好きな色で好きな絵を描きましょう。 そんなことを、幼稚園で言われて悠斗はふと思った。 「白が好きならどんな絵をかけばいいの?」と。 〜好きな色〜 「こんにちは、遅くなりました。」 幼稚園に迎えに来た新一に、保育士の先生は子供たちを呼んだ。 遊び盛りの4人は、先生の声に慌てたように走って出てくる。 それぞれ、黄色の肩掛け鞄を持って。 「あら、今日はお父様もご一緒なんですね。」 遅れてやってきた快斗を見て、先生は柔らかな笑顔を浮かべると 側にいる子供たちに“良かったね。パパもママも来てくれて”と声をかける。 「快斗。早かったんだな。」 「うん。たまには4人で帰ろうと思って。」 「パパ、お帰り。」 トテトテと駆け寄ってくる由佳を、ひょいっと抱き上げて“ただいま”と告げる。 すると由佳はごそごそと黄色いバックの中から白い画用紙を抜き出した。 「ほら、絵を描いたの。好きな色で描きなさいって先生が。」 見ればピンク色で描かれたウサギが白いが用紙いっぱいに楽しそうに遊んでいる。 「へ〜上手だな。由佳。」 「えへへ。」 「パパ僕も。青色でね海と空を描いたんだ。」 「・・・海?」 白いが用紙一面は蒼く塗られて、いったいどこから海なのか空なのか まったく見分けが付かない。 雅斗はくるりと横を向いて、今度は新一にその絵を見せる。 「蒼はね。お母さんの色。」 「あ、そっか。」 「お母さん大好きだから。」 「ありがとな。雅斗。」 新一はそうかわいく微笑む息子を抱き上げて、コツンとおでこをあわせた。 それにムッとするのは、もちろん旦那で・・・。 「お父さん、私のも見て。」 「由梨は何を描いたのかな・・・・。」 「お上手ですよね。お魚。こんなにリアルに描けるなんて。 でも、悠斗君はこれを見て泣いていましたけど。お魚苦手なんですか? あれ、黒羽さん?」 先生も悪気はないのだろう。 ただ、幼稚園児にしてはあまりにもリアルな魚の絵を誉めただけなのだから。 鱗一枚一枚の光具合も、血走った目も、しっかりと細かく描いてある大作を。 「由梨ちゃん、嫌がらせ?」 「・・・。」 その言葉に含み笑いした由梨に新一は苦笑を漏らすしかなかった。 子供たちの絵を見ながら、新一はさきほどからおとなしい悠斗を見る。 黙ってうつむいたまま、白いが用紙を握りしめている彼。 どうしたのだろうか?新一が不思議そうに視線を先生に向けると 彼女は困ったような表情を作った。 「悠斗君、白が好きなんですって。 だけど、白いが用紙には白いクレヨンはつかなくって。」 「ああ、それで。じゃあ、悠斗も同じなんだな。」 「え?」 「俺も白が好きなんだ。」 ふわりと微笑んで腰をかがめると、新一はそっと悠斗の頭を撫でる。 「でも、白じゃ、絵が描けないよ。」 「う〜ん。白に白はつかないけど、プラスチックとか黒い画用紙なら絵を描けるぞ。」 「「あっ」」 新一の言葉に、悠斗と先生は驚いたように声をあげる。 確かに白い画用紙には白はつかないけど・・・。 「今日、帰ったら白で好きな絵を描いて、先生に見せてあげような。」 「うん。」 「すみません。気が付かなくて。」 「いいんですよ。それにしても、どうして白が好きなんだ?」 悠斗は新一の言葉に微笑んで、そっと耳打ちした。 だって、お父さんが白の衣装でステージに立つとかっこいいんだもん。 あっ、お父さんには内緒ね。 唇の前に人差し指をたてる悠斗に軽く新一は頷く。 それに、周りにいた子供たちや快斗は首を傾げた。 「で、快斗の好きな色は?」 「う〜ん。やっぱ蒼だね。」 そう言って見上げた空は、突き抜けるように青かった。 +御礼+ 拍手でのリクエストありがとうございました。 |