鰯雲

 

買い物に出かけようと先に言ったのは新一だったか快斗だったか。

2人は澄んだ秋空の元、子ども4人を引き連れて川端の土手を歩いていた。

 

優作が雅斗と由佳が生まれたときに贈ってくれた双子用の

ベビーカーには、今年生まれた悠斗と由梨が乗っていて仲良く睡眠をとっていた。

 

それを押すのはお兄ちゃん、お姉ちゃんがすっかり身に付いた雅斗と由佳。

年の差は実質1歳なのだが、4月生まれの雅斗と由佳、

3月生まれの悠斗と由梨なのですぐに年の差は2歳になってしまうのだ。

 

そんな子ども達の後ろを歩くのは、彼らの両親である快斗と新一。

ちなみに快斗は両手に大量の食料品の入ったビニール袋をぶら下げている。

 

「ママ。あのくも。おもしろいね。」

前で必死にベビーカーを押していた由佳がふと立ち止まって、新一のそばまで走り寄る。

そして、空を見上げて秋特有の雲を指さした。

 

「ああ、鰯雲か。」

「いわし?」

 

新一は由佳と同じように空を仰いで合点が言ったようにそう呟いた。

空を見上げることなど日常では無と化してしまっているので、

“久しぶりにあの雲を見たな”っと新一は感じる。

 

子どもの視点はやはり大人には興味深い物だ。

だが、そんな和やかな会話も快斗にとっては地獄である。

急にスーパーの袋をその場に置いて耳を押さえた快斗に由梨は不思議そうな視線を向けた

 

「パパ、いわしぐも嫌い?」

「由佳。良い子だから、その物体の名は口にしないで。なっ?」

「「いわし!!」」

子どもとは、するなと言われたことをしたい生き物である。

由佳は怖がる快斗を面白く感じたのか、大きな声でそう叫んだ。

それを横目で見ていた雅斗も由佳と声を交えて名前を叫ぶ。

 

「雅斗、由佳。あれは別名、鱗雲っても言うんだぞ。」

「「うろこ〜♪」」

「うわ〜。お願いだから。」

 

魚嫌いは、よく鱗の光る部分が気色悪いと言ってもっとも嫌う。

もちろん快斗は魚全てが嫌いなのだが、特に鱗も苦手だった。

 

「いわし♪」

「うろっこ♪」

雅斗と由佳はそれぞれ楽しそうにその名を連呼して、土手を駆け下りた。

快斗は2人をどうにか黙らせようと必死で追いかける。

 

「しょうがない兄ちゃん達とお父さんだな。」

 

その場に残された新一は苦笑しながら、未だに眠る悠斗と由梨の髪を撫でた。

その時、間近で2人の顔をのぞき込んだ新一は、今までおとなしく眠っていたはずの

悠斗の様子がおかしいことに気づく。

目を少し開けた瞳には涙が一杯たまっていた。

 

「ひょっとして、悠斗も魚が苦手なのか?」

「ウ、ウエ〜〜〜〜〜ン」

 

新一の言葉で途端に泣き出す悠斗。

雅斗と由佳に快斗の魚嫌いが遺伝していなかったのでまさかとは思ったが・・・。

新一はとりあえず悠斗を抱きかかえると必死にあやす。

これからは、カルシウムは牛乳で摂取させるしかないなと思いながら。

 

「ようやく、泣きやんだか。あれ?由梨起きていたのか?」

「ちゃ・・・か・・・・な。」

「ヒック、ヒック。」

「うわ〜、悠斗、もう泣くな。それに由梨、

おまえ生まれて初めての言葉が魚って性格悪すぎるぞ。」

 

しっかり性格のあくどさまで遺伝している子ども達に自分のことは棚に上げて、

新一は深刻にこれからの躾をどうしようかと思い悩む。

 

遠くではまだ、快斗VS雅斗と由佳の追いかけっこが続いている。

 

突き抜けるような秋空の元、のんびりと流れてゆく鰯雲。

その下では、我が子に遊ばれている両親がいたとかいないとか。

 

あとがき

めちゃくちゃ短編。おまけに季節感ナッシング。

笑って読み流してください。

 

 

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