◇いつもそばにいて◇ 「あーーっ!新一何してンの!」 ソファーに腰掛けて、入れたばかりのコーヒーを飲んでいた新一に向かって、 洗濯物を干し終わって戻ってきた快斗が、突然絶叫を上げた。 「なにが?」 いきなりの大声にびっくりしながら、キョトンとなって聞き返す。 「だからなんでリビングにいるのさ?!」 「自分んちのリビングにいて何が悪い?」 しゃあしゃあとそう言いながら、コーヒーカップをテーブルに置く。 「そういうことじゃなくってっ、二階で大人しくしてろって言わなかった? 階段一人で降りてくるの危ないだろ!」 「コーヒーが飲みたくなったんだよ」 「なんでさっき俺が様子見に行ったときに言わないんだよっ」 「さっきはそう思わなかっただけだ」 とどまることがない快斗の勢いに、しかし、新一は、つーんと言い返した。 「…もう…無茶しないでよ」 そんな様子の新一にため息を零しながら快斗は脱力してしまう。 だが、快斗は次の新一の言葉にプツリときてしまった。 「大げさなんだよ快斗は。少し捻挫しただけだろう?」 「す…こしっ!?いったい何を見て言ってんのさ!」 「これやったのも、犯人追いかけてだろ? 自分がしてることがどんなに危険なことだって自覚ある?」 「いつもいつも無茶して、どれだけこっちが心配してるか本当に分かってるか? 探偵してるのは危険と隣りあわせだって分かってるけどっ、 新一はもっと自分を大事にするべき!」 新一が口を挟む間もなく、快斗は怒涛のように言い募った。 自分の身を顧みない新一に対して、今回に限って怒りを抑えられなかった。 怪我を負って帰ってくるのはしょっちゅうで、その度に心臓がつぶれそうになるほど心配 している快斗としては、先ほどの“大げさすぎ”という言葉にカチンときてしまったのだ。 確かにいまのだって些細なことなのに、ここまで言うことはないと思ったのは、 全てを言い終えた後だった。 「…‥」 うつむいて、何も言わなくなってしまった新一。 「新一…?」 新一の様子がおかしいと、今更になって快斗は気付いた。 「…‥も、いい…わかった。部屋もどる…っ」 急に立ち上がろうとした新一を、すばやく快斗が押しとめる。 「どうしたの?新一?」 再度座らせた新一の正面に膝をつき、快斗は新一の顔を窺おうとした。 が、それを新一は首を振って抵抗する。 「新一?」 「放せよっ」 身をよじって抵抗する。 しかし、こんな状態の新一を快斗が放って置くわけがない。 気が高ぶっているらしい新一を何とか落ち着かせようと、 快斗は掴んでいた手をぎゅっと握ったり、摩ったりする。 「新一…」 再び新一に返事を促す。 「……………なんか……」 いくらかたった後、新一がようやく口を開く。 「うん?」 さっきまでの激昂とは違い、快斗はやさしく促す。 「なんか…ただ、上にいるのやだったから…」 たどたどと話す。 「上、静かすぎ…て…一人」 「新…一…」 何を言いたいのかが思い当たって快斗は言葉をなくす。 「なの…にっ、お前…っおこっるっ…し…っ」 ポタっ…ポタっ… 快斗の手に雫が落ちる。 嗚咽でうまく話せなくなっている新一。 「新一っ」 泣き出してしまった新一に、快斗は思わず抱きしめた。 普段の新一に見られないほどの脆さが、 いや、隠されていた脆さが今日はなぜだかそのまま出てしまっている。 新一は、一人で自分のベットに寝ているのが嫌で、静かすぎる部屋が嫌で、 快斗の気配を求めて一階に下りてきたのだ。コーヒーが飲みたくなったなどと 言い分けしながら、その実、快斗の気配を少しでも近くで感じたくて。 「ごめんっ、ごめんね新一。気づいてあげられなくてごめん。新一、泣かないで」 快斗は抱きしめた腕に力を込める。 「うーっ……気にっかけて、もらってる、のっわかっ…て、るっ」 そんな快斗の肩口に頭を押し付け、必死に訴える新一。 「ど、してもっ自分、の安全…っこと、忘れ、ちゃっだもっ」 「うん。わかってる新一。強く言ってごめん。俺ほんと新一のこと心配でさ、犯人に平気で 啖呵きるし、とっさに行動するし、正直気が気じゃないんだよ。新一が出かけてるとき」 震える背中を摩りながら、片方の手は顔に添えて上向かせ、 瞼や頬、鼻や耳、そして唇にいとしい思いを込めてキスを散らす。 「新一がいなくなったら、俺、間違いなく生きていけないよ…」 「ん…っ」 「だからね、新一は怪我しちゃ駄目なんだよ。自分のこと忘れちゃうんだったら、 俺のことを思い出して。必ず俺のところに戻ってきて。そしたら許してあげるから」 「……おまえ、うぬぼれすぎ…勝手すぎ…」 大分落ち着いてきた新一が言い返してきた。 「ええ?そうなの、新一?」 この状況に陥っていること自体、十分に快斗が自惚れる要素が沢山あるのだが、 そのことに気づいていない新一。 そんな新一が愛しくて愛しくて、快斗は微笑を隠せない。 そして、それ以上質問で追い詰めることはやめた。 珍しく素直で可愛い新一をからかうのは忍びない。 「俺は新一をなんとしても失くせないんだよ?覚えておいて」 「……おまえも、帰って来い。…俺のとこに」 小さく、小さくつぶやかれた新一の言葉。 もちろんそれは、快斗にはっきり聞こえていて… 「しんいちーっ!」 「うわっ」 感極まった快斗は、新一をそのままソファーに押し倒したのだった。 Fin 〜あとがき的言い訳〜 すみません。すみません。こんなものを書いてしまってすみません(汗) どうしましょうこの二人。もはやラブラブ過ぎて作者さえも手におえません。 どうか初書きだと思って見逃してくださいませ(愛想笑い)。 精進せねば精進せねば。 |