朝焼けの階段を走る。

呼吸するたびに白く吐く息が視界をゆがめた。

今日の気温は久々に氷点下を下回ったらしく、

手袋をつけていない手は氷のように固まっていた。

 

Only one

 

「あら、珍しいわね。ジョギング?」

「たまには。」

 

額に汗で貼り付いた髪の毛を首にかけたタオルで拭いながら、俺は仏頂面で返事を返した。

最近色を塗り替えた鉄製の観音開きの柵から上半身を乗り出す形で灰原は軽くため息を付く。

その息がふわりと白く濁り、すぐに消えた。

 

「まったく、走るなら夏の朝とかにしたらどうなの?もしくは夕方とか。

 まだ10月上旬っていっても、今日は観測史上初の最低気温らしいから。」

 

灰原はそう言って体を震わせ、黄色のガウンを羽織り直した。

確かにポケットに突っ込んでスイッチを入れっぱなしにしていたラジオから

そんなことが聞こえてきていた気もする。

 

全く、世間は温暖化で騒がしいというのに

こんな気候になるとその事実さえ疑わしくなってしまうほどだ。

 

「家に戻ったら汗を流して湯冷めしないようにするのよ。

 それで風邪をひいたら笑ってあげるから。」

「あのなぁ、俺はもう20を越えてるんだぜ。そんなこと言われなくても」

「分かっていないから言っているの。

 私だって言いたくないわ、小学生が大人にお説教じゃ、我ながら虚しいから。

 言われたくなかったら、朝からのジョギングなんてやめなさい。」

 

いつもの鋭い視線とともに告げられる言葉は、いつも以上に重みがあって

俺は思わず視線を逸らす。

灰原の視線は時々自分自身の内心を全て見抜いているような気がする。

今日、ジョギングをした意味も、今、不安に思っていることも。

 

「で、いつから?」

「何が?」

「全てを私の口から言わせる気?」

 

少しだけ灰原の口元がつり上がる。

 

それは彼女の脅しであり、最終警告。

いや、本人はそう思っていないかも知れないが

彼女を知る人間なら、その口元にそんな意味が込められていることは重々承知しているはずだ。

そうでないと、今、この世に存在していないだろうし。

 

「先月・・・くらいから?」

「曖昧な返答ありがとう。まさか、カレンダーにつけてないとか、言わないわよね。」

「うっ。」

 

墓穴を掘った。そう気が付いたときには後の祭りだ。

 

“数年前に女になった俺が、そんな習慣身につけられるか!!”と

叫びたいのは山々だがそれこそ命を捨てる行為だと思い俺はその言葉を飲み込む。

灰原の冷ややかな視線が痛い。

 

「検査するから、早く汗を流して、しっかりと防寒してから来なさい。

 今日は黒羽君、居るんでしょ。雅斗と由佳を置いてジョギングするぐらいなら。」

「ああ。」

「じゃあ・・そうね。黒羽君も連れてきなさい。2人は博士に任せましょう。」

 

灰原は暫く考え込む仕草をすると、さっさと自宅の方へ歩き出した。

それを暫く見つめていたが、俺も慌てて自宅の方へと戻る。

そろそろ快斗も目を覚ましたはずだし。

 

 

まだ1歳数ヶ月の2人は最近よく歩くようになって、

家中の危険物を触らせないようにするだけで一苦労という日々。

お風呂の入り口にも外側からカギを取り付けたり、ストーブ関係は片づけたり・・。

 

そんなことを考えながら澄み切った空を見上げる。

視界の端に見えた屋根の上には雀が数羽、日の光を浴びて遊んでた。

 

 

ぱちっ

 

「いてっ。」

 

ドアノブを掴んだ瞬間に静電気が走る。

この時期にはよくあることだが、つい視界を上に取られて気にせずに掴んでしまったのだ

やはり予想して刺激を受けるのとは場合が違う。ビクッと体が硬直してしまった。

 

「ただいま。」

 

静かな玄関に俺の声は吸い込まれていく。

まだ寝ているのだろうか、家の中は肌寒かった。

俺は体を震わせながらスニーカーを脱ぐ。

どうやら先程の外の会話で体は冷え切ってしまったらしい。

 

「こりゃ、本当に風邪を引くかも・・・って、え?」

 

視界に映ったのは1歳になった一人娘。

ちょこんと座ってニコニコ笑っているのは大変かわいらしいが玄関までどうやって。

確か、二階の部屋に快斗と寝ていたはずだ。

 

 

そしてそれ以前に・・・・・・・気配がなかった。

 

 

「マー。」

「はいはい、抱っこだな。」

 

両手を思いっきり伸ばす娘を抱き上げようとしたが、今更だが俺は汗だく。

抱き上げようにも躊躇してしまう。

 

「マー、マー。」

 

今にも玄関から転げ落ちそうなほど手を伸ばし、必死に抱っこをねだる由佳。

汗だくになっても仕方ないか・・・。

そう思って抱きかかえてやると嬉しそうに笑う。

おそらく由佳にとって汗の匂いなどは特に気にならないのかもしれない。

 

「じゃあ、一緒に入るか。風呂。」

「あーい。」

 

そのまま片手で靴を脱いで、脱衣所まで小走りで行く。

スリッパを履いていない足に板張りの廊下はヒンヤリと冷たかった。

着替えは脱衣所に置いてあるし、湯船にお湯もそろそろ溜まった頃だろう。

走りに行く前にあらかじめセットしていてよかったと自分の行動を誉めてやりたくなった。

 

「ほら、由佳。バンザーイ。」

「あ〜い。」

 

由佳にそう言って両手を上げさせ、上着を脱がせる。

母さんが送ってきた洋服はデザインこそは洒落ているが、

なんとも脱がせにくい服が多いのだ。

母さんに言わせれば少しでもスキンシップが増えるようにとの事らしい。

そのくせ、服を着たらデジカメで写真を撮って送信しろと言うのだから、

真意のほどは容易に予想できる。

 

カラカラと脱衣所から中にはいると、急いで簡単にシャワーを浴び由佳と一緒にお風呂に浸かった。

冷えきった手がジーンと暖まり、由佳は持ち込んだ黄色の“アヒル隊長”で楽しそうに遊んでいる。

数日前に“ペンギンさん”と交代で風呂場に入った新顔だ。

あれほど気に入っていた“ペンギンさん”も今じゃ洗面器の中に寂しく転がっている。

この“アヒル隊長”はいつまで由佳の気を引きつけていられるだろうか。

我ながら突発的な考えにクスリと笑みが漏れた。

 

体を洗い終えて再び湯船に戻り、

俺は由佳が俺の足の上から落ちないよう気をつけながら、

ぼんやりと今度は“見捨てられたペンギン”の事ではなく先程の灰原との会話の事を考える。

 

 

「やっぱ、できたのかな。」

 

密閉された空間に声が反響して独特の響きを持つ。

そんな呟きは由佳にも届いたのか、何が?と不思議そうに大きな2つの目で見上げてくる。

 

俺は由佳のおでこに自分のおでこを押し当ててニコリと微笑んだ。

 

「兄弟ができるかもしんねーぞ。由佳。」

「きょーらい?」

「ああ、お姉ちゃんだ。」

 

由佳は聞き慣れない言葉に小首を傾げた。

まだまだ彼女には難しい話らしい。

暫く考えた仕草をしていたが、すぐに“アヒル隊長”との遊びを再開した。

 

体も幾分暖まったので脱衣所に戻り着替えていたとき、

聞こえてきたのはドタドタと階段を転げ落ちるような音。

いや、正確には慌てた足音だ。

おそらく快斗が目を覚ましたのだろう。

 

「新一っ。由佳っ。」

玄関の方で聞こえるあいつの声。

靴を確認して、今度は居間の方へと向かうのが手に取るように分かる。

まぁ、朝から風呂場・・・なんて寝起きの頭では思いつかないだろうけど。

 

「パー、起きちゃ?」

「ああ、起きたみたいだな。」

「パー♪」

 

脱衣所の扉を開けてやると由佳はトテトテと歩いていく。

もちろん湯冷めしないようにふわふわのウサギのスリッパと、

綿入りの上着を着せてからだが。

 

聞こえてきたスリッパの音に快斗の足音も混ざる。

 

「由佳っ。」

 

まるで数年振りに再開するような大げさな動きで快斗が由佳を抱き上げるのが、

ドアの隙間から見えた。

そして由佳の半乾きの髪を暫く観察して、脱衣場の方に視線を向ける。

途端に俺の大好きな笑顔が視界を埋め尽くして、思わず反射的に扉を閉めた。

まったく結婚して数年経つのに・・・どうしてなれないのだろう。

不意打ちの笑顔はやっぱり苦手だった。

 

「新一♪」

 

カチャリと弾んだ声と共に扉が開く。

きっと俺が照れ隠しで扉を閉めた事なんてあいつには分かりきっている。

俺はきわめて平静を整えようとするが、

灰原との話しもあってなかなかふりかえれなかった。

 

「「マー。」」

足下にくっついてくる4本の手。

雅斗と由佳は不思議そうに足に貼り付いたまま俺の顔を見上げていた。

 

「新一、どうかした?」

いつまでも振り返らない俺を快斗も不審に思ったようで

子供達と同じように下からのぞき込む。

風呂上がりなだけで顔が紅いのではない。

 

妊娠したかも、なんて思っただけで恥ずかしくなったのだ。

 

「新一〜?」

「あ、あのな。」

「うん。」

「灰原が、後で一緒にとなりに来いって。」

 

無意識に俺の手は自分のお腹あたりに動いた。

 

「えっ?新一、どこか調子が悪いの。」

 

快斗の焦った声が伝わったのか、子供達も心配げな顔になる。

 

 

「マー、おにゃか痛い?」

 

俺はブンブンと首を横に振った。

髪に付いた水滴が、真新しい床に飛び散る。

 

 

「その・・・できた・・・かも?」

「うそっ!!」

「いや、だからその検査を今から。」

「うん。じゃあ防寒して4人で行こうっ。あっ、でも新一はしっかり髪を乾かしてから。」

 

本当に嬉しそうな顔の快斗にホッと胸をなで下ろす。

面倒だと思うことはないと思ったけど、

それでも少しは躊躇するのでは無いかと心配だったのだ。

 

 

「さぁ、雅斗、由佳。哀ちゃんのところに行くぞ。」

「「ちゃい」」

「よし、良いお返事。」

 

2人を連れて脱衣所を出ていく快斗は今にもスキップしそうなほど。

俺は快斗の忠告通り髪を急いで乾かして、上着を羽織った。

検査結果が陽性であることを、心のどこかで願いながら。

 

 

 

 

「じゃあ、博士。検診のあいだ、雅斗と由佳をお願いするわ。」

「了解じゃ。」

 

博士は哀にそう返事すると、孫のような存在の2人をギュッと抱きしめて手を振る。

快斗と新一は手を振り替えして、哀に引き続き、地下の検査室へと向かった。

 

「工藤君はそこのベットに寝て。検査するから。」

「ああ。」

 

哀の指示通りに新一は検査室の奥に備え付けられた診察台に横になった。

優作や有希子のお陰で随分と立派になった研究室兼、診察室は、大学病院並の機材が設置してある。

哀はジェルを新一の腹部に塗ると、さっそく検査を始めた。

 

「妊娠、6週目ってところかしら。双子ね。」

 

モニターに映し出される小さな影を観察しながら哀がそうポツリと言葉を漏らす。

快斗も身を乗り出してそのモニターを見つめたが、

どこがどうなっているのかさっぱり分からなかった。

 

「さて、ここからが問題ね。」

検査を終えて、母子共に健康なことが確認できた後、

哀は軽くため息を付くと、診察台に座る新一とその傍に立つ快斗を交互に見据えた。

2人は哀の口か発せられる言葉を緊張した面もちで待っている。

 

「いい、黒羽君。今回は前回以上に工藤君の体調面には配慮して欲しいの。

 年齢も20を越え、体力的にもあの頃と比べたらずっと落ちたはず。

 はっきり言って今回が最後の出産ね。これ以上は無理よ。」

 

 

快斗と新一は黙って頷いた。

哀はそれを確認して、さらに言葉を続ける。

 

 

「もし、今後妊娠した場合は、どんなに嫌がっても中絶を断行するわ。

 それも専門機関じゃないとさすがに無理だから、病院捜しもしなきゃいけない。

 つまり、絶対に今後は妊娠をしないように注意する必要があるの。

 黒羽君だって、工藤君の大切な場所を他の人間に見られたくはないでしょ?」

 

「おい、灰原っ。」

 

「あとは、予防のためにこれを工藤君に用意したの。“ピル”って知ってるかしら?」

 

新一の反論を全く耳に留めることなく

哀は白衣のポケットからピンクのカプセルを取り出して2人に見せた。

快斗はそのひとつを受け取ってまじまじと観察する。

 

「ピルってあの?でも、あれってイギリスのほうじゃ、副作用が問題になってるんじゃ?」

 

そう言って眉を潜めた快斗に哀はゆっくりと頷いた。

 

「ええ。と言っても私が独自に開発した物だから、副作用は無いわ。

 私が危険な物を彼に飲ませるはず無いでしょ。

 それに、一錠につき1週間効果があるから突発的にやったとしても大丈夫だから。」

 

「さっすが哀ちゃん。よく分かってるね。そうなんだよ。

 俺も気をつけているんだけど、新一の誘いには準備をする余裕を失わせ・・・ぐはっ。」

 

弁慶の泣き所・・・いわゆる脛を新一に蹴られて、快斗は声にならない声を発する。

新一はその痛みに涙目になって見上げてくる快斗を威圧的な視線で見下した。

 

「それ以上言ったら殺す。」

「・・・う゛〜〜。だって、嘘じゃないもん。」

「もう一発・・・」

「どうでもいいけど、工藤君。

 貴方、今、私の話を聞いてた?絶対に安静にと言ったでしょ?」

 

にこりと、そんな形容がぴったりな笑顔。

それは本当にさわやかな笑顔だが・・・目が、目が笑ってはいなかった。

新一は再び振り上げようとした足をおろし、快斗も痛い足を押さえながら立ち上がる。

哀は足を組み直し、呆れたように再び思いため息をつく。

本日何度目のため息だろうか。もう、数えることさえ億劫になる。

哀はそんなことを思いながら、立ち上がっると、固まっている快斗と新一に近づいた。

小学校高学年になった哀だが、身長はまだまだ彼らには及ばない。

 

 

見上げる体制になるのはなんだかシャクだわ。

 

 

ジッと見上げる哀に新一は快斗をひじでつついて話しかけるように促す。

快斗はそんな新一に“俺っ?”といった表情で見つめるが、

彼は黙ってこくりと頷いただけだった。

 

「あの・・・哀ちゃん?」

「・・ねぇ。お願いがあるんだけど。」

「何でしょうか。」

「2人とも縮んで。」

「「は?」」

 

哀の突発的な発言に新一までもが唖然とした表情となる。

哀はそんな2人を気にした様子もなく、コツコツと一階に続く階段を上がりはじめた。

 

「じゃあ、黒羽君。体調管理のこと、くれぐれもよろしく。

 それと薬は後日、持っていくわ。」

 

言い忘れたのを思い出したように振り返ると、

哀はそれだけを付け加えて階段の上へと消えていった。

 

快斗達がフロアに戻ってくると、雅斗と由佳が博士の発明品をいじくって遊んでいる。

博士はその傍で自慢げに発明品の説明をしているようだったが、

話はほとんど子供達の耳には届いていないようだった。

 

「つまりじゃな、このボタンを押すと・・・」

「「パーっ、マーっ」」

「ちょっ、雅斗、由佳。まだ説明の途中じゃ。」

 

ポスンと足下にへばりついてきた2人を、快斗と新一はそれぞれ抱き上げる。

そして一人残された博士は、ブリキのロボットのようなおもちゃを片手に

まだ何か言いたげな視線でこちらを見ていた。

 

「博士、また発明品の説明かよ。」

「これは最新作なんじゃ。

 そう言えば、新一も子供の時はほとんどわしの説明何ぞ聞かなかっなぁ。」

「子供にはつまんねーんだよ。」

 

新一は幼いときに散々聞かされた話を思い出しながら苦笑を漏らす。

あの頃は毎日のようにこの家に連れてこられては、

この構造は世界初だの、明日には新聞の一面を飾るだの、

ありもしないことを聞かされていたものだった。

 

人に話したい。その癖は60近くになってもご健在らしい。

 

「なら、快斗君。ひさしぶりにどうじゃ?」

「えっ。」

「だめよ博士。黒羽君はこれから3人の世話をしなきゃいけないんだから。」

 

キッチンからコーヒーを両手に持った哀が顔を出し、

そのコーヒーの一つを博士に渡した。

博士はシュンとしたように頭を垂れるが哀に聞く耳はないらしい。

 

「そうそう、前回も言ったけどコーヒーも控えてね。」

「マジ?」

「私が体調管理について嘘を付いたことがあるかしら?」

 

コーヒーカップに口を付けたまま、哀は視線を少しだけ上へとずらす。

そしてかち合った視線に新一は口を噤んだ。

 

「それじゃあ、そろそろ戻るね。」

「定期検診、忘れないでちょうだい。」

OK。ありがと、哀ちゃん。」

 

バタンと、扉が閉まり阿笠邸は再び静かな空間に包まれる。

時計を見れば朝の9時。

きっと家に帰れば、雅斗や由佳は再び眠るだろう。

先程もしきりに目の辺りを手で触っていたのだし。

博士はそんなことをぼんやり考えながらコーヒを口へと運ぶ。

 

「静かじゃな。哀君。」

「ええ、静かね。」

 

トラブルばかりを持ち込むお隣さんだけれど・・・また来て欲しいと思うのは確か。

 

 

 

 

 

 

ソファーで眠ってしまった雅斗と由佳に

ふかふかのブルーの毛布と、ピンクの毛布をかけて

新一は眠っている2人のぷにぷにとした肌をつっついた。

生まれてからもうすぐ1年と半分たとうとする2人はしっかりと成長し続け

最近では簡単な言葉も喋ることができる。

 

「寝ちゃった?」

「ああ、朝が早かったからな。」

「じゃあ、ベットに運ばないとね。新一は、ガウンをきて、これ、飲んでて。」

 

新一は快斗から手渡されたガウンを着ると、

テーブルに置かれたカップの中身に眉をひそめる。

カップの中でゆらゆらと波を立てている液体は、

自分が好きな焦げ茶色ではなく混じりっけのないまっ白。

 

「なんか、不満そうだね。」

「別に。」

 

快斗はカップに渋々と言った感じで手を伸ばす新一に苦笑を漏らした。

前回の雅斗や由佳を出産する前の、

ずっとコーヒー断ちを行ってきた苦い記憶がよみがえったのだろう。

 

新一の表情は暗い。

 

「俺も我慢するんだしさ。新一も子供のためだと思って。」

「お前が何を我慢するんだよ。」

 

ギロリと睨み付けてくる新一に快斗は困ったようにこめかみを掻いた。

 

「そりゃ・・・まぁ。」

 

“新一との夫婦の営みに決まってるだろ。”

と喉まででかっかった言葉。

 

だが、それを口にすることはできない。

なぜなら、哀に先程くだらない小競り合いはやめろと忠告を受けたのだ。

照れる新一も好きなのだが、子供のためと思って我慢しなくてはならないだろう。

 

「さて、2人の天使さん。二階で寝ような。」

「おいっ。快斗。」

 

質問をうまくはぐらかすと快斗は器用に子供達を抱きかかえる。

新一は子供達を抱き上げた彼を引き留めることができるはずもなく

不満げな表情で見送るのだった。

 

 

 

Back