサボテンが見事な花を付けた。

細い緑の茎のような部分に、ピンク色の鮮やかな色が映える。

冬の陽光を浴びて気持ちよさそうに輝いている。

 

由佳はそっとその花にふれる。

クリスマスシーズンに咲くことから別名があったのだが・・・

名前はどうしても思い出すことはできない。

でも、そんなことはどうでも良く感じた。

目の前の花にはシャコバサボテンという名前があるのだから。

 

「何してるんだ?」

「ん〜。私みたいにきれいだと思って。」

「寝言は寝て言え。」

 

リビングに来た雅斗は由佳の返事に呆れてそう呟く。

そして由佳のとなりに立つと同じようにサボテンの花を見つめた。

 

「確かにきれいだな。」

「でしょ。」

「由佳と違って。」

 

憎まれ口を叩いてニッと笑う雅斗を恨めしそうに睨む。

 

“いつもはどんな女性にも歯が浮くような台詞を言うのに、

どうして自分にはこうなのだろう“と由佳は思った。

 

「まぁ、そんな台詞言われる方が怖いか。」

「何の話だ?」

「さぁ。」

 

独り言はどうやら兄の耳に届いていたらしい。

不思議そうに首を傾げる彼に何でもないと付け加える。

 

気持ちのいい窓際の席を陣取って雅斗は雑誌を広げた。

最近のマイブームはスポーツカーの類らしく、その路線の雑誌を良く読んでいる。

時折呟く“欲しいな〜”との言葉も、彼の経済力ならば容易にできそうで

車が増えると困る両親が少しだけ嫌な顔をするのを由佳は知っていた。

 

 

「気持ちよさそうじゃん。」

 

続いてやってきたのは我が家の大黒柱、もとい父親の黒羽快斗。

コーヒーを2つ手に持っているが、

それが由佳や雅斗のものではないことくらい彼らには分かる。

 

おそらく遅れてやってくるであろう母に用意したのだ。

 

「あ、咲いたんだ。」

「うん。」

 

コーヒーをテーブルに置いてシャコバサボテンに快斗もまた近寄る。

 

「気温の変化に弱いから少し心配だったんだけど。良かったな。」

「ねぇ、お父さん。シャコバサボテンって私みたいにきれいだよね?」

 

「まだ言ってる。」

兄からは同意を得られなかった質問を、にっこりと笑顔で尋ねれば

呆れた声がソファーから聞こえた。

 

「きれいって言えば、きれいになるって、園子さんが言ってたし。」

「由佳はきれいでかわいいよ。」

「ありがとう。お父さん。」

 

ムッとむくれて雅斗を睨み付けていた由佳の頭を温かな手が撫でる。

 

「でも、きれいって言ったらきれいになるのか〜。」

「どうかした?」

 

「いや、これ以上新一がきれいになったら害虫駆除が大変だと思って。

 でも、新一に“かわいい”とか“きれい”とか見たら言いたくなるし。

まぁ、日々きれいになってるから、俺の責任じゃないかな〜。」

 

さらっと告げるのはいつもの惚れ気。

昔から変わらず、色あせることない愛情。

いつもならばここから話はさらに続くのだけど、

その前に先日買った新しいクッションが快斗にめがけて飛んでくる。

 

そう、いつのまにやら新一のご登場だ。

 

「快斗。何、子供に言ってるんだ?」

 

笑ってはいるけど、その笑顔は怖い。

 

「どれだけ俺が新一を愛しているか聞かせようと思って♪」

 

悪びれた様子もない快斗にもはや何も言葉は出てこないらしい。

加えて、全力で投げたはずのクッションもいつのまにか消えていて、定位置に戻っている。

 

新一はつきあうだけ無駄だと結論づけたのか置いてあったコーヒーカップを手にとって、

部屋から持ってきたのであろう小説を開くと全身をソファーへと沈めた。

 

「コーヒー、サンキュ。」

「いえいえ。」

 

一口、口に含んで軽く微笑む新一に快斗もにっこりと笑みを返す。

そしてまるで大型犬が飼い主に懐くように素早く新一のとなりに腰を下ろした。

 

「俺、小説読むんだけど。」

「俺は新一を堪能したいの。邪魔しないから。ね?」

 

いつのまにか快斗は新一を自分の膝の間に座らせて

後ろから抱きしめる体制を作っていた。

それに新一は不服を述べるが、うまく丸め込んでギュッと細い腰を抱きしめる。

 

「ま、いっか。」

「ゆっくり読んでね。」

 

暖かい体温を分け合う形が気に入ったのか新一は少しだけ体をよじって

体制を整えると小説本へと意識を向ける。

その間中、快斗は新一の髪を手でといたり、首もとに顔を埋めたりして

文字通り堪能していた。

 

 

 

その後、暖かなリビングには悠斗と由梨もやってきて6人でのんびりと過ごす。

シャコバサボテンに見守られながら。

 

END

 

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