せっかくいい天気なんだし。 そう言って長女から家を追い出されたのは5分前のこと、 こうして快斗と新一は家の側の路地を歩いていたりする。 頭に暑さ対策とかぶせられた帽子を深くかぶり直し 新一は少し不機嫌気味にため息をついた。 暑さ対策って言うなら、こんな日に外に出すな。 家を出るときに次女に丹念に塗るようにとの注文付きで差し出された日焼け止め。 彼女の新作らしく、白く残らないうえにべた付かず、 さらにUVカットはどこのメーカにも負けないとのお墨付きの一品だ。 だが、残念ながら新一にとって“UVカット”の大切さなどどうでもいいようで 用は暑い日に外に出なければいいとの主張。 すると次男から“ビタミンDは日光に当たることで作られる”などと言われて、 先ほどのかぶりなおした帽子を手渡された。 まったくどうしてこんな日に。 堂々巡りするそんな疑問。 そして生まれる苛つきは自然と隣を機嫌よろしくあるく旦那に向けられる。 「新一、睨み付けないでよ。俺がなんかした?」 「八つ当たりだ。ありがたく受け取れ。」 快斗の主張通り、確かに今回は快斗は何もしていない。 いつもは、外に出かけるとき、 熱射病になったら大変だからと口うるさく指示を出すというのに。 今回は不思議なほど静かで、渡されたのは上着だけ。 店に入ったときに一枚いるから。との理由で。 「さて、どこに参ります?お姫様。」 「よっぽど俺を怒らせたいらしいな。」 ギロリと睨んでも、その甲斐はないらしい。 幸せいっぱいの笑みを始終浮かべているだけ。 何がそんなに嬉しいんだ。とは聞かない。 返ってくる答えはわかっているから。 もし、そんなことを第三者が聞けば、それは“惚け”と呼べれる類のものだと言うだろう。 だが、幸か不幸か、その場には第三者などいないのだった。 しばらく当てもなく、歩いていると、小さな路地から一匹の猫が飛び出す。 白く目が蒼色の猫。 ピンと耳を立てて、立ち止まると二人を交互に見上げた。 「このあたりじゃ見ないね。」 「ああ。」 色、艶ともにきれいな猫。 野良ではないようだが、このあたりの家では見かけない。 猫は“にゃー”と柔らかな声でないた。 「なんだ、おまえ迷子か?」 新一がしゃがみ込んで猫の背をなでる。 猫はされるがままにおとなしくして、暫くすると新一に足をこすりつけた。 「おとなしいな。」 「目の色、新一にそっくりだね。」 ひょいっと快斗が持ち上げると、猫は“うにゃっ”っと体をよじる。 「何だよ、俺はいやだって?」 「雄猫じゃねーか。そいつ。」 「ベーッだ。新一は俺のだもんね。」 「猫に焼き餅焼くなこの馬鹿。」 ペシンと頭をたたくが、猫から見ればそれはたんなる痴話喧嘩で 当てられてはたまらないとばかりにピョンと手の中から逃れた。 だけれども、どこかに逃げる仕草はない。 まるで何かを言いたいようにちょこんと座って、 快斗と新一を最初と同じような体制で見上げる。 「何だ?」 新一は再び猫に近づく。 青い瞳の色はどこかで見たことがある輝き方だ。 快斗は新一の色に似ていると言ったけれど・・・・。 「快斗に似てるな。目の色。」 「え?俺?」 「ああ。いや、それ以上に・・・雅斗?」 にゃー!! 猫は新一の言葉に強く反応を示す。 まるでご名答と言うように。 「そう言えば家にいなかったね。雅斗。」 「朝から灰原と由梨に呼ばれてた気も。」 二人がマジマジと見つめると、猫はペロッと新一の唇をなめる。 その瞬間、ポンッと小さな煙と共に、シャツとジーパン姿の中学生が現れた。 そう、見間違えもしない、快斗と新一の息子だ。 「マジで死ぬかと思った。」 雅斗は流れる汗を手で拭いながらゆっくりと立ち上がる。 新一はそれを無心状態で見つめ、快斗はワナワナと拳を握りしめた。 「雅斗君?君はいま、何をしたかな?」 俺のみ間違えじゃなければ、新一の唇をなめたよね? 「あ、あれは仕方がなかったんだよ。由梨が元に戻る方法がそれしかないって言うし。」 俺としてはおいしかったけど。そう内心付け加えて苦笑を浮かべる。 「今、おいしい状況を作ってもらえたって思っただろう。」 「は!?そんなこと・・・。」 「考えたな。そこになおれーーー。」 「お、落ち付けって。」 すさまじい殺気に、逃げ失せる雅斗。 そしてそれを追いかける快斗。 一人の超された新一は、パンパンとひざに付いた砂を払う。 「で、何がしたかったんだ?」 振り返って尋ねる相手は、いつの間にか潜んでいた3人の子供たち。 「4人で出かけようと思って。」 「あの二人、うるさいし。」 「図書館でのんびりと過ごして、ランチでもどう?」 「それもいいな。」 夏の暑い盛り、長男と父親以外はたっぷりと休日を謳歌したのだとか。 |