寒々しい夜には月がよく際だつ。

新一はガラス張りの天井から見える夜空を見上げ、

ほそく微笑むと、エレベーターに乗り込み最上階のボタンを押した。

 

 

◇カグヤ◇

 

 

「ただいま・・・平(ヘイ)、白(ハク)。」

「遅かったな〜、工藤。」

「学校はどうでしたか?」

 

パタパタと羽の生えた両手におさまるくらいの黒竜と白竜が

新一の鞄とコートを受け取る。

2匹が自室へ道具を持っていってくれるのを見送ると、新一は再び月を見つめた。

 

あの月からこの地に降りたって、はや10年。

すっかり慣れた一人暮らし。

といっても、小さい頃からの付き人の平と白も一緒なんだが。

 

 

 

月の都は地球人の知っている場所とは違う場所にある。

月は単なるゲートであり、その奥に大きな都、月都(ツキミヤ)があるのだ。

数百年前に都王を激憤させその月都から追い出された都王の一人娘“カグヤ”

彼女は罰を終え、月都へ帰る許しが出て戻ってきたはずなのに

地球人の“帝”という人物を恋慕い続けた。

その思いはどこまでも深く、ついには病で死んでしまったという話しを

月都で知らない者はいない。

 

怨念にも近い、恋心はついには数百年の時を経て、月都に大きな災いをもたらし始めた。

数十年にも及ぶ、不作や内乱、飢餓に犯罪。

その、原因は帝と引き離した“カグヤ”の都王への恨み。

 

彼女の怨念を断ち切るには、“カグヤ”の生まれ変わりある者が、

“帝”の生まれ変わりである者と結ばれるしかなかった。

そしてその、“カグヤ”の生まれ変わりが・・・35代目都王優作の息子“シン”。

 

 

 

「てか、男の俺には無理があるだろ?」

「まあ、月には性別ちゅうもんは、あんまりないからな〜。大丈夫とちゃうか?」

「そう言いましても、シン様は

この穢土(エド)の地で十年も男として生活していますから。」

 

突拍子もなく呟いた疑問さえ、すぐに分かってしまうほど3人の付き合いは長い。

相変わらず勘の働きが良いな、と感じながら新一は

月の光を浴びて、竜の姿から新一と変わらぬ人間の姿へと戻っている2人を見る。

 

 

幼い頃から、3人一緒で育ってきた新一が、

この穢土へ来る条件として彼ら2人の同行を申し出た。

 

だが、王家の人間以外の穢土での生活は即刻、死を意味するほど環境が違う。

そこで、月の力を浴びることの出来ない日は

地球環境の影響を受けにくい竜の姿へとなるのだとか。

 

「白馬、俺はこの地では新一だ。その名前は呼ぶな。」

「すみません。」

「相変わらず、この地になじめんやっちゃ。」

「平次はなじみ過ぎなんです。」

 

ぎゃーぎゃーと喧嘩を始めた2人に、新一はいつものことだと

放っておくことに決め自室へ向かう。

 

この、月よりも広い地で本当に“帝”の生まれ変わりなど

見つけだせるのだろうかと思いながら。

 

 

 

「新一っ、おはよ。」

「あ、ああ?蘭か。」

「蘭か、じゃないわよ。相変わらず朝は弱いわね。」

 

こちらに来てから、カモフラージュの為に周辺の人々の記憶を操作してできた

幼なじみという存在。

 

新一は罪悪感を感じつつも彼女を妹のような感覚で大切にしていた。

 

月都の人間にはない存在感と生命力を彼女は、いやこの土地の人間は持っている。

幼い頃、鏡で見ていたこの地を、都の者達は皆“穢土”と呼んでいた。

汚い土地、汚れた土地。そこにすむ人間は野蛮だ。

そう、教えられてきたのだが、

実際こちらで生活をしてみるとそれがただの偏見だと分かる。

 

新一に言わせれば、生きる気力を無くし

毎日が葬式のような暗黙に包まれている月都こそ“穢土”の名がふさわしい。

 

 

「それで、園子がね・・・って新一。聞いてるの?」

「ああ、わりぃ。なんだっけ?」

「もうっ、だから今週末、Wデートしようって話。園子、京極先輩といい感じだし。」

 

少し恥ずかしそうに笑いながら、彼女は先を軽い足取りで進んでいく。

 

自分に恋心を抱いているのだと、付き人の2人は言っていた。

 

もし、それが本当だとしても、悪いが彼女の思いに答えることは出来ない。

悔しいが、自分の記憶の奥底には“カグヤ”の記憶もおぼろげながら残っている。

そう、生まれてからずっと・・・己の愛する者は“帝”だけだったのだから。

 

トンッ

 

「わりぃ。」

「いや、こっちこそ・・・・。」

肩に掛かる衝撃に、新一は現実へと引き戻される。

 

「ちょっと、快斗。置いていくわよ。」

「待てよ。えっと・・ぶつかって悪かったな。」

 

視線が絡み合った瞬間、視界を埋め尽くしたのは

癖のある髪・・・・深い群青の瞳。

忘れもしない、帝の面影。

 

 

「新一、何してるの。また遅刻するわよ。急いで!!」

「ちょっ、待てよ。」

 

 

月都が完全に滅ぶまであと、1年。

 

あとがき

古典物。いいのか!?これで。

いつか、続きを書くつもりなので(あくまで予定)早めにUPしました。

先にリクをくれた方、すみません!!もう少々お待ち下さい。

そして、けちゃこさま。この様な小説ですみません。

かぐや姫って帝に攫われたこともあるって知ってましたか?

それで、結構、かぐや姫も彼を愛していたらしいです。

本当のお話しでは・・・・。

 

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