ピンポーン 「雅斗、由佳。頼む。」 「「は〜い。」」 昼下がりの日曜日。工藤邸にお客様がやってきた。 |
◇来客◇ |
今年の初夏に産まれた弟と妹をあやしている両親の変わりに雅斗と由佳はドアを開けに向かった。 もちろん、一度確かめてから開けるように言われているので確認を忘れない。 「どちらさまですか?」 「白馬です。」 雅斗の問いかけにドア越しだが、シャキッとした感じの男性の声が返ってくる。 2人は聞き覚えのない名前に顔を見合わせて首を傾げながら、今度は由佳が言葉を発した 「ママとパパ、どちらのしりあいですか?」 「あら、しっかり躾られてるじゃない。そうね、お父さんの方のお知り合いよ。」 由佳の問いかけに返事したのは女性特有の上品な声。 とりあえず、来客は最低2人いて、父親の知り合いのようだ。 そこまで分かると、2人は『まっててください』と来客に告げ、父親に確認しに向かった 「あれ?お客さんは?」 バタバタと誰も連れずに返ってきた息子と娘に快斗は小首を傾げた。 「“はくば”ってパパの知り合い?」 「入れてもいいの?」 「白馬?あの、白馬か?」 子ども達から発せられたのは、数年前にロンドンへ引っ越した友人のひとり。 まあ、友人とよべる関係だったかどうかは未だかつて謎なのだが。 快斗は複雑な表情をしながら玄関へと向かう。 なぜ、自分がここにいることを知っているのか? 突然、何のためにここへ来たのか? そんな疑問を胸に抱いて。 「黒羽君。お久しぶりです。」 「久しぶりね。黒羽君。」 「紅子?おまえ、なんで一緒に。」 ガチャリと開けたドアの先にはすっかり社会人といった感じの白馬、 そして彼に寄り添うように立つのは、高校時代よりも魅力を増した女性。 彼女も又、白馬が転校して直ぐに学校を辞めた。 「報告が遅くなりましたが、僕ら結婚したんですよ。」 「貴方の驚く顔を見ようと思って、今日は、娘を連れてきたの。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・えーーーーー!!」 ハハッと照れ笑いしている白馬と、娘を自分の前に立たせる紅子に 快斗はすっ飛んだ驚きの声を上げることしかできなかった。 まあ、確かに急にいなくなった友人が来たというだけでも驚きなのだが、 さらにその2人が結婚していて子どもまでいるといわれては驚かずに入られないだろう。 「あら、お得意のポーカーフェイスも台無しじゃない。」 「そりゃあ、誰だって驚くに決まってるっ。」 初めてポーカーフェイスの崩れた表情を見た紅子は本当に嬉しそうに笑っていた。 その様子を白馬家の長女と黒羽家の長男長女は不思議そうに見ている。 それに気づいた白馬はしゃがみこんで黒羽家の子ども達に話しかけた。 「こんにちは。僕はお父さんの友人の白馬探です。」 「ぼくね、雅斗。」 「私は由佳。」 父親の友人と聞いて警戒を解いたのか、ニコリと笑って仲良く自己紹介をする。 それを見て快斗は“俺に似て美形だろ?”と自慢げに付け足した。 「ねえ、名前なんていうの?」 “家の娘も負けていません”などと言い合う白馬と快斗、 それを楽しそうに眺める紅子達をほっといて、 由佳はさっきから黙って立っている白馬家の一人娘に話しかけた。 まだ、幼稚園などに行っていない由佳達にとって同年代の子どもと会うのは初めてなのである。 「紅里よ。」 「よろしくね、紅里ちゃん。」 由佳がそう言って手をさしのべた瞬間、彼女の手の中からポンッと小さな黄色の花が出てきた。 紅里はそれに驚いたような表情を作る。今まで無表情だった彼女が初めて見せた表情だった。 「あら、もうマジックできるの?さすがは黒羽君の子どもね。」 「そういう、紅子の娘だって黒魔術くらいできるんじゃねーか。」 「失礼ね。家は歴とした魔女一族。あたりまえじゃない。」 紅子は娘の頭に軽く触れると妖艶な笑みを見せる。 その表情は高校時代と殆ど変わっていなかった。 「快斗、いつまで立ち話してるんだ?高校時代の友達なら上がってもらえよ。」 それから数分いろいろと会話をしていたら、ガチャリと扉が開いて新一が顔を出した。 何時までも部屋に戻らない彼らを不審に思ってきたのだろう。 「あれ?“はくば”ってあの白馬だったのか。」 「あら、探。お知り合いなの?」 「いえ、僕は・・・。何処かでお会いしましたっけ。」 ポンっと納得したように手をたたく仕草をした新一に、紅子は驚いたようにして白馬を見る。 だが、当の本人もその事に驚いているようだった。 ・・・げっ、こいつと会ったのは、黄昏の館の時だ。あの時俺はコナンだったから知るはずないよな そんな2人の驚いた顔にようやく新一は己の失言に気づいた。 ここで、またいろいろと説明するのは面倒だし、なにより女になったなんて 知られるのはできるだけ避けたい。 「い、いえ。旦那が貴方のことをよく話すんですよ。」 「ああ、それでですか。」 「ええ。とにかく中にお入りになって下さい。今、お茶を用意しますので。」 新一はどうにかそう切り抜けるとバタバタと慌ただしく家の中へと戻っていった。 それを見て苦笑しながら快斗もとりあえず3人の来客を家の中へと招き入れる。 「ところで、ここは昔、工藤探偵の家だと思っていたんですが。」 「譲り受けたんだよ。あの、名探偵が行方不明になった後でね。 工藤優作さんとは知り合いなんだ。」 靴を脱ぎながら家を観察する白馬に快斗は適度な理由を考えて 持ち前のポーカーフェイスを保ったままそう答えた。 昔から白馬をあしらうのには慣れているから、とりあえずばれることもないだろう。 そう高をくくっていたのだ。 だが、人生そう甘いものではない。 「やっと分かったわ。工藤、そう彼女の気配はあの光の魔人と同じなのよ。」 「何を考え込んでるかと思ったら。しかしそれは本当ですか?紅子。」 「ええ、間違いないわ。あんな高貴な気配を間違えるはずがない。」 その瞬間、快斗は全身の血の気が引いていくのを感じずにいられなかった。 紅子が確信してしまったからには誤魔化すのはほぼ不可能に近いのだ。 きっと、どういうことか今から聞かれるに違いない。 「黒羽君、説明して頂戴。」 「消えた工藤探偵。工藤探偵が暮らしていたこの家に暮らす貴方達。 彼女が出てきたときに使った男言葉。日本人には珍しい蒼い瞳。 それに紅子のこの言葉。証拠は揃っているんです。」 「警察の仕事が板に付いてきたみたいだな、白馬。」 「茶化さないでください。いったいこれはどういうことなんですかっ。」 ジリジリと詰め寄られながら、快斗はそう返すことしかできなかった。 海外の現場でバリバリに働いている白馬や魔術を極めた紅子を あの時のように誤魔化すのはかなり難しくなってきている。 やはり、皆それなりに成長しているのだ。 それに比べて自分は裏家業を辞めたためそっち方面の知識は少々劣っているのかも知れない。 「快斗、もう誤魔化さなくていいぜ。まあ、おまえらなら大丈夫だろうからこっちで話す。 とにかくリビングに入れよ。」 彼らがこの家に来たときから誤魔化すのは不可能だと予想していた新一は腹をくくって、 快斗に詰め寄っている2人に声を掛ける。 まあ、確かに彼らならこんな信憑性の無い話も信じてくれそうだ。 「つまり、貴方が工藤新一っていうわけですか。」 「やっと納得がいったわ。」 それから数十分後、話が全て終わり、4人はゆっくりとお茶を飲んでいた。 ちなみに子ども達は子ども達同士、楽しそうに隣の部屋で遊んでいる。 「しかし、黒羽君にはもったいないですね。」 「そうかしら、なかなか捻りのある組み合わせじゃない。 平成のホームズとルパンのカップルなんて。」 「だーかーら。俺はKIDじゃないって言ってるだろう。」 数年間離れていた友人だったがその会話はあの頃と変わらない。 何だかんだいっても、結局は腐れ縁の強い友人なんだなと、新一は遠目に見ながらそう感じていた。 きっと、これからは彼らはこの家に訪れる重要な来客の1つとなるであろう。 そして、隣人の化学者とも親しくなっていくような気がする。 どことなく、紅子と名乗った女性の雰囲気は彼女と通じるところがあるから。 「新一、黙ってみてないでこの2人をどうにかしてよ。」 そんなことを思っていたら快斗が助け船をも止めるように新一に視線を向けてきた。 「俺が知るかよ。」 新一は面白そうに微笑んで、席を立ち隣家が見える窓辺へと向かった。 後ろでは子どものように文句を言う快斗の声が聞こえる。 だが、その声を思考から除外して、新一は隣家の方を窓越しに見た。 正確に言えば阿笠邸の庭に立つ少女なのだが。 彼女は不適に微笑んで“うまくいったの?”と視線で問いかける。 それに“全部話した”と返せば、呆れたような表情となるのが ここからでも手に取るように感じられて、新一は思わず苦笑を漏らしてしまう。 おそらく、外でのやり取りを聞いていたのだろう。 いつも、気に掛けて心配してくれる彼女は本当にありがたい存在だ。 事の経過を知ることが出来て気が済んだのか、少女はくるりと後ろを向いて阿笠邸へと戻っていく。 それを見送って、新一も又、彼らの会話の中へと戻るのだった。 ◇あとがき◇ 事件もの書こうと思って、小事件? 一応事件ですよね?ね?次回は小学生くらいの話かな? |