母親の雇った大学生の家庭教師は、警察に突き出したくなる格好で部屋にやってきた。
いや、突き出したところで自分は悪くないだろう、と新一はしみじみと年上の彼を見ながら思う。

顔なじみの警部や一課の刑事たちもきっと納得して手錠をかけてくれるはずだと。


Trick or Treat!!」

聞こえてきたおなじみの言葉に新一は手に持っていたシャープペンを懇親の一撃で投げた。



〜ハロウィンな先生〜



「新一君。シャープペンでも人は死ぬかもしれないんです。」

「いっそ死んでください。いえ消えてください。」

見事に紙一重で新一の攻撃から逃れた家庭教師・・もとい、白いマントをつけた男は

おまえいったい何歳だと突っ込みたくなるように部屋の隅でしゃがみこむと、

小さく“の”の字床に書いて拗ねていた。

半年前から勉強を見てもらっている彼は両親の友人の息子らしく、
家庭教師としての腕もなかなかのものだとは新一も一応は認めている。

こちらの疑問にも、懇切丁寧に答えてくれるし、さらに難解な応用問題まで即行で作ってくれて、
暗号を解くようなそれは新一のお気に入りだ。

だが、こうして行事を楽しもうとする思考は、新一には未だに理解の範囲外であった。

「先生。その格好は何ですか?」
「これ。これは、KIDの仮装!!」

「へぇ、嫌がらせですか・・・。」

新一が興味を示したことが嬉しかったのだろう。

大学生天才?家庭教師、黒羽快斗は犬であったなら

尻尾を振り千切れんばかりに揺らしているであろう表情で答える。

だが、新一の機嫌は、そんな快斗をみてさらに下降した。

「嫌がらせって・・・。」

「俺がKIDに毎回負けてるって知ってますよね?」

「でも、宝石は守ってるじゃん。」

すごいことだよ。
と慰められても、新一の気分は一向に晴れなかった。

KIDは、探し物以外の宝石は盗まないから、どうせ俺が守らなくても返ってきますよ。」

はぁ、とため息をついて、新一は床に落ちたシャープペンを拾う。
カチカチと押せば芯は出てくるためどうやら壊れてはいないようだった。

「先生。そろそろ馬鹿やってないで先週の応用問題の答えあわせを・・・。って、先生?」

黙り込んで下を俯く快斗に、新一は言い過ぎただろうかと眉間にシワをよせる。

いつもならば、最初はふざけていても

ちゃんとすべき時は、気持ちを入れ替えて自分の隣に椅子をもってくるというのに。

「・・あ、ごめん。ちょっと驚いて。」
「へ?」

「いや。犯罪者のそういうところまで考えてるんだなって。」

何事もなかったかのように快斗はニコニコと笑いながら、新一の隣に腰を下ろす。

「俺だって、相手の気持ちとか理由くらい考えますよ。」

「そうだね。新一君はそういう子だ。」

うん。ともう一度うなづく快斗に新一は小さくため息を漏らした。
こういう言い方をされると、どうも子ども扱いされているみたいで気に入らないのだ。

もちろん、相手は3歳年上だけれども。

「それよりさ、お菓子は?」

「まだ続いてたんですか。ていうか、その格好のままなんですね。」

さすがにシルクハットとマント、それにモノクロは外してはいたが・・・。

「だって、ハロウィンだよ。」

「はいはい。もう何も言いません。あと、お菓子は休憩時間まで・・・。」

「今無いなら、イタズラ決定!!」

「は!?」

言葉と共に突然ふさがれた唇。
新一は何が起こったかわからなくてただただ硬直するしかなかったのだった。