「どうして、こんな事になったの・・・。服部君。」

「そない言ったって、わいかて予想外やわ。」

 

“用事があるから先に状況を説明しといてくれ”

そう告げた新一を止める術もなく、今回の捜査に関わった刑事メンバーは、

よっぽどの機会がない限りはいることの出来ない邸宅の前に立っていた。

 

「お二方とも、どうしてそんなにいやがってるんですか?

 あの、有名な美人探偵の自宅に入れるのに。ご家族も拝見できるんですし・・・。」

 

「「知らぬが仏・・・か。」」

 

2人の言葉に疑問符を頭に浮かべ、緊張しつつも喜びに溢れている、

新米刑事に佐藤も平次も心からそう思う。

きっと、この表情もあと数分後には凍り付いているだろうと感じながら・・・。

 

 

◇ブラックジャック・中編◇

 

 

「あれ、佐藤さんに平次兄。珍しいじゃん。」

 

呼び鈴を鳴らして出てきたのは、おそらくこの家族では

まともな部類に入る長男こと雅斗だった。

まだ、制服を着ていることからそう帰宅して時間がたっていないのだろう。

 

「雅斗、今日、試合やったんか?」

「まあ、軽いバイトみたいな感じでサッカーの助っ人に・・。

で、警察引き連れてなんかあったの?」

 

本題にはいるのをなるべく避けたいと感じた平次は、

当たり障りのない話題を口にするが、雅斗は平次の意図を知ってか知らずか、

直ぐさま本題を話すようにと促してきた。

 

佐藤は、平次の要領の悪さに軽く睨みをいれながらも、

とりあえず今日の黒羽家の状況を聞き出そうと、彼の隣へと歩み寄る。

 

誘導尋問は警察の得意分野・・・・のはずだ。

 

「快斗君、今日はどう?」

「父さん?今日は、母さんにすっぽかされて不機嫌。

ちなみに、由梨も悠斗も学校出なんかあったぽいから、機嫌悪いよ。

今日、助けを求めるなら俺か由佳だろうね〜。」

 

遠回しな言い方も、やはり彼には通じないらしく、

佐藤の顔色を見ただけで、ここに来た理由を理解しているようだった。

 

相変わらずかわいげのないガキだと、佐藤が内心毒づいたのも無理もない。

 

「さて、父さんをリビングに呼んでくるから、適当に座っててよ。」

 

部屋の中へと誘導して、どこから取り出したのか気がつけば

テーブルには人数分のコーヒーとお菓子が用意されていた。

 

それに、新米刑事たちから感嘆の声が漏れる。

そんな風に興奮気味の新米刑事たちを後目に、

佐藤、高木、平次、そして以前にもこの家を訪れてとんでもない目にあった刑事数名は、

この黒羽家の主人の登場を、怯えながら待つのだった。

 

「あれ、由希は?」

 

新一と一緒に捜査を行っている刑事らがやってきたと雅斗から聞いた快斗は、

新一も帰宅したのだと思ったらしく、ご機嫌よろしく部屋へと入って来た。

 

「いや、その新一君、じゃない由希さんのことで話しが・・・。」

 

佐藤に視線で促されて、高木刑事は恐る恐る言葉を綴る。

せめて、ここに新一本人がいれば、少しは身の安全も保証されたのにと思いながら。

 

「ふ〜ん。じゃあ、とりあえず話してよ。」

 

刑事7人の前に堂々と座れるのはおそらく彼と彼の周辺の者達くらいだろう。

快斗は足を組んで、真剣な瞳を彼らに向ける。

その視線には、早く用件だけを述べろと強い威嚇が含まれていた。

 

とりあえず、免疫のある(どんな?)平次がなるべく事が大きくならないようにと

状況を説明した。話が進むに連れて、快斗の表情が険しくなっていくのを感じながら。

 

「つまり、由希が賭の商品ってわけね・・・。相変わらず、無能だね。警察は。」

「おいっ。」

「谷沢、落ち着け。」

 

見下したような、快斗の言い方に新米の一人が席を立った。

それを隣にいた先輩刑事が慌ててなだめ始める。

 

「まったく、いつも由希がそうやって巻き込まれる。

そりゃあ、由希の事件に夢中になるに比例して

無謀になっていくのにも非はあるけど・・・。

詐欺事件程度で証拠のひとつも上げれないなんて。

・・・・・・あんたら、プライド無いの?」

 

「言わせておけば・・・。」

 

「谷沢、おんどれは黙っとけ。快斗、お前が怒るんも無理はない。

 けどな、こいつらも一生懸命なんや。そのへんで、堪忍してくれへんか?」

 

「それは無理よ。」

 

緊迫した状況にはあわない、軽い呟き。

その声に、新米刑事以外の刑事は、大物が来てしまったと肩を落とした。

 

 

「由梨、お前が出てくると話しがややこしくなるから、部屋に・・・・。」

「お父さんは、高木刑事と佐藤刑事、平次おじさん3人で話したほうがいいでしょ?

 私が他の4名の話し相手になっておくから。」

 

快斗の提案をあっさりシカトして、由梨は不適に微笑んでいた。

その微笑みが、小悪魔の企みであることに、新米刑事は気づいていない。

経験者である、先輩刑事2人は佐藤に助けを求めたが、首を横に振られてしまった。

 

「じゃあ、ごゆっくり。」

 

男4人を引き連れて、何処かへ去っていく由梨を見送りながら残された3人は

どうか死人がでませんようにと、切実に願うのだった。

 

 

 

 

 

「ただいま〜。」

それから、30分後、疲れを含んだ声が玄関に響く。

だが、出迎えたのは悠斗一人だった。

 

「母さん、また何かしでかしたんだろ?佐藤さんたちはまだしも、

新米の刑事さんとか、かなりやばい状態で帰っていったけど。」

「由梨の奴にとっては、実験材料だからなぁ〜。」

 

疲れて頭が正常に作動していないのか、新一は靴を脱ぎながら適当な返事を返す。

そんな、新一にため息をつきつつも、悠斗はとりあえず快斗を呼びにリビングへむかった。

 

警察は一通り帰ったが、まだ、平次だけが2人で話しをしているのだ。

 

「父さん、母さんが帰ったけど?」

「ああ、知ってる。」

「そんなら、わいはそろそろ帰るわ。」

 

先程、お茶を持っていったときにはなかったトランプが机の上には広がっていた。

快斗はそのトランプと真剣に向き合っているためか、視線をこちらによこすことはない。

平次が席を立っても、特に気にする様子はなかった。

 

さすがに、一応客なんだしと悠斗は快斗を呼びかけようとするが、

平次はそれを片手で止めて首を軽く振る。

まあ、そのくらいのことをいちいち気にするほど浅い仲ではないのだし。

 

「工藤、がんばって旦那の機嫌、取り繕うんやで。」

「他人事だな。」

 

手をヒラヒラと振って去っていく平次を悠斗は玄関まで見送るためにリビングを出ていく。

それと入れ替わるようにして、新一はトランプを手のなかで器用に動かしている

快斗の向かい側に腰掛けた。

 

「結構、やり手だぜ。相手。」

「ああ、服部にも見抜けなかったんだろ。」

 

新一が口を開いたと同時に、快斗もようやく視線を新一へと向ける。

その表情は、怒りを通り越して呆れているといった感じだった。

 

「で、なんでキスされてんの?」

「油断したんだよ。」

「・・・おまけに賭の商品になってるし・・・。」

「だって、快斗、負けねーだろ。」

 

一言一言尋ねながら、快斗は新一の正面へと向かった。

そして、最後の返答に、頬が緩むのを感じる。

 

 

怒りたいはずなのに・・・・。

 

 

「俺は、新一を手放さないためならどんなことでもやってのけるよ。」

「分かってる。だから、賭を受け入れた。」

「今日は、怒ろうと思ってたのになぁ〜。まぁ、とりあえず消毒はしとかないとね。」

 

 

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「たっく、今日くらいしっかり説教するかと思えば。」

「由佳、父さんが母さんに勝てると思うか?」

「・・・・無理・・か。」

 

すっかり、普段通りの両親をリビングの外で盗み見しながら、

2人は同時に大きなため息をつくのだった。

 

あとがき

次回で終わる予定。なんか、思ったより長くなっちゃいました。

 

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