〜光と陰と〜・・・中編

 

それから数分後、快斗達が体育館へ入った瞬間、目にしたのは

どこかに電話をかけている新一と、最近この学校へ赴任してきた体育教師が

ステージでのびている姿だった。

 

体育教師の顔にはくっきりとボールが当たった跡が残っており、

そばにはその跡を付けたであろうバレーボールが転がっている。

青子以外はその状況から、自分たちがここに来るまでに何が起こったのかだいたい把握していた。

 

新一は入ってきた4人に一瞬視線を向けたものの

特に眼中に入っていないらしく電話の相手と会話を続ける。

 

「だから、悪かったって。」

『哀君はカンカンに怒っとるぞ。だいたい、新一は一昨日まで熱があったんじゃし。』

「しょうがねーだろ。とにかく今から帰るから。」

 

 

『博士が今から行くからそこで待ってなさい。』

 

 

博士の説教を聞いていたはずだったのに、いつの間に変わったのだろうか、

電話の先から返ってきたのは哀の声だった。

さすがにそれに驚いた新一は危うく携帯電話を床へと落としそうになる。

 

「灰原。いつの間に・・・。」

『声からして、少し貧血気味のようね。怪我でもしたんでしょ?』

 

新一は哀の的を得た言葉に返事を返せなくなってしまった。

彼女にはどんなポーカーフェイスもごまかしも通用しない。

 

それは、哀がそれだけ新一のことに関しては全神経を研ぎ澄ませて察知しているからなのだが、

新一は未だ、なぜ哀が自分の体調を声だけで判断することが出来るのか不思議でたまらなかった。

 

黙り込んでしまった新一の態度に、哀は図星だと悟ると

呆れたようなため息をひとつ、ついて話を続ける。

 

『とにかく、警察が来る前に裏門にでも向かって。

江古田高校までなら車を飛ばして10分くらいだからもうじきつく頃だと思うわ。』

「分かった。それと、灰原・・・・心配かけて悪かったな。」

『・・・そう思うなら少しは自重してちょうだい。』

 

快斗達は新一の電話が終わるのをしばらくそこで待っていた。

体育教師の彼が犯人かどうか分からないためヘタに動くことが出来ないし、

かといって、彼の電話での会話を遮ることも出来ないからだ。

 

新一が携帯を無作法にポケットに突っ込むのを確認して声をかけたのは白馬だった。

 

「工藤君。彼が犯人だったのですか?」

「あ、ああ。そうだけど。おまえ、どっかで会ったっけ?」

 

見覚えのある顔に、新一は顎に手を当てるおきまりの推理ポーズとなる。

それに、白馬は自己紹介もせずに話しをしていることに気づいて慌てて名前を述べた。

 

「工藤君と同じ探偵の白馬探です。」

「ああ、それでか。探偵ならちょうど良い。

白馬、悪いけど犯人をもうすぐ来る警察に引き渡しといてくれないか?

いっときは目を覚まさないと思うし。」

 

新一はそれだけ言うと、4人の横を足早に通り過ぎる。

そして、彼はそのまま体育館をでていく・・・・・はずだった。

 

新一は強い力で腕を引かれ、振り向くとそこには長い髪をした女子生徒、

つまり4人のうちの1人がいた。

 

 

「なんだ?」

 

怪我をしている腕を捕まれたために、新一は一瞬、電撃のようにからだじゅうにはしった痛みに

顔をゆがめる。だが、彼女はそれを気にすることなく不適に微笑んだ。

 

「はじめまして、光の魔人さん。なぜ警察に会わないの?それとも会えないのかしら?」

 

紅子の言葉に新一は惚けた表情となったが、

彼女の言いたい意味が分かると、紅子に負けない不適な笑みを作る。

それは、あまりにも綺麗で、ふっかけた紅子でさえ、見惚れてしまうほどだった。

 

「・・・確かに、その通りだ。」

「そう。傷、お大事に。呼び止めて悪かったわね。」

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どういうことか全く分かんないんだけど!!!」

 

 

新一が体育館から去ったあと、警察が入れ違いのようにやってきて体育教師を連れて行った。

 

そして、新一が犯人逮捕を行ったのだと話すと、一人の若い刑事は慌てたように

今、電話をかけている。

 

それがなぜなのか、青子にはさっぱり理解できなくて、白馬と快斗と紅子の前に仁王立ちで立つと、

“青子にも分かるように説明して”とばかりに声を張り上げた。

 

「やっぱり、アホ子で決定だな。」

「快斗、ちゃかさないで教えてよ。犯人はあの先生だったとして、

なんで工藤君はさっさと帰っちゃったわけ?

おまけに、警察はなんで工藤君の名前を出した途端にこんな、取り乱してるの?」

 

青子の言うとおり、“日本警察の今後は大丈夫か?”というほど、

警察の慌てかたは尋常ではなかった。

例えれば、時効直前の犯人が捕まったとか、大量殺人が行われたのを聞いたときのように。

そこから考えると一人の高校生探偵にどうして警察がこれほど慌てるのだろう?と

疑問に思うのはいたって普通の行為だろう。

 

だが、必ずしも青子が尋ねた彼らがその答えを知っているとは言えないのも又事実。

 

「黒羽君はそう聞くのがおかしいって言っているのよ。

この状況からじゃ、警察が彼を捜しているということと

警察に連絡したのは工藤君では無かったということくらいしか判断できないわ。」

 

 

「ちょっと君たち、話を伺っても良いかな?」

 

視線を向けた先には先程の刑事が黒い警察手帳を片手に持って立っていた。

 

「僕は、この事件を担当している高木って言うんだけれど、その話を聞きたいんだ。」

「良いですけど、オレ達、誘拐事件について知っていることなんてありませんよ。」

 

ぺらぺらと紙をめくって、メモを取る準備をしながら尋ねる高木刑事に

快斗はてっきり誘拐事件についてだと思いそう返事を返す。

だが、高木刑事は“いや、工藤君のことについてなんだ”と苦笑いしながらそう言った。

 

普通なら今回の組織ぐるみの誘拐事件を調べるはずなのに、

一人の高校生について聞きたいとは一体全体どういうことなのなのか?と

4人の疑問はふくらんでいく。

 

「工藤君がどこに行ったのかしらないかい?」

「しりませんけど、どうして一人の高校生のことがそんなに気がかりなんですか?」

 

思い切って疑問をぶつけてきた快斗に高木刑事は困ったように頭をかいた。

横を見れば、千葉刑事と名乗った刑事も困った表情をしている。

 

「と、とにかく、知らないなら良いんだ。悪かったね、もう帰って良いよ。」

 

刑事2人はそれだけ言い残すと快斗達の質問から逃げるようにその場から立ち去ってしまった。

 

 

 

 

そんな、警察をもほんろうさせる“工藤新一”に興味を持ったあの事件から、

1週間がたったころ、快斗は夜の仕事を行う日を迎えていた。

 

確かに、“工藤新一”については興味はあるが今はそれどころではない。

 

「黒羽君、今日は帰り道に光の魔人と会えるはずよ。」

「警察から逃げてる奴と学校の帰りに会うって?」

「あら、仕事の帰りによ。」

「意味が分かりませ〜ん。」

「そう。」

 

紅子は快斗の予想通りの返事にクスクスと笑いながら、

“光の魔人さんによろしくね”とだけ付け加えて自分の席へと戻っていった。

 

そして、紅子って本当に魔女か?と思ったのはそれから5時間ほど後のこと。

帰り道に、確かに彼は逃走ルートの屋上に立っていた。

 

「1週間ぶりだな。KID。」

「これはこれは名探偵。もう復帰なされたのですね。

ところで、1週間振りとはどういう意味か分かりかねますが。」

 

新一の言葉に一瞬、脈が上がったがそれは親譲りのポーカーフェイスが巧みにカバーしてくれたので

直ぐさま平常心となる。

 

KIDはとりあえず新一が見える位置まで近づくと手すりに上半身を預けた。

 

「まあ、いい。今日はKID終了の日だ。正体だけは謎にしておいてやるよ。」

 

「名探偵に捕まるとでも言うのですか?」

 

「いや、お前が自主的に止めるんだよ。これを捜していたんだろう?」

 

手のひらサイズの物体がKIDの前まで飛んできて、

KIDはとりあえずそれを受け取った。

そして、これは何なのだと疑惑の視線を向ける。

もし、自分がKIDを止める理由となる物体ならそれはりっぱなビッグジェルのはずだ。

 

「宝石なんてもとはただの石だ。疑うのなら月にかざして見ろよ。」

 

確かに新一の言うとおり、石は磨かれてりっぱな宝石となる。

 

ビッグジェルの中にパンドラがあるとしても、

そのビッグジェルがまだ磨かれていない、原石だったら?

 

KIDは平常を装いながらも、新一の言うとおりその原石を月へとかざす。

期限の切れた石から永遠の命を授かることはなかったが、確かにその中は紅く輝いていた

 

どんな、原石や宝石にもあり得るはずもない輝きかたがそれは本物だと示している。

 

「いったいこれをどこで・・・。」

「それを渡すために今日はここに来た。

詳しいことを知りたいのなら俺の居場所を突き止めて見ろよ。

天才的マジシャン黒羽盗一の息子であり2代目KIDの黒羽快斗。」

 

投げつけられた言葉の挑戦状をKIDはいや、快斗はしっかりと心で受け取る。

去っていく彼の背中を見送りながら、必ず見つけだしてやると快斗は新たな目標を立てるのだった。

 

 

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