「やっぱ、なんか使い慣れねーな。」

新しい携帯電話を手の中で転がすたびに、銀色のボディがキラリと光る。

新一は愛着を持って使っていた携帯と今、お別れしたばかりだ。

 

■携帯電話■

 

 

「しっかし、電話番号とかメアドとか入れなおすのも面倒だな。」

 

事件の要請を受けたのは、いつも通りのことだった。

だが、そこで犯人と一戦してしまうハメになり、

携帯電話は見事に壊されてしまったのは予想外のこと。

まあ、それでも、この最新の携帯電話はもちろん警察の金であるから、

新調できたという点ではラッキーだったのかもしれない。

 

問題は、アドレスを又追加しなくてはならないということだ。

 

「目暮警部たちのはその場で入れたし、蘭や園子は明日学校についてからでいっか。

父さんや母さんにいたってはうるさいからこの際登録しないでおいて・・・・。

あとは・・。」

「もちろん、俺でしょ。」

 

手の中にあった新機種の携帯はいつのまにか、目の前の人物の手中に収まっていた。

 

「おまえ、なんでここにいるんだよ。」

「いや、新一の学校に行ったんだけど、今日は午前中で帰ったって聞いたからさ。

それで、たぶん事件関係だと思って新一に電話したけど繋がらないだろ。

しょうがなく目暮警部に連絡入れたら、事件に巻き込まれて携帯が壊れたから

新しくしたって聞いてさ。たぶん、まだ店の近くかなって思って、ここにいるわけ。」

 

「長い説明をアリガトウゴザイマシタ。」

 

感謝の“か”の一文字もこもっていないような返事を返すと、

新一は快斗を追い越して、スタスタと歩き始める。

 

快斗は慌てて足を進めその隣に並ぶと、軽くため息をついて新一に視線を向けた。

 

「で、どうして壊れたわけ?」

「別に、服部の時のような壊れ方、した分けじゃないぜ。」

「・・・当たり前だろ。」

 

新一の少し拗ねた言い方に、快斗は苦笑しつつも、

新一のいう“平次の時のような壊れ方”を思い起こしていた。

 

たぶんあれは、随分と昔、新一がコナンだった頃にあった

平次の剣道大会での事件だったと思う。

その事件の犯人が振り下ろした日本刀を平次は持っていた携帯電話で受け止めたのだ。

あの後、見るも無惨な携帯電話の話しを新一はよくおもしろおかしく話してくれた。

 

「高いところから落とした・・とか?」

快斗はその携帯が壊れた原因をありきたりな状況だったのだろうと判断して、

新一に問いかけた。

 

だが、それに新一は軽く首を横へと振る。

 

「ただ、相手が発砲してきた銃弾を受け止めただけ。」

「は!?」

 

快斗はその瞬間、思わず自分の聴力を疑いたくなった。

いったいぜんたいどこに携帯で銃弾を受け止めたことのある人間などいるだろうか。

それなのに、その事を新一は隣で苦笑を交えて

意気揚々と話すのだから、呆れるしかない。

 

「お店の人にどうやってこれを壊したんですか?っていわれたときには

さすがに返答に困ったけれどな。」

 

携帯の中央が綺麗に円形で穴があいていたらそう尋ねてしまうのも無理はないだろう。

それに、さすがの新一も“銃弾を防いだから”とは答えられなかったらしい。

 

“結構、携帯って丈夫なんだな〜”などと隣で感心している彼に、

快斗はこの非常識人をどうにかしてくれと誰かに頼みたくなった。

 

「・・・新一がどれだけ凄い人間なのか今日は改めて実感したよ。」

「そうか?それより、いい加減人の携帯返せ。」

 

思い出したように、快斗の手の中にある携帯を視線で促す新一に、

快斗はすっかり忘れていた新入りの携帯を見る。

“こいつの命はどの位なんだろう”と失礼なことを思ってしまうのも、

隣の人の影響だろうか。

 

「あっ、ついでに快斗の携帯の電話番号も入れといてくれ。」

「了解。」

頼まれなくてもそうするつもりだった快斗は、あいている方の手に

一瞬にして自分の携帯を出すと、手際よく登録する。

警察の次とはいえ、2番目に新一の携帯に登録できたことが少し嬉しかった。

 

「そういえば、新一の命を守った携帯には感謝しないとね。」

「そうだな。まっ、リサイクルされて誰かに又使われるんじゃねーの。」

「穴あき携帯がか?」

「・・・無理だな。」

 

お互いに声を出して笑いながらそれぞれの携帯電話をポケットへとしまい込む。

快斗の電話番号を登録したせいなのかは分からないが

新一は、もうその携帯電話に先程の違和感を感じることはなかった。

 

あとがき

携帯電話ネタ。一度は書いてみたかったんです。

なんか、奪い取って勝手に登録するって感じのシチュエーションがスキなので。

にしても、またまた甘さ0ですね。本当にノンカロリー(笑)

 

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