プルルプルル

 

深夜、新一の携帯電話がけたたましい音を立てた。

 

 

Nail polish

 

「はい工藤です。」

「新一!?大変なの。急いで来て。」

 

警察の要請だろうと思っていた新一は、予想外の人物の声に

一瞬返答が遅れるものの、それもつかの間ですぐに返事を返した。

 

「どこにいるんだ?」

「私の家の近く。友達が・・・友達が・・・。」

「落ち着け。すぐに行くから。」

 

新一は蘭を落ち着かせるように、声をかけると急いで身支度をする。

彼女があれほど慌てていると言うことは、事件があったに違いない。

そして、その新一の勘が外れたことは一度もないのだ。

 

カーキのコートを羽織って、急いで階段をくだった。

暗い部屋で電話の応答をしていたせいか、暗闇に目は慣れている。

毛利の事務所までは歩いて15分ほど。

「歩きが一番だな。」

新一は門に鍵をかけると、走り出した。

 

 

 

「新一っ。」

「大丈夫か?」

「うん。」

新一が現場に到着すると、辺りは警察の車であふれかえっていた。

しばらく、蘭と話をし、状況をある程度掴んだところで、新一は目暮警部を捜す。

これだけの大がかりの捜査なら、彼もきっと来ているはずだから。

 

「工藤君。いやぁ、久しぶりだね。」

「警部、又、通り魔が出たんですね。」

 

懐かしがる目暮に、軽く会釈してさっそく事件の話題へとはいる。

警部も新一のその言葉に優しげな表情を一変して真剣な顔つきとなった。

 

「ああ。蘭君の友人がここに来る途中に誘拐された。

 もともとは、10時前に来るはずだったらしいんだが。」

 

いつまでも来ない友人に、蘭は用事が出来たのだろうと思い、特に気にとめずに床についたという。

だけれど、不安になって彼女の自宅に電話をしたら、彼女はそこにいなかった。

 

「それで、彼女の通る道を捜していたら、彼女のバックが発見された。

 傍にはバラの花があったそうだ。」

「彼女も又、紅いマニュキアだったんですね。」

「その通り。これで、5件目だ。」

 

目暮は悔しそうに、手を近くの電柱に打ち付けた。

半月ほど前から、東京都心部一帯で起こっている、誘拐事件。

いずれの被害者も、10代後半〜20代前半の若い女性達。

まるで、神隠しにでもあったかのように完全に消えてしまうのだ。

そして、誘拐された女性達の特徴は・・・紅いマニュキアを塗っていること。

それと犯行時に犯人が真っ赤なバラの花をおいていく。

 

「新一、どうしよう。」

警部と話を終えた頃、タイミングを見計らって蘭が駆け寄ってくる。

まだ、目元には涙がいっぱいたまっていて、紅く張れていた。

 

新一はそんな彼女に近づくと、小さな声で耳打ちする。

“ひとつだけ作戦がある。”と。

 

「え?」

 

新一の言葉に蘭の表情は不安の色を帯びる。

これまで、新一の行動は無茶が多い。

その無茶で死にかけたことだってある。

蘭は止めようと口を開いたが、その言葉は新一の声にかき消された。

 

「必ず、蘭の友達は助けるから、お前も注意しろよ。」

「ちょっと。どこに行くのよ!!」

 

このまま行かせちゃいけない。

昔別れた遊園地の時と同じ警報が頭の中で激しく音を立てている。

だが、蘭の伸ばした手は、新一を止めることなどできなかった。

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

「夜中に出ていって帰ってきたと思えば・・・何のよう?」

阿笠邸のドアに寄りかかって哀はじろりと前に立っている人物を見上げた。

時刻は明け方の4時。

蘭の電話で現場に行ったのが3時前だったからあれから1時間しか経っていない。

 

「いや、灰原に頼みがあって。」

「お断りよ。」

 

まだ何も言っていないのに、哀は新一の頼みをばっさりと切り捨てた。

それに、新一はいぶかしげな表情となる。

 

「まだ、何も。」

「貴方の表情を見れば分かるわ。何年、貴方といると思ってるの?

 どうせ、おとり捜査でもはじめる気なんでしょう。」

 

哀は深夜ラジオのボリュームを大きくして、誘拐犯の事件が流れているのを、聞かせた。

 

「現場も毛利さんの家の近く。そして、私への頼みは、女装の手伝いってところかしら。」

「・・・頼む。」

哀に全てを言い当てられて、新一はその言葉しか返せなかった。

誘拐された人々を手っ取り早く救出するにはこれ以上の方法はない。

哀は頭を下げる新一に深いため息を付く。

もう、何を言っても無駄なのだ。

彼は、決意してしまっているのだから。

 

「中に入って。それと、これだけは約束して。」

「無茶はするなだろ?」

「分かってるのならいいわ。約束は守るために存在するんだからね。」

 

新一は哀のそんな言葉に苦笑を漏らすと、彼女に続いて家の中へと入った。

 

 

「でも、こんなに早く女装してどうするの?出るのは深夜なんでしょう?」

「おまえ、今日、少年探偵団とキャンプって言ってたからな。

 やってもらうなら今しかないって。」

 

明るい茶色でロングストレートのウイッグを取り付けながら、

哀は“そう言えば”と思い出したように呟く。

 

「あいつら、楽しみに俺に話してたんだよ。お前もまんざらじゃないんだろ。」

「でも、一人で大丈夫なの?もし、何かあったとき動けたほうが・・・。」

「無茶はしない。人質の救出くらいできる。楽しんで来いよ。」

 

鏡越しに微笑む新一はまだ、髪型を変えただけだというのにりっぱな女性に見えて、

哀は思わずその美しさに頬が熱くなるのを感じた。

女性の自分がこうなのだから、

これからメイクをして、洋服もかえたのなら、男達はどうなるだろうか?

 

「あなたの笑顔を見てると・・不安になるわ。」

「それって、誉め言葉か?」

「ええ。」

 

ウイッグをブラシでとかして、哀は黒いスーツを新一にを渡した。

これらの道具は新一の母、有希子がおいていったもので、すべて新一専用の特注品だ。

 

「メイクは口紅だけでいいわね。」

 

これ以上、極上の品にしてしまったら、よけいな男まで惹き吊り込んでしまう。

もちろん、新一は素材がいいのでメイクなしでも充分魅力的ではあるが。

哀はそう思いながら、淡い色の口紅を唇に丁寧に縫った。

 

「あと、マニュキアも頼む。」

「紅・・・だったかしら。」

 

化粧ケースから、綺麗な紅を選び取って手に取る。

普通は磨いてから塗るべきなのだろうが、

新一の爪は手入れを施していないのにも関わらず、とても綺麗なのでその必要はない。

哀は新一の外側の爪から丁寧に均一に塗り始めた。

 

 

 

血のように綺麗な紅

 

でも・・・

 

「工藤君にはあまりあわないわね。紅は。」

「そっか?」

「ええ。」

 

まるで彼が血に染まってしまったようで、

一本一本、塗るたびに哀は言いしれぬ恐怖を感じる。

彼の手が紅く染まるなんて・・・

 

「灰原?」

「ああ、ごめんなさい。」

 

はみ出たマニュキアをふき取って、哀は軽く頭をふった。

最後にトップコートを塗り、ようやく完成だ。

 

「紅は嫌いだわ。」

 

自分の指先を食い入るように見つめて呟く哀に新一は慈愛を含んだ笑みを浮かべる。

 

紅は血の色。緋色に染まる・・大切な人達。白い雪に紅が広がるの・・・。

 

そんな事を彼女は随分と前、呪文のように何度も呟いていたものだった。

 

 

「夜遅くに悪かったな。」

「工藤君。くれぐれも今日は捜査以外で外を出歩かないでね。」

「あ?ああ。」

 

新一を玄関まで送って、哀はひとつ用件を付け加えた。

その意味を彼は解していないようだったが、まぁ、熱い日中に外に出ることはないだろう。

玄関の扉を開けた先には、朝焼けに染まった道路が続いていた。

 

 

+++++++++++++++

 

 

「そろそろ・・かな。」

新一は携帯で時間を確認して立ち上がった。

夜の10時。犯行時間にはもってこいの時間帯だ。

おまけに、今日は月が出ていない。

 

「うまく、誘拐してくれよ。」

 

とんでもない言葉を呟いて、新一は暗闇の中に身を投じる。

紅いマニュキアを施した爪が妖艶な輝きを魅せていた。

 

 

コツコツコツ

深夜、人通りの多い大通りを黒のスーツ女性が歩く。

ピンっとのびた背筋に、長いストレートの髪が美しくなびく。

酔っぱらいの親父も、いちゃつくカップルも皆がその女性に振り返った。

きっと、明日の会議の事でも考えているのだろう。

 

知的な雰囲気に通り過ぎる人々はそう予想するが、

 

実際は

くっそー、なんでハイヒールってこんなに歩きにくいんだよ。

と、全く別の次元の思考だった。

 

誘拐されるコツは簡単。

ある程度、大通りを歩いた後に、人通りの少ない道へと入り隙をつくることだ。

きっと、犯人はこういうところで、獲物を定めるはずだから。

 

30分ほど歩いてから、新一はずっと距離をおいてついてくる数人の男達に気が付いた。

どうやら獲物を自分に定めてくれたらしい。

新一はその口元を少しあげて微笑すると、裏路地へと足を向けた。

 

一発みぞおちを殴られるか薬品を嗅がされるかのどっちかだろうな。

 

人通りの少ない路地をつけてくる男達に新一は誘拐の手口を模索する。

前者は痛いので遠慮したいが、後者も薬品の類は過剰反応する体なのでできれば避けたい

 

まぁ、望んだとおりに誘拐してくれる犯人がいるはずもないし。

 

「んっ。」

気を抜いた瞬間だった。

後ろからハンカチのようなもので口と鼻とをふさがれたのは。

 

薬品・・・かよ

 

新一は遠くなる意識の中、せせら笑う男達の声を聞いた。

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

「今日も絶好調♪ってあれ?」

 

KIDはハングライダーで飛行しながら、目下に見える怪しい影に目を留めた。

 

「あれは・・・名探偵。」

男達に車に運び込まれる、女装をした名探偵。

“この距離でも分かるなんて、愛だね〜”

などと思いつつもKIDは発進した彼らの車を追う。

 

「また、危ない捜査をしてるんだろうな。」

 

あの名探偵がそう簡単に敵の手に落ちることはまず無い。

これは、協力して組織を潰した時に垣間見た、彼の戦闘能力で実証できる。

それなら・・・おとり捜査だ。

彼らが車から投げ捨てた紅いバラの花。

それに、女装をして紅いマニュキアを塗っていたのだから間違いない。

 

「とりあえず、サポートくらいしてやるか。女装した名探偵も貴重だしね。」

 

本当は彼に触れたあの男達を速効で殴り殺したいくらいだけど

でも、彼の邪魔だけは決して出来ないから。

時が来るまで待とう。そう決心して、KIDは高度を下げると

車を見失わないように気を駆けながらその追跡を続行するのだった。

 

 

+++++++++++++++

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

体を揺さぶられる振動と、女性の声。

新一はガンガンする頭を抑えて、ゆっくりと目を開いた。

どうやらどこかの工場の倉庫らしい。

 

「岸本・・・だな。」

「えっ。どうして名前を。」

「俺、覚えてるか?」

新一は起きあがって、前髪を掻き上げるとニヤリと微笑む。

暗闇に輝く蒼い瞳は、数年あっていないとしても彼女には充分なヒントだった。

 

「高校で同じクラスだった・・・工藤君?」

「蘭に頼まれて助けに来た。」

「でも、本当の女性だとおもっちゃったよ、私。」

 

知り合いだと分かってホッとしたのか、ようやく彼女に微笑みが戻る。

女性と思われても嬉しくないのだが

新一はそう口に出すのをおさえて、一緒になって笑った。

 

 

「私の他の人達は・・・みんな殺されたの。」

「じゃあ、一人ずつ順番に?」

「うん。次は私。彼らは紅いマニュキアの塗られた手が好きみたいで、

 みんなの手を切ってはそれを保管している。奥に冷蔵倉庫があるの。」

 

岸本はそう言って立ち上がると、監禁されている部屋の奥へと進んだ。

どうやら、拘束はされていないらしい。

新一はその状況にようやく気が付いて軽く胸をなで下ろした。

 

岸本に案内された先には、巨大な扉があった。

銀のアルミ製の扉だ。

岸本はそれをおそるおそるひらく。

 

「私は見れないから。」

 

そう言って目を瞑ると、新一に中を見るように促した。

 

岸本に言われるまま中をのぞき込めばそこにあったのは、4人分の手。

どれもが紅いマニュキアをしていた。

 

「次は私が殺されるっ。」

「大丈夫だから。落ち着け。」

その“手”を視界に入れてしまったのか、岸本はガタガタと震えてそのばに座り込んだ。

この恐怖に1日と雖も脅かされ続けたのだ。

心身共に疲労は蓄積されているに違いない。

 

「入り口はあそこだけか。」

「大丈夫なの?」

「ああ、蘭に岸本を連れてかえるって約束したしな。」

不安げに見つめる彼女の頭を軽くあやすように叩いて、新一は胸元のボタンを開ける。

 

園子が昔ちゃかすように言ったあの言葉を思い出しながら。

 

『男を魅力するなら、胸元をちらつかせて、涙目の上目遣い。

 ついでに、“お腹が痛いからさすって”ってかわいく言えば、手に墜ちたも同然ね。』

 

新一がやると犯罪になるけど。そう蘭が付け加えると園子は爆笑していた気がする。

それが通じるかは分からないが・・・とりあえず出来ることをやるしかない。

 

 

入り口の扉は、上半分がガラスばりになっていた。

もちろん、ちょっとやそっとじゃ壊れない強化ガラスだ。

そこの前には見張り役の男が一人立っている。

なかなか肉付きのいい男だ。

新一は自分よりも男らしい彼に少し嫉妬の念を持ちながらも、とりあえず扉を叩く。

男が気が付いて、近寄ってきた。

 

「何だ?」

「あ、あの。お腹が痛いんです。さすっていただけませんか?」

 

園子の言うとおりに上目遣いで・・・媚びるような声。

 

そして男は、すんなりと扉を開いた。

 

 

ガツン

 

「この変態野郎が。」

股間に新一の黄金の右足がジャストフィット。

蹴り上げられて、男は意識を飛ばしている。

こうも単純な生き物が男なのかと思うと、同姓ながら泣けてきた。

 

「行こうぜ。」

「うんっ。」

 

新一はスカートのなかから、拳銃を取り出すと彼女の手を引く。

麻酔銃の弾は5発。無駄玉は使えないな。

新一は前から近づいてくる足音に軽く舌打ちをした。

 

「大丈夫?工藤君。」

「楽勝。」

あの時、嗅がされた薬品がまだ効いているらしい。

新一は霞む視界に嫌気がさしながらも、次から次へと襲いかかる男達を倒していく。

麻酔銃の弾は残り一発。

それに庇いながらの戦いほどしんどい物はない。

 

「そこまでだぜ、お嬢さん。」

「ちっ。」

広い鉄鋼置き場に出て見れば、そこにいるのはたくさんの拳銃を持った男達。

入り口まであと数メートルだというのに。

 

「おとなしくその銃を置きな。」

カチャリと耳の近くで音がして、ようやくこめかみに拳銃を押さえつけられていることに気づく。

もう、頭は割れそうなほど痛かった。

 

「随分と意妙なコレクションをしてるんだな。」

「売ると高く売れるんだぜ。良い商売だよ。」

嫌みを言う新一に銃を押し当てた男は自慢げに言葉を吐き捨てた。

敵の数は10人ほど。脱出は不可能きわまりない。

 

「抱いてから殺そうか?それとも殺してから抱いてやろうか?」

「どっちもお断りだな。」

襟首を捕まれて無理矢理視線を合わせられる。

それに、新一は強気な笑みで応戦する。

 

 

 

 

“あ〜あ。名探偵。それが相手を挑発するんだよ。

もう、あの男のあそこ、ビンビンに勃ってるし。”

 

KIDはその様子を積まれた鉄鋼の上から見守りながら、深くため息を付く。

あんな強きな笑みは、相手を煽る効果しかを持たないと言うのを彼は知らないのだろうか。

 

「そろそろ、ナイト様の出番だろうね。」

このままでは、押し倒されて犯されてしまうだろうし。

KIDはそう思いながらスッと音もなく地面へと飛び降りる。

白いマントが暗闇にはためいた。

 

「誰だ!!」

KID!?」

「なんでこんなところに。」

騒ぐ下っ端の声などもはや彼に聞こえていない。

彼が見つめるのはすでに、組み敷かれている名探偵だけ。

 

「随分とそそられる眺めですね。名探偵。」

「何しに来たんだよ。KID。冷やかしか?」

 

組み敷かれているのにも関わらず、その瞳は強くKIDを貫いた。

 

「いや、どうせならわたくしが組み敷きたかったと思って。」

「馬鹿にしにきたのなら帰れ。」

「そんなこと言われていいのですか?絶体絶命のピンチのように見えますが。」

 

KIDは和やかに会話を進めながら、襲いかかってくる男達の攻撃を身軽にかわす。

 

「条件は何だ。」

「素直に助けてくださいって頼んでくれれば結構です。

 あっ、あと事件が解決したらわたくしに付き合って下さい。その格好で。」

「なんかムカツク・・・。」

 

うまく誘導されているようで新一は腹立たしかったが、今はその要求をのむしかない。

 

 

「迷ってる暇は無いはずですよ。彼女も危ないし。」

 

男達に追いかけられている岸本を見ながら、KIDはクスクスと笑う。

こんなに冷たい男だったか?

新一は組織を潰すときに協力してくれた時とのギャップに驚かずにはいられない。

そんな、新一の感情を見破ったのか、KIDはさらに笑みを深めた。

 

「かいかぶっていましたか?わたくしのこと。」

「別に。」

 

 

「・・・新一以外のことなんてどうでもいいんだよ。」

 

“新一”

はじめて呼ばれた名前に一瞬、身がこわばる。

いままでは、名探偵としか呼ばなかったというのに。

それに、いつもとは違う言葉遣い。

たったそれだけの事なのに緊張するのはなぜだろう。

 

「おい、さっきからシカトしてんじゃねー。」

 

新一を組み敷いていた男は、鼻息を荒くしながら声を上げた。

そして、もうヤケだとばかりに新一の首もとに唇を押しつける。

 

KIDはその瞬間、頭のリミッターが外れたのを感じた。

 

「頼まれないと助けないんじゃなかったのかよ?」

「ここから協力するか、しないかってことです。」

組み敷いていた男はKIDに殴り飛ばされて、壁の付近で血を流していて

手足にはトランプが刺さり、顔は見るも無惨に変形していた。

だが、新一はそれを気にすることはない。

やりすぎだろうとは思ったが、ムカツイタので止めなかったのだ。

 

「で、協力を要請しますか?名探偵。」

「・・・助けてくれ。KID。」

「よろしい。じゃあ、全てが終わったら帝丹公園で。」

 

軽くKIDが自分の隣から飛び上がって、男達のもとへと向かう。

それから数分後、鉄工所の鉄鋼置き場には叩きのめされた男達の山が出来ていた。

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

岸本を無事に送り届けて、警部達にも事情を説明して、

新一はKIDとの約束の場所へと向かう。

さんざん、勝手な行動をしたことを目暮達に怒られたが、さして新一は気にしていない。

 

早期解決にはいちばんの手段。

まぁ、心配をかけたことは悪いと思うが。

 

 

 

「おい、来たぞ。」

人のいない公園のベンチについて、新一は小声で呟く。

どうせ、その辺りに隠れているのだろうし。

 

「せっかく綺麗にしてるんだし、男言葉は止めようよ、名探偵。」

「・・・。」

噴水の影から現れたのは、自分とそっくりの男。

KIDには似てもにつかない雰囲気だが・・・気配は同じだった。

 

「俺に変装しなくてもいいだろ。」

「いや、これが“地”なんだけどね。」

新一の言葉に男は困ったような笑みを浮かべる。

人なつっこいその笑みは、自分と同じ顔のはずなのにひどく似合っていた。

 

「で、何のようだよ。」

「まぁ、とりあえず座って。爪の色変えるから。」

新一は彼に促されるまま、ベンチへと腰を下ろす。

その隣にKIDらしき男も座って、新一の手を取った。

 

「綺麗な指だね。」

「おまえだってそうだろ。」

 

新一は自分の手を握っている彼の手を見て、そう言葉を漏らす。

自分の手よりも細く長い・・・・。

 

「俺は職業柄、手には気を遣うんだよ。あっ、自己紹介がまだだったよね。

 黒羽快斗って言うんだ。快斗って呼んでね。」

 

ウインクと共に微笑む彼とKIDは対極の位置にあるような感じなのに、

彼がKIDだと言われて妙に納得できるのはなぜだろう。

 

新一は丁寧に除光液で紅い色をはがす快斗の作業を見ながら

ぼんやりとそんなことを思っていた。

 

「器用だな。」

「まぁね。でも、やっぱり名探偵にはこういう色が似合うよ。血の色は不安になる。」

 

シルバーがかったホワイトを下地としてラインストーンが数カ所にいれてある。

快斗は塗りあがった爪を満足げに眺めて、そしてキスをおとした。

 

「今日のお駄はこれだけでいいよ。」

 

真っ赤になって、金魚のように口をぱくぱくさせている新一にニコリと微笑む。

新一は声にならない声を必死に上げようとしたが、口だけが動いてそれは音にはならない。

 

「今度は、食事に誘うよ。新一。」

 

未だに硬直のとけない彼の唇も奪って、快斗は満足げに公園を出た。

 

 

 

「快斗!!」

 

 

 

「えっ?」

「食事なら魚専門店でしか食べないからな。」

 

勝ち誇った笑みとともに、闇の中に消えていく新一を快斗は唖然として見つめる。

自分の大嫌いな物を分かっているなんて。

本当は正体も随分と前からばれていたのかも知れない。

 

 

「あ〜あ。やっぱ敵わないよ。」

 

 

 

快斗と名前で呼ばれた瞬間、どれだけ嬉しかったか彼にはきっと分からない。

 

 

 

「もう、逃げられないからね。」

 

 

 

煽ったのは新一なんだから

 

END

 

 

+あとがき+

もうすぐ4万Hit達成なので日頃の感謝を込めて、フリー小説です。

新一が誘拐される話が書きたい!!そう思って書き上げました。

今回は少し素直でない快斗君も目指したんですが・・・う〜ん。

とりあえず、これからもよろしくおねがいします。

 

 

 

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