「こんにちは〜宅配便です。」

「は〜い。」

「こちらに印鑑をお願いします。」

OK。はい、ご苦労様。」

 

「山形のサクランボ?」

快斗は受け取った小包を見て、そう呟いた。

 

〜紅い宝石〜

 

「誰からだ?」

「うんとね、京極さんから。」

「京極さんの実家って山形か?」

「いや、違うんじゃない。多分、遠征とかのついでだろ。」

 

リビングに戻ってきた快斗は小包を開けると、中につまった紅い宝石に目を輝かせる。

新一は昨日買った単行本に視線を向けたまま、話をする。

おそらく、こんな風に会話しても、後では忘れているだろう。

 

新一が本を読んでいるときに話すのは、寝ぼけている人と話すのと同じだ。

会話は成り立つけど、話した内容は覚えていない。

 

まぁ、相手にされているだけでも進歩したかな?

快斗はそう思いながら、サクランボの入ったパックを取り出す。

 

「食べる?サクランボ。」

「冷やしてからがおいしいんじゃねーの?」

「もう、冷えてるよ。クール宅急便だったから。」

「じゃあ、喰う。」

「なら、洗ってくるね。」

 

パックを1つ手にとって、残りは冷蔵庫に入れておく。

中身が随分とそろっている冷蔵庫。

快斗と暮らす前は、腐れかけた牛乳と、卵が入っていた程度だ。

 

 

快斗は初めてこの冷蔵庫を開けて絶句した日の事を思い出して、人知れず苦笑する。

 

 

サクランボを丁寧に、しまいこんで、快斗は残りのパックを水を張ったボールに入れた。

冷たい水の中で、サクランボがゆらゆらと動く。

最後に水をかるくきって、ガラスの器に並べた。

 

「あとで、お隣にもわけようかな。」

 

1つを口に運んでその味を確かめる。

さすがは山形のサクランボだ。

味、食感ともに申し分ない。

 

 

「新一、食べなよ、おいしいよ。」

「ああ。」

 

 

・・・・・・・・生返事

 

 

先程よりも事件の展開が難しい場面なのか、新一はすっかり読書に集中していた。

しばらく、新一の様子を眺めていた快斗だったが、

せっかく冷えたサクランボが台無しになるなと思い、1つ悪戯を思いつく。

 

 

新一の器から、紅い宝石を1つ口に含んで

 

・・・・そのまま新一の顎に手をかけ唇を無理矢理重ね合わせた

 

 

 

バサッ

 

 

 

突然の快斗の行動に、本に集中していた新一はその文庫本を落として目を見開いた。

何が起こっているのか分からない。そんな様子だ。

 

快斗はそんな新一を横目で見ながら口の中のサクランボを彼の口へと舌を使って送り込む。

 

 

「んっ・・・。」

「どう、おいしい?」

「・・サクランボ?」

 

ようやく唇を離して、サクランボを味わう新一に感想を聞く。

新一の顔は少し紅かったが、怒鳴ってこない様子から察するに

今は先程のキスよりもサクランボで頭がいっぱいのようだ。

 

「なんで、サクランボがあるんだ。」

ゴクリとそれを充分に口の中で味わってから飲み込むと、

新一は目の前でもう一つサクランボを手にとって食べている快斗に尋ねた。

 

新一の問いかけに快斗は“やっぱり”と軽くため息を付く。

 

 

「京極さんから送られてきたんだよ。さっき会話したよ?」

「わりぃ。」

「まぁ、いいけど。」

 

新一は文庫本を拾い上げてテーブルに置くと快斗の傍に座って、

サクランボをもう一つ口に含む。

程良く冷えたそれは、とても甘酸っぱくて、夏の気だるさを吹き飛ばしてくれる感じだ。

 

「そういやぁ、サクランボって最近、盗難に遭ってるんだよな。」

「プロの犯行って奴でしょ。まぁ、別名“紅い宝石”だからね。」

「一昔前なら、近所の悪ガキがしてそうなのにな。」

 

 

“育てた人も悔しいだろうな”そう呟きながら、もう一つ新一はサクランボを食べる。

 

 

 

 

 

「ところで、おまえ、さっきから何やってるんだ?」

 

口の中で必死に何かをしている快斗の様子はそれはそれは不気味で・・・。

快斗は新一の問いに“あとちょっと”など良いながらさらに口を動かした。

 

「できた。」

 

 

「・・・馬鹿?」

「ひどっ。」

 

快斗が口から出したのは

 

 

“サクランボのヘタ”

 

 

綺麗に結んであるそれに新一は深くため息を付く。

 

 

 

「これができるやつって、キスが得意なんだっけ?」

 

以前、同級生がそんな話題で盛り上がっていた気がする。

新一から言わせれば何が凄いのかも分からないし、

キスの得意ヘタがこんなので決まるのもどうかと思う。

 

 

 

「ならさ、試してみる?もう一個食べさせてあげるよ。さっきみたいに。」

 

そう言ってにやりと笑った快斗の顔面に、

新一は恥ずかしさの余りクッションを投げつける。

 

「ぜってー、お前とは一緒にサクランボは食べねーからな。」

「ちょっ、新一。冗談だって。なんなら、食べさせてくれても・・うごっ。」

「一度死ね、バカイト!!」

 

夏の昼下がり、サクランボをはさんで新一の声が工藤邸に絶叫していた。

 

 

あとがき

サクランボが届いたので、サクランボネタ。

我が家に来たのは北海道産でしたけど、なんとなく山形産にしてみました。

おいしいですよね?サクランボ♪

 

 

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