〜決戦日〜

目覚ましがなる前に目が覚めるのは日常茶飯事だけれど、

こんなに夜も明けきらないうちに目が覚めるのは実に久しぶりのことだった。

 

「まだ、4時か・・・。」

 

幼い頃、4時という時間帯は恐怖で満ちあふれていた気がする。

トイレに行くためとか、怖い夢を見たからとかで目が覚め、

その時間が4時だったとき、いつも頭を埋め尽くすのは“4時44分”という怪談話。

早く寝なおさなくては幽霊が出てくると思って、

布団を頭からかぶって必死に眠ろうとしたことを良く覚えている。

でも、そんな時に限ってなかなか眠れなくて・・・。

刻々と過ぎる時間を秒針の音で感じながら焦りばかりが積もっていた。

 

さすがにこの歳になるとそんなことはなくなったのだけれど、

感情において対象は違うものの“不安”を感じているのはあの頃と一緒なのかも知れない。

そんなことを思いながら、時計から隣へと視線を移せば、

愛しい存在が気持ちよさそうに眠っているのが目に入った。

 

「新一は不安じゃないのか?」

そっと、新一の髪を触れて返答が返ってくるはずもない問いかけをする。

賭の商品となっているのは、新一自身のはずなのに・・・

俺は不安を抱かずにいられないのに。

 

万が一奪われたのなら、奪い返す覚悟はいつもできている。

でも、もし、新一が奪われたその誰かのところが良いと感じてしまったら。

 

「快斗?」

髪の毛を撫でていた手を捕まれ、慌てて視線を下へと向ければ、

新一が不思議そうに俺を見上げていた。

「起こしちゃった?」

「まあな。」

新一は軽くため息をつきながら、ゆっくりと上体を起こすと、

軽く前髪をかき上げて、俺の方へと視線を移す。

俺はジッと新一を見つめていたけれど、

気がつけば、新一の手首を掴んで自分の方へと引き寄せていた。

 

「どうかしたのか?」

「充電中。」

ギュッと握りしめる手に力を入れて、新一のこめかみにキスを落とす。

日頃、そんなことをすれば、蹴りの一発くらいは飛んでくるのだけれど、

新一は珍しく、されるがままになっていた。

 

それどころか、新一の手も又、俺の腰へと回されていて・・・。

 

「誰にも渡さないから・・・。」

新一の顔が見えるように少し離れると、俺は誓いを立てるように、そう告げる。

 

「海を泳ぐ生き物の大食い大会以外の賭の商品なら安心してなれるかもな。」

 

ポンポンっとあやすように新一は俺の頭を叩いた。

俺はこれでも真剣に言っているつもりなのに、新一はそう言って笑うだけ。

きっと、いつもの照れ隠しなんだろうけど。

 

「寝るぞ。ゲームは午後からだしな。」

「なぁ、新一。」

「ん?」

「あんな生き物の大食いでも、新一のためなら勝てるよ。」

 

再び横になって眠たそうに目を擦っている新一の隣に潜り込み、新一の耳元でそう告げれば

“ぜってー無理だな”と皮肉めいた笑みと共に返事が返ってくる。

それに、出来るって訂正を加えようと口を開きかけたけど、

気づけば、新一は俺の洋服の端を掴んでもう夢の中へと入っていた。

 

「さて、どうやって潰そうかな。」

暫くやってきそうにもない眠気に、俺はゲームの相手人への罰を思案し始める。

 

俺の新一に手を出した罪の重さを充分と知るがいいさ・・・。

 

END

あとがき

初の快斗視点!!てか、さっさと後編へ入れッて感じですね(苦笑)

対決はもうしばらくお待ち下さい。

 

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