カグヤ 2巻 「「帝の生まれ変わりにあったん(です)か。」」 「ああ、学校の帰りにな。」 新一は白馬が作った遅めの夕食を口にしながら、 目の前に座って同じように食事をしている2人に、今朝の話をした。 この、10年、探し続けて(海外暮らしも5年ほどあった) どうしても見つからなかった人物が、諦めかけていたその人が突然現れたのだから その驚きは一塩のはずなのだが、当の新一は特に気にとめた様子もなく 興奮している2人を後目に淡々と食事を進める。 「で?帝の生まれ変わりって話しはしたんか?」 「馬鹿ですか、平次。こちらから帝の話はできないことになっています。 もちらん、シン様・・いえ工藤君が“カグヤ”の生まれ変わりと言うことも。」 「つまり、あいつが気づかない限り、無駄なわけ。」 新一はそう素っ気なく返事を返すと、最後の米粒までしっかりと箸でよそって、 “ごちそうさま”と呟き、流しへ食器を持っていく。 「今日の、食器洗い当番って平だっけ?」 「そうやけど・・・ってそないなことより、今の話しほんまか? わい、そんな話、聞いた覚えないで。」 「平次は日頃から、人の話を聞きませんからね。」 「それと、すぐ興奮することが平の短所だよな。」 イスから立ち上がってわめき騒ぐ平次を特に気にとめることなく、 白馬は席を立って、新一の隣へと歩み寄る。 「なんでそない、のんびりなんや? うちらとちごーて、地球人に前世の認識なんてないんやで!」 「そう言っても、慌ててどうこうなるわけじゃねーし。なぁ、白。」 「工藤君のおっしゃるとおりです。とにかく平次。 僕らは明日、帝の生まれ変わりを見に行きますよ。」 さらにわめき散らしそうな平次を白馬はグイッと引きずってダイニングから立ち去った。 それでも、声は未だこの部屋までよく聞こえたのだが・・・・。 「志保・・入ってこいよ。」 食後のコーヒーを口に含みながら、 新一は2人がそれぞれの部屋に戻ったことを気配で確認して、 ダイニングの外のベランダへ視線を向ける。 すると、夜景が広がっていたはずの窓辺に、体が透き通った女性が立っていた。 「よく気づいたわね。」 「身内だからな。」 窓を開けることなく、そこを通り抜けて 志保と呼ばれた女性は慈愛を込めた笑みを新一へ向ける。 「アカコが、“帝”の生まれ変わりの傍へ配置されたわ。」 「相変わらず、月都は情報が早いな。」 おそらく、朝、自分が“帝の生まれ変わり”見つけた時点で すぐに、次の計画が指導されたのだろう。 それだけ、残り時間が少ないと言うことなのだが。 ちなみに、“シホ”とは“月光”という別名を持つ新一のイトコ。 その存在は、新一とその両親、それに紅子にしか知られていない。 正確に言えば、彼らにしか見えない存在なのだ。 そして、先程から名前の出ている“アカコ”とはシホの妹で、 彼女の場合は“月影”との別名を持つ。 「まだ、彼らには話していないのね。もし、帝と結ばれなかったときの月都を救う方法を。」 「そんなこと言ったら、帝の生まれ変わりに無理にでも思い出させようとするからな。」 「私も、そうしたい限りよ。・・・・じゃあ、そろそろ行くわ。」 志保は来たときと同様、存在感をひとかけらも残すことなく一瞬にしてその場から消えた。 その瞬間を見るとき、新一は昔から彼女の存在の仕方に同情の念を抱いてしまう。 それが、どれだけ彼女に対して失礼な感情となろうと分かっていても・・・・。 「あれが、帝の生まれ変わりか?」 「たぶん・・・。僕自身、帝は見たことありませんし。」 学生が大勢通る道の傍にある木の陰で、2匹の竜はひっそりと息を潜めて、 帝の生まれ変わりである“黒羽快斗”を見ていた。 見かけは、どこにでもいそうな高校生(少し、落ち着きがなさすぎる気もするが・・・。) いったい、彼のどこにあの日本を治めていた“帝”の面影を見ることが出来るのだろうか。 「ちょい、白馬。あの、嬢ちゃん。」 「・・・アカコ様ですね。」 黒羽快斗のすぐ後ろで、周りに完全に溶け込むようにしてアカコはいた。 月影の異名はこの、どこにでも違和感無くとけ込めることからついたと聞いたことがある。 だが、いくら聞いていたといても、 やはり、生で目の辺りにする適応能力の高さには度肝を抜かれてしまう。 そして、視線はついつい、黒羽快斗よりもアカコにいってしまった。 そんな時、アカコはその視線に気づいたのか、軽蔑した視線を2匹に向ける。 本来の目的を忘れるなとでも言うように。 「やばっ。このままでは、工藤の付き人を辞めさせられてしまうで。」 「アカコ様は発言力がありますし・・・。本来の任務に戻りましょう。」 平と白は慌ててアカコから視線を逸らすと、 パタパタとその小さな羽を動かして、帝の後を付けるのだった 月都の住人、アカコは大変不機嫌だった。 まったく、どうしてあんな役立たずをシン様は側近に付けるのかしら。 黒羽快斗の傍に着くように言われて、はや3日。 一緒になって、帝の生まれ変わりを観察するのはよい。 だが、そろそろ勘のいい彼は、その2匹の監視を薄々感づいているようで・・・。 いい加減、手はずを打たないとやばかった。 「黒羽君。」 「なんだ?紅子。」 「ちょっと今日の帰りにいいかしら。」 「あ?ああ。」 級友達と会話を弾ませる彼に、そっと耳打ちをして紅子は教室を後にする。 後ろでは “快斗、ついに小泉をものにしたのか?” “美女は根こそぎ持っていくなんてずりーぞ” などと、騒いでいるが特に気にすることはない。 己の役目は、常に影の存在であること。目立ってはいけない。 それなのに 「どうもこの星の生き物は他人に感心をもつ性格のようね。」 月都では他人に無関心な人達ばかりだったというのに。 今日の帰り道に、どの手順で彼に自覚を促そうかしら。 そう考えながら、アカコは長い廊下を独り歩くのだった。 「珍しいな、紅子が俺を誘うなんて。」 「そうかしら。」 「で、公園についてから30分。何のようなんだ?」 「もう少し、待って貰える?」 アカコは公園の時計を見据えながら、短く返事を返す。 もうすぐ、彼がここを通る時間のはずなのだが。 まさか、感づかれたのか? 「おい、紅子。俺は暇じゃないんだけど、用がないなら・・。」 「少し静かにして。」 思考に没頭してしまった彼女に、快斗は正直どう動けばいいのか思案しかねていた。 転入生であるにもかかわらず、1日で違和感なく教室に存在する彼女には正直興味はある。 異様なほどの適応性は、退屈だった快斗の学園生活を興味深い物にしてくれたのだから。 快斗が帰ろうかどうかと迷っているのを横目に、アカコは全神経を瞳に集中させていた。 新一の居場所を、月影と月光は精神ひとつで知ることが出来る。 まさか、何かあったのでは。 うっすらと瞳のおくに見えてくる映像に、新一が映った。 「おい、紅子。俺、そろそろ。」 「黒羽君、一緒に来て。急いで!!」 アカコは快斗の腕を掴むと、全速力で走り出す。 腕を引かれながら、快斗は内心“今日は厄日か?”と思わずにはいられなかった。 「アカコ様が走り出しましたね。」 「工藤になんかあったんや。それ以外あらへん。」 「確かに、彼女が必死になるのは彼以外いませんから。」 「それに関しては、うちらも一緒やけどな。」 どうしてこんな事になったんだか。 新一は自分を取り囲んでいる不良集団を呆れたように見つめながら、 こうなった経緯を思い返していた。 「で、何のようですか?」 「だ〜か〜ら。お金、くれない。」 「なんなら、あんた本人でも構わないけど。」 「ほんと、男のくせにその辺の女より色気があるし。」 鉄パイプを左手に、右手にはタバコ。 何とも、おきまりの集団だ。 髪は、どこの国の人間だと問いたくなるほど色とりどりで・・・。 「シン様!!」 「アカコ?」 さて、どうやってこいつらを片づけようか。 そう思っていたときに、耳に飛び込んできたのは懐かしい声。 しかし、その呼び名はここでは辞めて欲しいな・・・。 新一はアカコが片手に誰かを連れてきていることを気にしながら 淡々とそんなことを思っていた。 「あれ〜?彼女も美人じゃん。」 「静かにしてくれないかしら。」 アカコに一人の男が触れた瞬間、その男は金縛りにあったようにピクリと動きを止める。 “影縫い” 月影の持つもう一つの能力。相手の影を地面へと縫いつける術だ。 同じ能力を使って、そこにいた男達全員の影をその場に縫いつけると、2人は場所を移動する。 「で、片手に何持ってるんだ。」 「あら、のびてるわね。」 「そりゃあ、全速力であの公園から走ってこれば無理もないだろう。 それにアカコ、こっちでは。」 「分かっています。力を使うのは控えます。 それでも、あのような場面では抑えが効かなくなるのです。ご了承下さい。」 「あの〜、話が見えないんですけど。」 「あら、起きていたの?」 アカコに捕まれていた腕を取り払って、快斗は息も切れ切れに2人を見た。 「なんか、紅子に似てるね。」 「そうか?」 快斗はアカコの隣に立つ男を見て率直にそう感じた。 別に顔とかは似ていないのだが、雰囲気というか周りの空気というか・・・。 「それに、どっかで見たことがある気がする。会ったことあるっけ?」 「一度、ぶつかったことならあるな。」 「ああ、あの朝か。」 快斗はようやく思い出したと言う感じで、ポンッと手を叩く仕草をする。 アカコはそれを見ながら、彼が“帝”の生まれ変わりであることを確信していた。 彼がシンクロしたのは、最近の朝にあった新一の姿であったとしても、 前世の“カグヤ”の面影を何処かに感じているはずなのだから。 「それじゃあ、私はイトコの彼と帰るから。又明日ね、黒羽君。」 「おい、結局なんだったんだよ。俺を連れ回して!!」 「さあ?気まぐれよ。」 アカコは睨み付けてくる快斗に冷笑をおくって、歩みを早める。 新一は快斗に“迷惑かけて悪かったな”とわびを入れると彼女の後を追っていった。 「まっ、いっか。あいつと連絡とれる関係になれたし♪」 快斗はあの朝から気になっていた新一の背中を見つめながら、 今日の運勢もまんざらではなかったな、と軽い足取りで帰路へと着くのだった。 あとがき 書いていて楽しいけど、これからどうしようか方向が決まってません(爆) 思いつき次第、書く予定です♪ |