目の前に広がった光景にディーノは固まり、見間違え方と瞬きをした。

自分は綱吉に用事があって、高校まで尋ねてきたはずだ。

なのに・・・この光景は。

 

カサリと枯葉を踏みしめた音に、探し人が顔を上げる。

そしてディーノを視界に止めると、バツが悪そうな笑みを浮かべたのだった。

 

 

―校舎裏―

 

 

「ツナ、俺は目がおかしくなったのか?」

「はは。正常ですよ。」

 

ディーノの言葉に綱吉はポリポリと頬をかく。

だがもう一方の手は、ゆっくりと膝の上に寝転んでいる人物の髪を梳いたままで。

ディーノはとりあえず今の状況を受け入れることを決めると、

彼の隣のベンチに腰を下ろした。

 

 

綱吉が居たのは校舎裏の木製ベンチ。

大木の傍に長いすがいくつか並んでおり、

綱吉は彼に膝枕をさせ寝ている男、雲雀恭弥と共に1つのベンチを独占していた。

 

木の葉が落ちる音で目を覚ますほど神経質な弟子が

(もっとも、ディーノが一方的に弟子と思っている可能性が高いが)

こうしてディーノが傍に来たというのに起きた気配は無い。

 

最初は狸寝入りかとも思ったが、彼の呼吸は一定で、完全に寝入っているようだった。

 

「最近、忙しいらしいんですよね。」

「忙しいのは分かってるけど、こいつ、この高校じゃないだろ?」

 

自分の記憶が正しければ、雲雀は並盛一の進学校に進み、

綱吉は必死に勉強してこの公立高校に半年前に合格したばかりだ。

だのにどうしてこの高校に居て、さらには綱吉に膝枕をされているのか。

 

 

ディーノの表情に全てが出ていたのだろう。

綱吉は笑みを押し殺して、雲雀の髪を梳く手を止めた。

 

「たまに来るんですよ。ここの日当たりがちょうど良いらしいです。」

「たまにって・・。そのたびに膝枕なのか?」

「戦うのと膝枕を選ばせられれば誰でもこっちを選びますって。」

 

最初は驚きましたけどね。

ハハッと綱吉が笑って誤魔化したときだった、ピクリと雲雀の瞼が動く。

 

今まであんなに眠っていたのに。

ディーノは驚かせてやろうと雲雀の顔を上から覗き込むために立ち上がる。

 

と、次の瞬間だった。

 

ヒュッとディーノの頭にトンファーが振り下ろされる。

もちろんここには部下など居なくて。

 

「うおっ。」

「ディーノさん!?」

 

見事にヒットしたトンファーにディーノは頭を抱え倒れこんだ。

 

 

 

「容赦ねぇな。恭弥。」

「寝てる僕に近づくからだよ。それに名前を馴れ馴れしく呼ばないでくれない。」

「師匠だからいいじゃねぇか。第一、ツナの膝の上でグースカ寝てたくせに。」

 

まだ寝足りないのか、綱吉の隣に座りなおし、ふぁ、と欠伸をかみ殺していた雲雀は、

ディーノの言葉に一瞬にして表情を険しくする。

それが単なる照れ隠しとは分かっているが、心臓に悪いなとディーノは思った。

 

「うるさいよ。」

「あの、雲雀さん、ディーノさん。お取り込み中すみませんが、そろそろ授業が。」

 

 

言われてみれば、昼休みはもうすぐ終わろうとしていて。

ディーノはそこでようやく自分が綱吉に用事があるということを思い出した。

 

「そうだ、ツナ。俺、おまえに話が・・。」

「授業をサボるなんて許さないよ。沢田。」

 

ディーノの言葉を遮って雲雀はそう一言告げる。

手にはすでにトンファーを持っていて、綱吉はヒッと身を縮めた。

 

先ほどまではあんなに穏やかに雲雀に触れていたというのに

今は中学時代と同じように怯えている。

その変わりように、ディーノは若干の違和感を覚えた。

 

「お、俺、授業に行くんで。ディーノさん、時間はあるんですか?

今日は4時には帰れると・・・。」

 

「了解。時間潰して待ってるな。」

 

「はい。じゃあ、また。雲雀さんも。」

 

そう手を振ると、予鈴のチャイムとともに綱吉は校舎へ駆け込んでいく。

雲雀はただ黙って綱吉の後姿を見送っていた。

 

「なぁ、恭弥。おまえ、いつから来てたんだ?」

「なんで?」

「いや、ツナのやつ、昼飯食ってないんじゃないかと。」

「さぁ。」

 

僕の知ったことじゃないね。

そう付け加えると、うーんと伸びをして雲雀もまた立ち上がった。

予鈴のなった時間帯、生徒は当たり前ながら見えない。

案外真面目な高校なのか、雲雀が来ているのが知られているのか、おそらくは後者だろうが。

 

彼が学ランを揺らして歩く横を、風に飛ばされた落ち葉が流れていく。

色づいた葉がまるで彼の黒一色を引き立てるように。

 

「なぁ、リボーン。」

「なんだ。」

「あいつらってどんな関係なわけ?」

 

ディーノは大木の陰にいた元家庭教師に声をかける。

彼が居たのは最初から気づいていた。おそらく雲雀も気づいていただろう。

去り際に、チラリとそちらに視線を向けたのは知っていた。

 

「ツナは昼食抜いてまで付き合うし、恭弥は髪を撫でられないと眠れないみてぇだしさ。」

 

「知らねぇよ。とりあえず、一番小難しくも最強の守護者だ。

ちゃんと掴んでおけっては言ってるがな。」

 

「はは。ツナも大変だな。」

 

空はどこまでも澄んでおり、秋という季節を強調している。

だが、夏の名残といえるように陽光は暖かい。

 

「俺もちょっと寝ようかな。」

「はん。寝首を欠かれるなよ、キャッバローネ。」

「俺も大事なツナのコマだからな。」

「分かってるじゃねぇか。」

 

最強の死神はそういうと、気配を消した。

ディーノは静かになった空間で大きく欠伸をし、ゆっくりと目を閉じる。

綱吉の授業が終わったら、昼飯変わりに何か奢ってやろう。そう思いながら。

 

End