新一は学校からの帰り道、ショーウィンドウの前で立ち止まっていた。

ジッと見つめるのは白くてふわふわした物体。

 

 

△ふわふわ▽

 

 

「新一、何見てるの?」

「あ、いや・・・何でもねーよ。それより電話終わったのか?」

「うん。明日のデートのお誘いだった♪」

「そりゃ良かったな。」

 

後ろから突然尋ねてきた蘭に、自分が見ていた物を悟られないように、

歩きながら話題を変える。

蘭の言うデートを誘った人とはおそらく別居中の彼女の母親だ。

 

途中で蘭と分かれた後、新一は今まで歩いてきた道をもう一度戻り始めた。

どうしても気になる、あの白い物体。

初めて見たのは3日前の雨の日だっただろうか?

それ以来、寝ても覚めてもあの物体が

目の前で浮遊しているように見えてしまうのだ。

 

 

「なんで、こんなのが欲しいんだ?」

 

新一は先程いた場所に戻ってきて、その物体がまだ売れていないことに

ホッとため息をつく。そして、そんな自分の態度に

よっぽどこの物体が欲しいのだと気づかされた。

 

今まで、推理小説以外、物に執着しなかった新一にとっては珍しい限りだ。

 

 

「プレゼントとして買えば、問題ないよな?」

CMではないが、あの哀愁のある瞳に見つめられると

金縛りにあったように全身が動かなくなってしまう。

そんな感じだった。

 

木製のドアを開けて、中に入れば数人の女性が楽しそうに品物を眺めている。

アンティークな置物など、いかにも女性向きの商品ばかりだった。

とてつもない居心地の悪さを感じながらも、新一は目当ての物体を手に取る。

 

指の間を抜ける少し癖のあるさわり心地。

以前にもこの指で同じ感触を味わったことがあるきがする。

それはいったい何だったのかは思い出せないが・・・。

 

 

「プレゼントでお願いします。」

 

店中の客に聞こえるように少し大きめの声でそう言えば、

女性の店員が愛想笑いと共に返事を返す。

包装された品物を受け取った瞬間、何とも言えない安心感があった。

 

 

鞄の中に入れてあるし、包装もしてあるので

誰かに見られるはずはないのだが、新一は誰かに買った物が

ばれるのが心配で、周りに視線を配りながら帰路を急いだ。

 

家の中に入って、ようやく全身の緊張感がとれる。

 

「あほくせぇ・・。」

馬鹿みたいに緊張している自分に気づいて、思わず笑いがこみ上げてきた。

どんな事件に向き合ったときも、興奮は感じても緊張は感じたことがない。

それが、こんな白い物体に振り回されるとは・・・。

 

新一はとりあえず包装用紙を開けて、その物体を持ち上げる。

ダラ〜ンと耳が垂れて大きな目を隠しているが、なんとも和む小品だ。

イスに腰掛けて、白い物体をテーブルにちょこんと乗せて、ジッと見つめる。

 

 

「お前が俺を呼んだのか?」

「そうだよ♪」

 

ガッターン

 

帰ってくるはずのない返事に、新一は思わずイスから転げ落ちる。

それと共に、聞こえるのは同居人の笑い声。

 

「快斗!!」

「わりぃ、新一。だって、あんまり面白い反応するから。」

ゲラゲラと笑う快斗に一発蹴りを入れようと新一は足を後ろへ振り上げた。

それを、見た快斗は慌てて白い物体を盾にする。

 

「おまえっ、卑怯だぞ。」

「新一がこの頃上の空だと思ったら、こいつに浮気してたんだねぇ〜。」

「おまえ、俺のこと馬鹿にしてるだろ?」

「うんや、俺と一緒だっておもっただけ。」

予想外の言葉と共に、いつのまにか快斗の腕の中には

自分が買った物体とは形の違う物体がちょこんとおさまっていた。

 

「ネコ・・のぬいぐるみ?」

「そっ、新一君に似ていたから今日買ってきたんだ。可愛いでしょ?」

 

真っ白な毛並みに蒼い目をした小さめのぬいぐるみ。

いったいどこが似ているんだと思いつつも、

新一はふと、自分があの物体に引かれた理由にようやく気がついた。

 

群青色の瞳に真っ白な毛並み。それにあのさわり心地は・・・。

 

「新一はどうしてこれ?」

「・・・お前に似ているから。」

 

快斗にそのウサギは似ていると思ったんだ。

寂しげな瞳が、その白い色が。

癖のあるさわり心地が・・・。

あんな狭いショーウィンドウは似合わない。

 

「ウサギって、寂しいと死んじゃうんだって。知ってた?」

「ネコは死ぬ前に姿を消すって、知ってたか?」

 

お互い買ってきたぬいぐるみを眺めながら、

視線を合わせることなく同時に発する言葉。

 

「新一がいるなら寂しくはないよ。」

「なら快斗が寂しくならないように

俺はお前の隣にずっといてやらなきゃなのか?」

「もちろん、寂しがり屋のウサギは死んじゃうからね。」

 

“めんどうだ”とばかりに返事を返す新一に

快斗は苦笑しながらわざと甘えた声を出す。

そして、どちらともなく笑い出した。

 

 

「やっぱ、ウサギだな。快斗は。」

新一が呆れながら手の中の白ウサギをテレビの上にちょこんとおくと、

 

「新一はネコだよね。気まぐれなところまでそっくりだ。」

快斗は苦笑しながらそのウサギのとなりに白ネコをおく。

 

 

「でも、ネコな新一も好きだけど、死ぬときは俺の傍でね?」

「じゃあ、俺が死んだとしても寂しくて死ぬんじゃねーぞ。」

 

ずいぶんと細くなった新一の体を後ろから抱きしめて、

そのストレートでサラサラの髪に顔を埋める。

新一はそんな快斗の髪の毛をクシャリと撫でた。

あの、ウサギのぬいぐるみと同じ手触りだが、

やはりこちらの方が暖かみがある。

 

「難しい事いうなぁ〜新一君は。俺はウサギなのに。」

「なら、俺もネコみたいに死ぬときはどっかに行くぜ?」

「それだけは、嫌だ。」

「我が儘野郎。」

「・・・約束するよ。

俺はウサギでもなくKIDでもなく黒羽快斗だからね。」

「ウサギの白にKIDを重ねたこと、分かったのか?やっぱ。」

 

腕をふりほどいて、顔をのぞき込んでみれば

少し不機嫌な表情が視界に広がる。

KIDももちろん快斗の一部なのだが、

そう簡単に割り切れないと言う気持ちは新一自身よく分かっていた。

 

コナンは自分であって自分ではなかったから。

 

「快斗・・。」

「ん?」

 

呼ばれて視線を交えれば、口元に感じる暖かい感触。

久しぶりの新一からのキスだった。

 

「・・・約束、守れよ。」

「新一もね。」

 

 

 

テレビの上に仲良く寄り添うように並んだ真っ白なふわふわの物体を

哀が見つけたのはその数日後。

 

あとがき

なんか、のんびりしたのを書きたいと思ったら

死にネタっぽくなっちゃいました。

しかも、よくあるウサギネタ。ベターだな・・・。

 

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