「あ〜、ふってきちゃったな。ランボ?」

「む〜。ランボさん、もう、・・食べれない・・んだもんね。」

「たっく。寝ちゃったのかよ。」

 

聞こえてきた寝言に綱吉は小さくほくそ笑むと、傍の木の下に逃げ込んだ。

1人ならば走っても平気だが、今はランボを背負っている。

出会ってから3年ほど経ったとは言え、

まだまだ小さい彼がこの雨に打たれて体調を崩すとも分からないから。

降り出した雨が少しでも弱くなるまで。

綱吉はそう思って、鉛色の空を見上げた。

 

 

〜玩具の指輪〜

 

 

ランボが遊びに行って帰ってこない。

そう母に言われて家を出たのは、1時間ほど前のこと。

こういうときに、自分の超直感は役立ってくれて、どうにか隣街の公園で泣いているのを見つけた。

自分を見つけた瞬間、名を叫びながら抱きついてきたランボに綱吉が感じたのは愛おしさ。

兄弟がいない自分にとって、彼は弟のようなものだった。

 

ダメツナと蔑まれてきた自分を必死に頼るその小さな手を掴まない理由なんて無くて。

抱き上げてあげれば、暫く泣き続け、泣き止んだかと思えば疲れて眠っていた。

 

ピカッと空が光り、稲妻が空をふたつに割る。

ランボのいた公園は、綱吉も来たことが無く、

小高い丘の上にあったため、遠くの稲妻が町に落ちるのがよく見えた。

 

「雷かぁ。こいつも、雷・・なんだよな。」

 

チラリとヨダレを垂らしている幼子を見て、綱吉は小さく笑う。

もじゃもじゃの頭の中に光る雷のボンゴレリングは、今ではただの玩具のようにも見えた。

持つ人間によって、この指輪は武器にも玩具にもなる。

それならば、ランボが持つことも良いのかもしれない。

 

自分の父親がランボにこれを授けたと知った時、どうして彼を巻き込むのかと思った。

まだ、将来のことも分からない子供に・・・と。

 

指輪の意味を知らない彼は、時折『綺麗だろぉ。ランボさんの宝ものだもんね』と

イーピンに自慢したりしている。そんなランボに嵐の守護者はよく怒っているが。

 

 

雷の守護者は、仲間を守るための避雷針でもあるとリボーンはいう。

もしもの時は、そのダメージを一身に引き受けるのだと。

 

こんなに小さな子供に?

 

冗談じゃない。

 

 

「ランボ。やっぱ、雷の守護者なんておまえには似合わないよ。」

「ラン・・ボさん、強い子だもんね。」

「ランボ?」

「強い子・・リボーンに負けな・・。」

「寝言か。」

 

雨が止む気配は無い。

雷鳴もまた、分厚い雲の中でくすぶっている。

 

「よく考えたら、この木とか落ちそうだよな。」

 

大きな木を見上げて、綱吉は洒落にならないと口元を引きつらせた。

同じように雨宿りをしている鳥は、雷が落ちる前に飛び立つのだろうか。

背中の子供は雷に愛されている子だから心配は無いが。

 

そうなると、1人黒焦げになるのは自分だろう。

 

「それって、すっごい間抜けじゃん。」

「そう思うなら、さっさとそこからどきなよ。」

 

聞こえてきた声に綱吉は視線を木々の茂みから正面へとうつす。

見ると呆れた表情をした雲雀が、傘をさして立っていた。

 

「え?・・・・・・えーー?」

 

「うるさいよ。」

 

「ここ、並盛じゃないですよ!?」

 

自分に会って第一声がそれとは、さすがの雲雀も眉間にシワを寄せる。

 

君の僕の認識って何なの?と。

 

綱吉の驚き様は、まるで陸上を歩く魚を見たかのようで。

雲雀は呆れつつも、軽く傘を動かし、入るように促した。

 

「良いんですか?」

「雷に打たれて死にたいなら、無理にとは言わない。」

「い、いえ。いれさせてください。」

 

そう言うと綱吉は、わたわたと雲雀の隣に並ぶ。

 

彼と相合傘をする日が来るとは・・・。

と、そんなことを思いながらも、感電死を逃れられたので、ひとまず良しとする。

ランボを背中から正面に抱きなおして、雨に濡れないようにしてやった。

 

「でも、どうしてここに?」

「雷の日に大木の下にいる馬鹿が見えたから。」

「ちなみに・・どこから。」

「並盛からだよ。」

 

どう考えても並盛とこの丘との距離はアフリカの原住民でも見えない距離だろう。

だが、それが雲雀恭弥だから、と理由をつけてしまえば、どこか納得できる気もした。

 

「牛が逃げたんだって。」

「迷子ですよ。すっかり寝ちゃってますけどね。」

 

チラリと視線をランボに落として、雲雀はスッとその切れ長の目を細める。

 

「君は彼も連れて行くのかい?」

「・・・いや、ランボには玩具として指輪を持っていて欲しいんで。連れて行きませんよ。」

「ふ〜ん。」

 

聞いておきながら、さして興味は無いのだろう。

綱吉は雲雀らしい返事に、小さく笑みを漏らす。

それに、これ以上突っ込まれたら、上手く応えられるか自信も無かった。

 

 

「指輪は7つもあるんです。1つくらい武器じゃないほうが良いと思います。」

「余裕だね。」

「雲雀さんが来てくれますし。」

「自惚れるんじゃないよ。」

 

丘を下ると、草壁が居て、車の扉を開く。

さすがに片道歩いて1時間を彼が徒歩できたとは思わなかったけど。

それに、雲雀が愛用しているバイクも雨のなかでは濡れてしまう。

 

以前、彼が風邪で入院していたことを思い出して、

綱吉は車に乗り込みながら悪いことをしたなぁと感じた。

 

「沢田さん。これをどうぞ。」

「あ、すみません。」

 

運転席に草壁が、助手席に雲雀が乗る。

どう考えても後部座席に座るなど畏れ多かったが、

雲雀が先に助手席に乗り込んだので、どうしようもなかった。

 

振り返ってタオルを渡してくれる草壁に準備がいいなと感心しつつ

綱吉はランボの髪や身体を拭く。

 

「いつも牛が先なんだね。」

「え?」

「君の優先順位。いや、正確には君自身がいつも最後か。」

「あのぉ。」

「早死にするよ。ボス。」

 

一言そう告げると、雲雀は助手席に身体をうずめた。

それを確認してゆっくりと草壁が車を発進させる。

 

 

早死にするよ。

 

その言葉に、それで良いんです。と綱吉は内心で応える。

自分は大事な人を守るためにイタリアへ行くのだから。

 

 

大事な人に雲雀さんも入ってるっていったら、怒るだろうな。

 

 

そっとランボの髪を撫でる。

こうしていられるのもあと少しだな。なんて思いながら。

 

End