虹の向こう側には何があるのだろう。 どこまで登れば太陽に手がとどくのだろう。 雲はどこまで流れていくのだろう。 疑問のたくさんあった幼少時代。 今ではその気持ちさえ薄れて、空を見上げることもなくなってしまった。 ◆ジャングルジム◆ 新一は雨上がりの道路を一人歩いていた。 朝早いためか聞こえるのは木々を揺らす風の音。 春休みに入ってからはずっと昼頃まで寝ていたはずなのに 久しぶりに、朝早く目が覚めた。 隣で熟睡している同居人を残して、新一は軽装に着替える。 「なんか、気持ちよさそうだな。」 カーテンを開けた瞬間視界に広がったのは、朝焼けに色づく町並み。 気温差のためか、うっすらと霧が出ていた。 こんな日は、インドア派の新一であってもやはり散歩をしたくなるもので。 ゆっくりと快斗に気づかれないように階段を下りていく。 起きたときに隣に自分がいなかったら快斗はどんな顔をするだろうか? そう考えたら、子どもみたいだがなんかワクワクしてきた。 住宅地を抜けて、河原なんかに行ければきっと気持ち良いんだろうが、 あいにく新一の家の周りはそんな川など無く、とりあえず開けた公園にいくことにする。 予想通り、数名のジョギングをしている年輩の男性がいるだけで、公園は静かだった。 芝生は露によってすっかり濡れてしまっているので、 とりあえず座る場所をと新一は辺りを見渡した。 最近は物騒な物が置かれるかも知れないからといって、 ベンチなんかもめっきり減ってきたようで・・・・。 ぐるりと見渡して、見つけたのはジャングルジム。 この年で登るのはどうかと思ったけれど、 人も少ないからいいかと自分を納得させて、緑色のジャングルジムに手をかける。 ひんやりと、冷たさが伝わってきた。 ジャングルジムのてっぺんについて、空を見上げれば太陽に少し近づいた気がした。 「し〜ん〜い〜ちっ。」 どっこいしょっと腰をおろしてようやく落ち着いた瞬間に、聞こえてきた声。 声の出所を見れば、少し拗ねた顔をした快斗が腕組みをして見上げていた。 「何してんの?もうっ、心配したんだからなっ。」 “そこでまってて”そう告げて快斗はジャングルジムを登り始める。 新一はその姿を見ながら高校生にもなってオレ達は何をしているんだろうと思うと、 笑いがこみ上げてきた。 「よっし、登頂成功っと。久しぶりだな、登るの。」 “登頂って山登りかよ?”そう思いつつ新一は隣に立つ快斗を見上げる。 快斗はジッと空を仰いでいた。 「なんか、太陽に近づいた気がするよね。ジャングルジムに登ったときって。 絶対、学校の屋上とか、家の2階とかの方が高さがあるのにさ、 ジャングルジムに登ったときが一番近くに感じる。」 「それ、分かるかも。」 いつの頃からか見上げなくなった空。 こうして、ジャングルジムの上で眺める朝があっても良いかも知れない。 「まあ、こんな気持ちの良い朝なら外に出かけたくなるけど、 一言俺に言ってからにしろよ。朝起きたとき隣にいないのは寂しいし。」 「あ〜、それも分かる。」 新一の何とも言えない同意の声に、快斗は苦笑しながら腰掛けた。 そう広くないジャングルジムのてっぺんなので、 お互い背中を向けてもたれかかるような体制をとり、足を下へと投げ出す。 布越しに伝わるのは、ジャングルジムの冷たさと背中の暖かさ。 「腹、減ったかも・・・。」 「新一にしては珍しいね。よっし、今日は快斗君特性ブランチにしましょう。」 ポンッと手を叩いて、立ち上がったと思うとそれと同時に太陽がさっきよりも、 グンッと近くなった。 気がつけば、快斗に抱え上げられている自分がいて。 「おいっ、快斗!!」 「あ〜、暴れないで新一。危ないから。」 お姫様抱っこの状態で、トンッとほとんど振動もなく 快斗はジャングルジムの下へと飛び降りる。 ようやく、地面に足がついたかと思えば今度はギュッと抱きしめられた。 「快斗、いい加減に・・・。」 「新一がさ・・ジャングルジムから太陽を見上げてたときどっかいっちゃうんじゃ ないかって思った。なんか、風に攫われていきそうだって感じたんだ。 馬鹿みたいだけど。」 「馬鹿だな。」 「うん、俺は世界一の新一馬鹿だからね。」 顔をパッと上げてにっこりと微笑んだかと思うと、今度はグイッと引っ張られて。 「朝ご飯にしよっ。」 「ころころ表情が変わる奴だな。」 「そんなところに惚れてる?」 「勝手に言ってろ。」 〜おまけ〜 「・・・哀君。ボーっとしてどうしたんじゃ?」 「いえ、ちょっと今の時間には珍しい人がいただけ。」 「そうじゃったんか。じゃあ、わしはもう一周、走ってくるが哀君はどうするかね?」 「そうね・・・ジャングルジムにでも登ってくるわ。」 フフッと笑ってジャングルジムへと向かう哀を博士は首を傾げながら見送った。 |