「ねぇ、由佳ちゃん。2日間お願いできるよね。」 「うん。OKだよ。お父さん達も良いって。」 「良かった。ありがとう。」 ちょっとした頼み事だったから快く承諾した。 2日間ペットのミミちゃんとルルちゃんを預かると。 ―悲壮― 「俺は2日間の旅に出る!!!」 新一と快斗が夕食の買い物から帰宅したとき、玄関まで響いてきたのは悠斗の悲痛な叫び。 また喧嘩だろうかとお互いに顔を見合わせて軽く首を傾げた。 「ただいま〜。どうしたんだ。悠斗。」 「お母さんっ。」 今にも泣き出しそうな勢いで足下に抱きつく悠斗の頭をよしよしと撫でる。 ここまで表情を出すなんて珍しいなと思いながら。 「ほら、男の子だろ。どうしたんだ?ん?」 しゃがみ込んで視線を合わせて尋ねる新一は端から見れば優しいお母さん。 表情もとても穏やかで思わず見惚れてしまうような笑顔。 そんな笑顔を間近で見せつけられて、悠斗はサッと顔を赤く染める。 だからこそ、快斗はジッと見守って入られなかった。 「うわっ。」 「悠ちゃん、お父さんとお話ししような。」 グイッと首根っこを掴んで持ち上げるその表情はどこか怒気があって、 ヒクッと悠斗は顔を引きつらせる。 俺が聞こうと思ったのに・・・としゃがんだまま不満げに見上げる新一に 快斗は悠斗を落としそうになった。 どうしてこんなに可愛いんだろ。この人。 どうせなら悠斗なんてほったらかして(父親の科白ではない) 新一の相手をしたい〜〜〜!!!と思うが、 そんなことをしたら新一の機嫌を損ねるのは分かっているので ポーカーフェイスに押し隠し悠斗と視線を合わせる。 悠斗の目には涙なんて浮かんでおらず、 母親にむけたかわいらしい子供っぽい表情は消え失せ、冷めた目つきで快斗を見ていた。 「悠ちゃん、使い分けがお上手だね。」 「首が痛いよ。父さん。」 小学1年生の悠斗の表情は、昔のコナンちゃんとそっくりだと思いながらも この性格ってどうよ。と思いたくなる。 もちろん、コナンも似たような使い分けはしていたが、 彼は一応中身も高校生だったので仕方ないとしよう。 だが、悠斗は中身も外見も立派な小学一年生だ。 はぁ〜と重いため息をついて悠斗をフローリングにおろすと、 早速、先程の発言の理由を尋ねる。 そして・・・ 「俺も2日間の旅にでさせてもらいます。」 と快斗も悠斗同様、自室に走り出そうとするではないか。 新一は快斗の手首を掴み、その理由を尋ねた。 勝手に話を進めるなとその表情は少しご立腹気味。 「由佳がさ、ペット預かるって言ってたじゃん。」 「ああ、ミミちゃんとルルちゃんだろ。」 それが?と追求する新一に快斗は口をパクパクと動かした。 おそらく口に出すのも憚られるのであろう。 それほど嫌いな生き物・・・・まさか 「由佳、ひょっとして・・・。」 「うん、金魚の名前だったの。それ。」 チラリと奥の部屋を見れば、赤と黒のデメキンが泳いでいる。 どっちがミミちゃんでどっちがルルちゃんだろうか。 新一はそんなことをのんびり考えながらようやく彼らの言動の理由を知る。 全く情けない。 これでは、ネズミが嫌いなド○エモンと一緒ではないか。 「と〜に〜か〜く。俺は2日間家を出る。」 「俺もっ。」 魚嫌いの2人にとっては、魚が同じ空間にいるというだけで耐えられないのだろう。 顔は少し青白くなっていた。 「まぁ、2日間くらいなら。いいんじゃねーの。」 「何言ってるんだよ、新一。新一もいくのっ。」 「はぁ?」 「あたりまえじゃん、夫婦は共に在るべき!!!」 まったく身勝手な発言だ。 その場にいた悠斗以外の子供達は、だだをこねる父親を見てそう思う。 先程の悠斗に対する行動といい、どうして母親が関わると、 この父親は欲求に忠実に従うのだろうかと・・・。 「我が儘いうんじゃねー。俺と魚、どっちか選びやがれっ。」 「・・・・。」 「迷うなっ。」 いつもならどんな場合でも“新一”と即答する快斗が返事を渋る。 それに新一の機嫌が降下するが、彼もまた魚に焼き餅を焼いているとは無自覚だ。 「なぁ、オレ達って当てられてない?」 「今更でしょ。雅斗。」 「お母さんが無自覚なところが困りものよね。」 悠斗はすでに部屋からいなくなり(おそらく隣の家にでも荷物を持って行ったのだろう) 残された3人は思い思いの感想を述べる。 そして、彼らは幸か不幸か、この類の会話を1時間も聞かされるはめになったのだった。 そう、一時間後に 「俺は新一との愛を取る!!!」 と快斗が悲壮な決断をするまで。 |