何気ない日常も、時には色づくこともあるもので。

それは、幸せな色だったり、時には不幸な色だったり。

 

Sainan

 

快斗は今日も今日とて足取り軽く工藤邸への道を急いでいた。

「そこの、カッコイイお兄さん。」

「ん?」

 

小学生の頃なら“カッコイイそこの人っ”と呼ばれて振り返れば“おまえじゃないよ〜”なんて

子供じみたイタズラで言われることも言うこともあったが、

やはりいつまでたっても自意識過剰ではないのだが、反応してしまうのが人間なのであろう。

快斗も例外なく、呼び止められたその声に振り返った。

 

茶色の帽子を深くかぶり、ひげをぼうぼうに伸ばした男は、

ミカンのダンボール箱を机代わりに、何か商品を売っているようだった。

 

どこからどう見ても怪しい類の人間。

 

「俺、急いでるから。」

「ちょっと、お待ちなさい。この薬をただで君にあげるといっているんだから。」

 

男はそう言って、紫色の液体を、ぼろぼろのジャケットのポケットから取り出した。

小瓶の中の液体には、未だに気体が発生しているのか、気泡らしきものが見える。

 

いったい、どこにそんな怪しい薬を受け取る者がいるだろうか。

 

「じゃっ。」

「待ちなさいといってるだろう。これは、人をウサギにする薬だ。」

「は?」

「とにかく、使ってくれ。」

 

呆気にとられた瞬間に、男はその小瓶を無理矢理快斗のポケットへ押し入れ、

慌てるようにその場から去っていく。

 

後に残された快斗と言えば呆然とその小瓶を見つめることしかできなかった。

 

 

 

「まっ、哀ちゃんに後で成分解析でもしてもらえばいっか。

 本物だったら白馬や、服部に使用すればいいし。」

 

ポ〜ンポ〜ンと小瓶を投げながら、快斗は新一の家の前まで来る。

相変わらず、人気のない邸宅の雰囲気にまだ帰っていないのかな?と中を見渡せば

奥の庭のほうで、樹木を剪定する音が聞こえた。

 

音の発信源まで歩いて行くと、見えたのははしごに登ってのびっぱなしの木を剪定する新一の姿。

 

 

「快斗、帰ってったのか?」

「うんや、今。それより新一。危ないから俺がやるよ。」

木々の間だからひょっこりと顔を覗かせて、新一は驚いたように快斗を見下ろした。

その問いに快斗は今帰ったことを示すために、通学鞄を高く上げてニコリと微笑む。

 

「いいよ、たまにはこういうのも楽しいし。それに、この数日間の雨で随分と茂ったしな。」

「それでも、俺がするって。」

 

“そんなに高いところから落ちたらどうするんだよ”と付け加えながら、

快斗はその場から足を一歩踏み出し・・・・・小石に躓いた。

倒れる上体を庇うために手を出した瞬間、今まで持っていた小瓶が中へと舞う。

そして、その瓶はあろう事か新一の頭の上へ・・・・。

その冷たさに、新一もはしごから手を離してしまい、木の横の植え込みへと転落してしまった。

 

「新一!!」

怪しい薬品を頭からかぶってしまったことと、あの高さから落ちたことの双方が心配で、

快斗は慌てて植え込みへと近づく。しげりに茂った植え込みの中からは、何の音も聞こえない。

そして、快斗が植え込みの中へ入ろうとしたときだった・・・一匹の目の蒼い白ウサギが出てきたのは。

 

「・・・新一?」

快斗は地に膝と手を付いてウサギを凝視する。

ウサギはしばらくの間だカリカリと後ろ足で耳をかいてたが、快斗と視線が合うとジッと見つめ返してくる。

ウサギの蒼い瞳はどこか見覚えのある色だった。

 

「し・・新一が・・・ウサギになっちまったーーーーー。」

 

 

 

 

 

 

快斗がウサギを抱きかかえて、慌てて部屋の中へ入っていってしまったとき、

本当の工藤新一は植え込みの中で気を失っていた・・・・。

 

 

 

 

 

「どうしよう。」

好き勝手に部屋の中を動き回るウサギを見つめて早15分。

快斗は新一を(本当は本物のウサギなのだが)人間に戻す方法が分からず困っていた。

一番確実な方法は隣の科学者に相談すること。

しかし、その経緯がばれたなら、明日は朝日を確実に拝めなくなるだろう。

 

「・・・でもそれしか方法はないし。ごめんな新一。

 例え新一が戻れなくっても俺は新一とずっと一緒だから。」

ウサギを抱きかかえて、真剣にそう話す快斗の姿は端から見れば異常いがい現しようがない。

ウサギもまだ部屋の探検がしたりないのか、バタバタと快斗の腕の中で暴れていた

 

「あーーー。ルビちゃんみっけ。」

「快斗の兄ちゃんが見つけてくれたのか?」

「今回も少年探偵団、任務成功ですね。」

 

暴れるウサギを(無理矢理)抱きしめていた時、庭の方から聞き覚えのある3人の声が聞こえた。

見るとそこには予想通りの少年探偵団の面々が・・・。

 

「ルビちゃん?」

「サッちゃんの家のウサギさんが逃げ出しちゃったの。」

「だから、僕たちに捜して欲しいと依頼が来たんです。」

「頼りになるからな。オレ達は!!」

歩美、光彦、元太は靴を脱いで庭から部屋の中へはいると、

快斗の腕の中で暴れまくっているウサギを見て次々にそう説明する。

最後の方はどちらかというと自慢げな言葉だったが。

 

「じゃあ、快斗お兄ちゃん。ルビちゃん渡して。」

「いや・・これはルビちゃんじゃないんだ。」

「えっ、でも目が蒼いし。」

 

『これは新一です』なんて、口が裂けても言えず、快斗は手を伸ばす歩美に苦笑しか返せなかった。

 

いつもなら、優しいお兄さんイメージの快斗が素直に渡してくれないことに、歩美や光彦は首を傾げる。

元太はというと、話しに飽きたのか、テーブルの上にある茶菓子を頬張っていた。

 

「でも、ルビちゃん。耳の中に黒い点があるの。」

「だ〜け〜どこれはルビちゃんじゃない。」

「快斗さん、ウサギ買っていたんですか?」

「って、訳でもないんだけど。」

「「じゃあ、そのウサギはルビちゃんだよ(です)!!」」

 

「だからこれは、新一なの!!」

 

なかなか、納得してくれない彼らにしびれをきたし、快斗は大声でそう断言した。

そして、それと同時に外から聞こえてくる笑い声。

 

「どれが俺だって?」

「なんとかと天才は紙一重っていうけどあれは本当ね。」

完全にご立腹の様子の新一は頭を氷で冷やし、その横では哀がクスクスと笑っている。

快斗は思わず腕の中で暴れるウサギと新一を見比べた。

 

「ルビちゃん、返して!!」

下から少し涙目の歩美に快斗は慌ててウサギを彼女へ手渡す。

もう、なにがどうなっているのか訳が分からなかった。

 

「工藤君が頭を打ったってさっきまで家に来ていたのよ。」

「人に怪しい液体かけたうえに、見捨てて家の中にさっさと入っていくしな。」

「ちがっ、新一。誤解だって。」

 

その後、快斗は新一の機嫌を直すために、あれこれ手を尽くしたのはまた別の話。

 

あとがき

授業中に思いついたお話し(真面目に勉強しろって)

思いっきりギャグです。最近、ギャグが増えた気が・・・。

 

Novel