父親がイベント好きなのは知っていたし、今更驚くことでもないと由梨は思う。

ただ、たまにそれがいささか度を越すことには慣れないだけで。

 

 

2月3日の、数年前までは忘れかけられていた行事。

ここ何年かは関西の風習を基に24時間営業のコンビニがその行事に便乗したことで、

ちょっとはその存在感を増したのだけれど。

 

ここまで本格的に、というか間違った方向にこのイベントを捉えているのは

世界広しと言えども、目の前の父親くらいだろう。

 

 

 

 

「いやぁ、やはり快斗君親子は天才じゃな。

 マジシャンよりも発明家になってほしかったもんじゃ。

 どうじゃ、雅斗君。今から将来の夢を転向してみるのも。」

 

 

 

「無理だよ博士。だって僕の目標はお父さん以上のマジシャンだもんね。」

 

「言ったな、雅斗。けど、俺は簡単に負ける気ねぇよ。」

 

「はは。ふられたわい。」

 

 

 

「ていうか、このどこをみて、博士は天才だと思うか甚だ疑問だわ。」

 

 

日当たりの良い一室で楽しそうに談笑する

博士、快斗、雅斗の3人は一見すれば祖父とその親子といった感じにもとれる。

そんな彼らをしばらくは微笑ましく見守っていた哀であったが、

彼らが1時間足らずで作り上げた作品をみてしまえば、そうも言ってられなかった。

 

モスグリーンをしたシルエットは、どう贔屓目にみても、

警察に見つかれば連れて行かれても文句を言えないようなもので。

 

哀は隣で同じように固まっている彼の娘、由梨に同意を求めるように視線を移す。

すると由梨も同感だったのだろう。小さく、しかししっかりと頷いた。

 

 

「哀君は科学に関しては一流じゃが、こういうのには疎いのぉ。」

 

「そうそう。まさに最高の発明品だよ、哀ちゃん。」

 

「哀姉も楽しめるよ、きっと。」

 

そういうと3人はいそいそとキッチンのほうに消えていく。

おそらく出来上がった発明品に必要な弾・・・もとい豆を取りに行くのだろう。

 

 

「ねぇ、由梨。私は日本の節分を誤解していたのかしら。」

 

 

これでも海外生活は長く、節分という行事も、

哀としての小学校時代に少年探偵団の面々と数回したくらいだ。

それならば、目の前の状況を受け入れられないことにも疑問はない。

 

だが、彼女の希望も空しく、由梨は首を横に振った。

 

「哀姉。おかしいのは間違いなくお父さんたち。」

「やっぱり、そうよね。」

 

キッチンから聞こえてくるのは、とても年中行事とは思えない空気を切り裂くような音。

 

何かが割れた音とともに、『殺傷能力ありすぎだったかなぁ。』とか

ちょっと耳を疑うような会話も聞こえてくる。

 

「ご近所で通報されたら嫌よね。」

 

「その時は逃げる。ていうより、来年はギネス級の恵方巻き作るっても言ってた。」

 

「県対抗で作ってなかったかしら?それ。まぁ、そっちのほうがまだマシよね。」

 

この後、帰宅した新一に

『どこの家に豆まきをライフルでやる家があるんだ!』と

お叱りを受けるのはまた別のお話。