都心部から少し離れた樹海地帯にそのスケートリンクはあった。 知る人ぞしる穴場スポットで、冬場は連日、人の波が耐えないのだが、 今日は警察が貸し切っているため、スケートリンクで滑る人はいなく、 変わりにKID逮捕に意欲を燃やしている警察が大勢いた。 |
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◇2人のKID
VS 2代目平成のホームズ◇ 〜後編〜 |
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マスコミ関係者や年々増えていくKIDファンが、 寒い中今か今かとKIDの登場を待ち浴びている。 そんな人混みなの中、悠斗はスケートリンクからほど近い場所で警察の様子を伺っていた。 「中森警部、相変わらず空回りしてるよな。 3年前に婿養子に入った義息子も大した力を持ってないし・・・。 いつもこんな楽勝な勝負を兄貴はしてんのか?」 失礼だがはっきりいって、こんな相手じゃ例え自分がKIDをやったとしても 役不足だと悠斗は心の奥底からそう感じる。 最近捜査に加わった紅里と葉平も彼ら警察と比べれば数段上のランクだが 決め手に欠ける部分があるし、 これではいつか雅斗本来の力さえ劣ってしまうのではないかとも思えてしまう。 悠斗は近くの壁にもたれかかるような格好で昨年のクリスマスに両親から貰った腕時計に 視線を落とした。 予告時間まであと10分を切ったところだ。 カサリ 木の葉を踏む音に視線をあげれば、紅いコートを着た少女が立っていた。 「悠斗、邪魔しないでね。」 「紅里。どういう意味だ?」 「貴方を探偵としては認めるわ。でもね、黒羽家とKIDは密接な関係を持っているとしか思えない。 だから今回は貴方が協力することに不審以外抱けないでいるのよ。」 ルビー色の瞳が強く悠斗を睨み付ける。 悠斗はそれを特に気にすることなく、くだらないとばかりにため息をついた。 「俺からも言わせて貰うけど、おまえも何でそんなにムキになってるんだ。 KIDを捕まえることがそれほど名誉なこととは思えない。」 「言ったでしょ。お父様の成し遂げられなかった意志を継ぎたいと。」 「じゃあ、おまえの意志はどこに存在する?」 今まで迷いの色を交えていなかった瞳が悠斗の一言で揺らぎを見せる。 悠斗は“おまえこそ俺の邪魔をするなよ”と 黙り込んでしまった紅里に告げると足早にスケートリンクへと去っていった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 「雅斗は、あそこみたいだな。で、宝石は・・・・・・マジ?!」 怪盗は集まったファンの群衆に紛れて、マスコミに扮装している雅斗を見つけだすと、 ニッと口元をつり上げる。 そして、次に宝石の位置をっと思いその場所を確認した瞬間言葉を失った。 軽くため息をついている雅斗の様子に自分と同じ思いだと快斗は感じる。 時価数億とも言われる宝石は、スケートリンクの中央部にしっかりと埋まっていた。 今日は風が強く木々に囲まれているためこの場所からあそこの宝石に 空を飛んで向かうのは不可能だ。 だからといってスケートリンクを滑れるはずもない。 ここで転ぶなどの醜態をさらしてしまえば、 初代KIDである父の名を汚してしまうことにもなるし、 なによりこれから警察がKIDの弱点として氷を使い出されてはたまらない。 「雅斗が博士に頼んでいたのはこれに対する発目品だったのか・・・。」 数日前に部屋で何かをやっている雅斗には気づいていたが、 まさかこんな事を見越しての行動だったのかと今更ながら感心してしまう。 考えていれば新一は弱点を使って追いつめるよりも、何の小細工も無しに、 己の推理力だけで追い込むタイプだった。 悠斗がこのような行動に出るのも、確実に快斗の血を引いているせいだろう。 「くっそ〜。これじゃあ俺の負け決定じゃねーか。 ふう、守り神である月も氷付けだな・・・・・・・。ん?待てよ。」 快斗はふと、中森警部を視線に止めて今回いるであろう重要な人物が来ていないのに気づいた。 宝石の持ち主である男が来ていないのだ。 それに、今回必ずなんとしてでもここに来ると言った最愛の人も。 「自分の宝石が心配じゃないのか?・・・・KIDの守り神・・・ ・・・そういうことか。悠斗もなかなか洒落た設定するんだな。」 大勢の人混みから、ひとりの男が人知れず静かに去っていく。 「あれ?親父のやつどこに行ったんだ?」 雅斗は先程まで左にいる大勢の群衆に紛れていたはずの父親を見失って カメラをかついだまま疑問の声を上げる。 あそこからてっきり潜入するとばかり思っていたのに。 「おい、そろそろ予告時間だ。カメラの調子はバッチリだろうな?」 「え、ああ、ほんと。あと1分切りましたね。」 「切りましたねじゃないだろう。なるべく近いアングルでKIDを撮りたいんだから。」 「それなら、間近でとれますよ。」 「はっ?!」 カメラマンの男が突如宙に浮かび上がって、ADは腰を抜かして倒れ込む。 そして男の体が完全に空中に浮いた瞬間、白いマントが翻し、そこには怪盗KIDが・・。 博士に発明して貰った機械を、マジックの要領を利用し、 人々に見えないようにしてあるためにまさにKIDは宙に浮いていた。 月明かりの照らし出すスケートリンクに浮かび上がるKIDの姿は 幻想的以外言い表す言葉がないほどだ。 「KIDだ。捕まえろー!!!!」 止まった時間を再び始動させたのはもちろん中森警部。 様々な演出は今まで何度も見てきたためこの中ではおそらくこんな場面に一番慣れている。 警部の声に警察はスケート靴を装着してスイスイと滑り出す。 警察の制服姿で滑る彼らが、KIDとは対照的にとても滑稽で、会場の人々から笑いが上がった。 「氷の中の宝石などとれるはずがない・・・って何で氷が溶けているんだっ。」 KIDの装着した機械は空中に浮かび上がるために高温の熱噴射を利用している。 それで、氷を溶かすなど簡単なことだ。 「なんだ、悠斗も大したこと・・・・。待てよ。宝石の持ち主がいないじゃねーか。」 「今頃気づいても遅いぜ、KID。」 スケートリンクの端で、悠斗が不適に微笑んでいるのが迫り来る警察の影から見えた。 その言葉に、父親が居なくなった理由に気づいて、雅斗はきびすを返したように 再び空中へと高く上がる。 だが、急激に上に上がったためか、機械の調子が狂い、リンクのはずれへと突き落とされた。 その場所は悠斗がいたすぐそばで、彼がここまで計算していたことを思い知らされる。 「機械の調子はこんな寒さじゃ悪くなって当然だろ?」 「勝負はここからだぜ。」 人々が居る方向と逆のこの場所は、暗闇で周りの人々には KIDが無様に落ちたことやどこにいるかさえ見えてはいない。 そう、ここからは2人の真剣勝負なのだ。 「覚悟決めろよ。KID。」 「捕まらない覚悟ならいつでもあるぜ。名探偵?」 ・・・・・・ 「いやぁ〜、怪盗KIDに予告状を送られたときは気が気じゃありませんでしたが、 こんな美しい方たちとお食事できるとは。」 「こちらこそ、かの有名な社長様と食事できることを大変喜ばしく思っております。」 KIDと悠斗が現場で熾烈な戦いを行っていた頃、新一と由佳は 宝石の持ち主である大手会社の社長とパーティーに来ていた。 中央部ではテレビで見たことがあるような大物俳優や若手女優、 御曹司に令嬢などがそれぞれダンスを楽しんでいる。 ゆったりとしたクラッシクが流れ何とも高貴な雰囲気だ。 「さすがのKIDも貴女が宝石を身につけているとは思いもしないでしょうね。父さん。」 「ああ、そうだ由希さんのお嬢さんと踊ってきてはどうだ? 私は現場の方に電話をかけなくてはならないので少しの間、失礼しますな。 由希さんもどうぞ踊りを楽しんでいてください。」 グラスに残ったワインを飲み干した社長はスッと席を立って会場の外へと向かう。 息子はそれを見送ると由佳の方へと歩み寄った。 「行きましょう、由佳さん。」 「はい、喜んで。」 由佳は愛想笑いを浮かべながら、社長の息子の手に自分の手を重ねた。 「遅い・・・。」 新一は特にすることもないので壁にもたれかかって人々の踊りをただ見ていた。 手に持っているグラスの中の濃厚な赤ワインを見下ろせば、そこには少し元気のない自分の顔。 そして、胸元に光る宝石が映っていた。 KIDの守り神に最も近き場所に祝福の宝は存在す あの意味を自分のことだと快斗や雅斗は気づくのだろうか。 新一はそう思いながら昨晩、悠斗と交わした会話を思い出す。 『・・・てわけだから協力してくれる?母さん。』 『別に構わないが、でも俺だって分かるのか?KIDの守り神は“月”だろ?』 『そこで引っかけるんだよ。相手の社長にはもうOK貰ってるし。 それに、オレ達の守り神はいつだって母さんなんだ。』 「守り神か・・・。」 「Wall flowerなんて貴女には似合いませんよ。」 聞き覚えのある声にハッと前へと視線を戻せば、白い怪盗がそこにはいた。 周りのお客達は突如現れた怪盗に驚きの声を上げ、その場は騒がしくなる。 だが、誰独りとしてその美しいシチュエーションを阻害したいと思う者はいなかった。 壁の花となってしまっている上品で美しい女性に手を差し出す紳士。 まるで絵に描いたような情景だ。 「遅い。」 「すみません。私としたことが一番の守り神を忘れるとは・・・。」 KIDは優雅な仕草で深く頭を下げると、ひざまずいて新一の手にキスをおとす。 そして、新一の機嫌が幾分良くなったのを確認して今度は桜色の唇へとキスを・・・・。 その儀式のような動きに人々はとろけるようなため息をついた。 「皆様、素晴らしいパーティーを中断してしまいましてまことにすみませんでした。 お詫びとしてはなんですが私からのプレゼントをお受け下さい。」 「えっ。」 「雪?」 会場内のはずなのに、上からは本物の雪がシンシンとふって、 そしてその雪は人々の手に当たった瞬間バラの花びらへと変わる。 「この勝負、父さんの勝ちみたいね。さあ、お膳立てしてあげるか。」 呆然と見入っている人々の中へ由佳は閃光弾を投げ込んだ。 「お帰り。由佳姉、お母さんは。」 「お父さんにお持ち帰りされちゃった。」 「ああ、じゃあ勝負はお父さんの勝ちで決定ね。 まあ、2人が帰ってきたときからそうとは思っていたけど。」 由梨と話しながら食卓へと入れば雅斗と悠斗がソファーに腰掛けて お互いの肩にもたれかかるようにして仲良く眠っていた。 「探偵と怪盗が一緒にお眠りなんて、面白い情景よね。」 「2人とも全力でぶつかったみたいだから。でも、これで少し安心した。」 「やっぱり、由梨は雅斗の油断を消すために今回のこと仕組んだんだ?」 「・・・暇だったから・・・・。」 由梨はそう呟いて、ずれ落ちているブランケットを2人にかけ直す。 由佳はそんな優しい妹を微笑みながら見つめていた。 「で?罰ゲームは誰にするの?」 「決まってるでしょ。ひとりだけ美味しい思いをしたお父さんよ。」 「でしょうね。」 今頃は何処で何をしているのであろうか予想もつかない両親のことを考えながら、 由佳と由梨もまたソファーに体を預けてしばしの休息をとるのだった。 〜あとがき〜 ようは、KIDに新一君を攫って欲しかっただけで書いたのですが 私としては付加前燃焼・・・。次回はもう少し精進したいです(泣) |