◇Sweet Small Plans◇ 11:40 PM 今日も今日とて新一は、学校から帰ってきた後、 休む暇もなく警察からの要請で事件の検分に立ち会ってきた。 そして、その後の事後処理を高木刑事に遠慮されながらも、 彼よりも数段早いスピードで手際よく済ませ、今ようやく帰ってきたのだった。 呼ばれて行った時間自体が夕方5時という仕事をするには遅い時間だったため、 その時点で、いかに新一が要領よく的確に事を済ませても、 夜遅くなるのは決定事項といっても過言ではなかった。 午前様にならなかっただけでも十分に賞賛されるべきであろう。 そんな新一がリビングに入ったとたん、計ったように電話が鳴り始めた。 トゥルル…トゥルル…。 まだまだ寒さの残る2月も半ば。 手袋も履かないで外を歩いていたため、新一の指先は凍ったように感覚を失っていた。 かじかんで言うことを利かない指を無理やり動かして子機をとる。 ガチャ。 子機を耳に当てながら、冷え切っている部屋に暖房を入れる。 部屋が暖まるまでしばらくコートを脱ぐことは出来なさそうだった。 「もしもし、工藤ですが。」 答えながら、瞬時のうちにこの家に電話を掛けてくる人物を頭の中で思い浮かべる。 確率的に一番掛けてくるであろう人物の顔が浮かんだ。 すると、予測していた通りの聞きなれた声が返ってきた。 ―あ、新一?俺だけど。 「快斗か?どうした?こんな時間に。」 そう、こんな時間にめったに電話なんかかけてこない相手に対し、当然の疑問をぶつけてみる。 ―こんな時間にって言たって、今日は夕方にも電話したけど居なかったから、 どうせまた調査とかで遅くなるんだろうと思って、この時間にかけたんだよ。 その通りだろう? 「まぁな。電話、ちょうど入れ違いだったかもな。俺も呼び出しがあったの夕方なんだ。」 いつもの事ながら、快斗の読みは的確で、新一の行動パターンなんかはお見通しである。 この電話も、どこかで見てたんじゃないかってくらいタイミングよくかかって来たし、 一番ごまかしの利かないのは、あの小学生の姿をした科学者と、 このIQ400なんて頭脳を持っているなのだ。 ―なぁ、いつも言われてて新一にとっては耳にたこだとは思うけど、 あんまり無理しないでよ?ちゃんと睡眠とってるか? 新一は苦笑しながら、心配性な快斗の言葉にぼかしぼかし答える。 「ちゃんと寝てるって。昼とかにもチョコチョコと…な」 全く寝てないわけではないが、まとまった睡眠をとっているわけではないので、 こうやって快斗からチェックの言葉が出ると、どうしてもあいまいな言葉で誤魔化してしまう。 いつも気にかけてくれているのが嬉しいと思う反面、忙しくしてしまう自分の性から なかなか己の身体を思いやることを怠ってしまうので、新一は申し訳なく思うのだ。 ―……またそんなこと言ってる…。 案の定、あきれた声を出す快斗。 ―はぁ…今はその話は横に置いとくとするよ。この電話の目的はそれじゃないからね。 あのさ、これ、お誘いの電話なんだけど、明日空いてる? 話の方向が変わって少しホッとした新一は、明日の予定を思い起こす。 「あぁ、午後って言っても夕方からだけど。」 ―ん、平日だししょうがないよね、それは。久しぶりにどっか、食べに行かない? ここのところ色々あってなかなかゆっくり出かけられなかったからさ。 「そうだなぁ、またうまい店見つけたのか?」 ―うん。和食の店なんだけど、洒落ていて雰囲気がいいんだよ。 新一はあっさりした物がいいだろう?どう? 「あぁ、楽しみにしてるよ」 ―うん、俺も楽しみしてるよ。じゃ、オヤスミ。ちゃんと寝れよ?絶対だからな? 「クスッ、ちゃんと寝るよ。おやすみ」 やけに念を押す快斗に、苦笑しながらも素直に答える。 電話を切った後、暖かくなってきた部屋に脱いだコートを置いて、新一はキッチンへ向かった。 体を温めるのに本当はお気に入りのコーヒーを飲もうと思っていたのだが、 予定を止めてミルクを温めることにした。 帰ったら読もうと思っていた、小説も今夜は諦めることにする。 明日会った時、自分の顔色が悪かったり、くまが出来てたりしたら、お小言を即言われるだろう。 なので、今日のところは快斗との約束通り落ち着いたら、ベットに入ることにした新一だった。 + + + + + + + 明日は2月14日、バレンタイン・デー。 快斗がなぜ和食を選んで誘ったのかといえば、新一の身体を思いやってのことに他ならない。 新一と一緒に楽しく外食できれば、 快斗の心境としては、バレンタインに何を食べるかなんて問題ではないのだ。 バレンタインに一緒に食事をして、それがちょっといつもと違うものだったらそれでOKなのだ。 本当は外食より家でゆっくりした方が良いのだろうが、そこはささやかな快斗の我侭だった。 新一がバレンタインという恋人達にとって特別な日であることを忘れていても、 一緒にその日を過ごせるというだけで結構満たされるのだ。もちろん、新一が バレンタインだということに気づいてくれるならば、それに越したことはないのだが。 何かと疎い新一に無理やり気づかせるのも、 お互い非常に労力のいることだとわかっているので諦める。 いや、それはそれで楽しい一日に出来そうなのだが、 最近すっかり探偵業にかかりきりな新一に、疲れが溜まっていることが予測されるので、 その案は自動的に却下にしたのだ。 こうして、とてもささやかなバレンタインの計画であるが、快斗的には満足なものなのだった。 まぁ、あわよくば食事が終わった後に、新一の家で甘い夜を過ごそうと企まないこともないが、 それも全て新一の体調次第。けっして丈夫ではない新一の体調管理をするのも快斗の役目なのだ。 こればっかりは非常に残念だが、いたしかたないことである。 まぁ、その話はその時なってから考えることにして、 どちらにしても、14日の新一の予定に自分の時間が確保できたことで機嫌がよい快斗であった。 + + + + + + + 翌日、新一は学業という本来の日常を過ごすべく、いつも通り学校に登校した。 彼はそこで不覚にも今日この日が世に言う恋人達の日・バレンタインディーだということを、 幼馴染からの義理チョコによって知ることになった。 ハタと見回せば、教室中があからさまにそういう雰囲気に包まれていた。 男子などはもう既に、何かしら貰った人のところに一塊に集まって、楽しげに盛り上がっている。 思い出せば、休日と重なっていた昨年よりも、平日である今年の方が そういえばみんなの浮かれ度があがっているのは気のせいではないに違いない。 そういえば、昨年のバレンタインは本当に気づかないうちに終わっていたよなと思い起こす。 そのときはまだ、快斗はあくまで仲の良い友人ではあったが、 そう言う意味で好きだったわけではなかった。 自分と快斗の間柄が恋人同士だと自覚したのは最近のことだ。 初めて出会ってからというもの、押しに押されて、いつの間にか自分の中に快斗が住みついていた。 快斗という人間が持つぬくもりが好きだと気づいた頃には、 もうすでに、恋人同士という状態になっていのだ。 新一はそのとき初めて、自分でいうのもなんだが、色恋に鈍いのを自覚したのだった。 そんな自分が恋人と認識する快斗に、 さすがの新一もいくらなんでも何も上げない訳にいかないと思う。 昨夜誘ってきた今夜の夕食は、当然今日がバレンタインであるからに他ならない。 しかし、一言も今日がその日だということを自分に示唆しないのは、 どうせ気づいてないからという諦めなのか。 そう考えると、自分が快斗のことを軽んじているように思われているようで、何だか少し腹が立った。 普段の疎いところがそう判断させてしまっているのだと分かっているが、 恋人に対して何かをしてあげたい気持ちがない訳では決してないのだ。 そうして、これは何かしてやらなければ気がすまないという、 新一の生来の負けず嫌いの性格が、対抗意識の頭をむくむくともたげさせた。 そして本日、学校が終わるまで、ああでもない、こうでもないと、 快斗に何をしてやるかを考えるために、新一の優れた頭脳はフルスピードで回転したのだった。 ちなみに数学の時間に難解な問題を当てられて、上の空で答えた新一だったが、 その答えが正解だったために、教師も文句を言うことができず、 結果、新一の思考を誰も止めることが出来なかった。 + + + + + + + 新一があれこれ考えた結果、辿り着いたのは阿笠邸の門の前。 勝手知ったるナンとやらといった感じで、チャイムも鳴らさず門をくぐる。 おざなりにノックと声をかけた後、スタスタと玄関を通過し、 目的の人物を探すべくリビングへ向かう。 「灰原いるか?」 この時間なら、小学校の方もとっくに終わって帰っているはずだ。 まぁそれも、ちび達につかまってなければの話なのだが。 しかし案の定、哀はリビングのソファーでコーヒーを飲んでいた。 小さな身体で、足を組みながらブラックコーヒーをその飲む姿は、 彼女の実態を知らない人から見れば、その光景はかなりシュールだろう。 「なに?チャイムも鳴らさないで。あまり礼儀が良いとは言えないわね。」 ちらりと新一の姿を認めた後、冷めたいつもの調子で声がかけられる。 「…いいだろう?馴染みなんだし。ところで灰原、一つ頼みがあって来たんだけど。」 「あら、博士じゃなくて私に?まさかまた身体の調子が悪いとか言わないでしょうね?」 この間も、風邪が抜け切らなくて鼻をぐずぐずさせていたら、 夜には熱が出て、哀に世話になったばかりだった。 やはり、日頃の不摂生を辛辣に指摘され、実はここのところ哀に会うのをなるだけ避けていたのだ。 なので、今日訪ねる事自体ちょっと気まずく思っていたのだった。 「いや、違うんだ。ほら、この間元太達がきたとき、 あいつらに出してやってたホットチョコレートとか言うやつまだあるか? あるんだったら、ちょっと分けてもらいたかったんだけど」 哀は、予測していたのとは全然違う言葉に、 コーヒーカップを口に持っていきかけていた手を止めて、新一に目をやる。 そして、“チョコレート”という言葉に、哀はその聡い頭でもって即事態を察知し、少し目を見開いた。 「珍しいこともあったものね。イベントに疎いあなたが黒羽くんにバレンタインのプレゼント?」 「あぁ、まぁ、そう。」 改めて確認されると、照れが出てしまって、はっきり肯定できない新一だ。 目的はそう、以前哀が仲間の小学生達に出していた“ホットチョコレート”。 バレンタイン当日である今日、店でチョコレートなんか、 例え板チョコでさえも恥ずかしくてとてもじゃないが買うことが出来ない。 それは、普段甘い菓子など買わない新一にとって、 少々自意識過剰気味であるほどに、特別な恥ずかしさを感じる行動なのだ。 どんなに快斗のためとしても新一にはどうしても無理だった。 かと言って、甘党の快斗に何かやるならばやはりチョコレートは欠かせないと思った新一が 苦心して練った策とは、記憶の糸を手繰り寄せた先で引っかかった このホットチョコレート存在だった。 「んで、残ってないか?」 一向に返事のない哀に戸惑いながらもう一度声をかける。 もう唯一の頼みの綱である哀の言葉を、ちょっと不安げに見ている新一。 その様子を見て哀は、 ――本当に、なんでこんなに可愛いのかしらね?―― 内心微笑ましく思っていたりした。 「心配しなくても、残ってあるわよ。こっち、いらっしゃい。」 そう言って、無駄のない動きでソファーから離れると、 新一の返事も聞かないままキッチンへ向かってしまった。 「…灰原っ、なんだよ?さっきの微妙な間は。」 数瞬反応が遅れた新一も、いつもの調子に戻って哀の後姿を追いかける。 「特になんでもないわよ。それより、書いてある作り方どおりにちゃんと作るのよ? あまり残ってないんだから。せいぜいあと2杯くらいかしら。」 「十分、十分。作り方ってこれか?」 箱の後ろに書いてある説明書を見ながら聞く。 「そうよ。まぁ、せいぜい頑張んなさい。」 哀の激励に新一は何と言えばいいのか分からず、取り合えず礼を言う。 「……サンキュ。」 殊勝にも礼を言った新一。 しかし前言撤回したくなるような言葉を哀が言った。 「お礼なんていいわよ。後日いろいろと報告してくれれば。」 「ってなにをだよっ!?」 ニヤリと笑った哀に、新一は思わず身を少し後ろに引く。 なにやら良からぬことを企んでいそうなその言葉と表情に、 鬼気迫るものを感じ、問い詰めようとした。が、 「うわっ、いけねぇもうこんな時間か。じゃこれありがたく貰っていくわ、ありがとな。」 ふと目に入った壁時計が約束の時間の20分前を指していて、慌てて帰る用意をする。 もちろん、例の品も忘れないでカバンの中にしまい込んだ。 「はいはい。行ってらっしゃい。」 そうして予定通りに何とか目的のホットチョコレートを手に入れた新一だった。 + + + + + + + 「わりぃ、待ったか?」 案の定、先に待ち合わせの場所に着いていた快斗に慌てて駆け寄って謝った。 「ううん。そんなに急がなくても大丈夫だよ、新一。 まだ待ち合わせの時間になってないんだから。」 駅前での待ち合わせになんとか無事間に合った新一は、しかし、そわそわしていた。 これから食事をして、その後、自分の家でこのカバンの中に入っているモノを 快斗にあげることで、快斗のほうからの反応が楽しみで、ついワクワクしてしまう。 常にない自分の行動が楽しくてしょうがない。 この気持ちは、悪戯を内緒に企んで、 相手の反応をあれこれ考えながらドキドキしている子供となんら変わりない。 新一は、あくまで普通を装うため、気持ちを落ち着けるために、 快斗に気づかれないよう小さく深呼吸した。 「じゃぁ、行こうか。例の店、結構ここから近くなんだ。こっちこっち。」 そう言われて向かった先にあったのは、通りから少し外れたところに佇む小料理屋。 小料理屋といっても、外観は竹や笹、照明などが品良くディスプレイされていて、 洒落ているのに、訪れた者の気持ちをどことなく落ち着ける雰囲気を醸し出していた。 入り口をくぐると、外からの印象と同じように馴染める空気がそこにあり、 それだけで新一はまた来ようと思った。 そして、この店は雰囲気だけではなく、味もなかなか新一好みで、 最近減退していた食欲も食べているうちに元通りになっていった。 + + + + + + + 「快斗、この後うちに来るか?」 一通り料理を平らげた後、水を飲んでお腹を落ち着けながら、新一は今後の予定を切り出した。 非常に美味しかった料理の余韻に浸りながらも、 この後の自分の立てた計画を思うと落ち着かなくなってきたのだ。 「うん、新一の家で食後の紅茶飲むたいな。いい?」 コーヒー党で甘味料を使わない新一に対して、紅茶党ので甘党の快斗のために 工藤家には、快斗専用の紅茶の葉が最低でも10種類、砂糖やミルクも揃っている。 なまじ、そこら辺で出されているコーヒーや紅茶より質の良いものが揃っているので、 家に帰って淹れる方が確実に満足するものが飲めるのだ。 快斗の答えが思惑通りいって、内心ホッとした新一は、 「ああ、いいよ。そうと決まればもうそろそろ帰るか。」 と言いながら、壁に掛けていたコートを取るため、いそいそと動き始めた。 その様子を見ながら、快斗もそれに習って帰り支度をし始めた。 + + + + + + + 腹ごなしにと、二人は久しぶりに夜の街を工藤家へ向かって歩いた。 都会の狭い夜空を見ながら、少し早足で歩く。 そのうち何とはなしにどちらともなく笑い出す。 腹がいっぱいなので体温があまり下がらなくて良いが、それでも冬の寒さは身にしみる。 身体の中はあったかくても、指先などの末端部分は、 歩き出してからいくらもしないうちに冷たくなってきた。 冷え性気味の新一が、自分の手に白い息を吐きかけているのを見て、隣で笑っていた快斗が、 何気なく握りこぶしを作ると新一の目の前でパッと開く。 すると、ポンっという音と供に白いモコモコの手袋が掌の上に現れた。 「冬は手袋持って歩きなよ」 言いながら新一の手をとり、手際よく手袋を嵌める。 新一が口を挟む時間もなくソノモコモコの手袋は新一の手にジャストフィットして収まった。 「……」 何も言えず、にぎにぎと開いたり握ったりして自分の手を見つめる新一。 「ほら、行くよ。」 ぐいっと新一の腕をとり、そのままを手を繋いで歩き出す快斗。 本来なら外でのこのようなスキンシップを好まない新一だったが、 先程までいた駅前の人ごみがある場所ではなく、 夜で工藤邸の近くの、この時間は人影の全くない閑静な住宅街に入っていたので、 新一はおとなしく快斗の好きなようにさせてやる。 そして普段自分からあまりスキンシップをしない新一も、バレンタインに便乗して、 ほんの少しだけ、キュッと握り返してやった。 ++++++++++++++ 「はぁ、食った食った。久しぶりに美味いもん食ったよ。 やっぱ快斗の探してくる店ってハズレがないよな。この間のイタ飯も絶品だったぜ。」 この、家に着いたときに新一が言った言葉は、 先程までのロマンティックさを全く感じさせない色気も何もないものだった。 あの後、二人は終始無言で黙々と歩き、しかしその沈黙は気まずいものだったわけではなく、 お互いの手のぬくもりを感じるだけで良いとどちらも思ったのだ。 いつもだったらそんな雰囲気を察することができない新一だったのだが、 さすがバレンタイン・パワーとでも言うべきか、先程から自分の感情が敏感になっていた。 今の言動は、敏感になっているからこそ、照れ隠しからくる言葉だったのだ。 「気に入ってもらえて良かった。結構新一って味には煩いからな、いつも吟味して紹介してるよ」 しかし、快斗は快斗で、そんな様子の新一の言葉に、 甘い雰囲気がなくなったことを、今更がっかりするわけでもなく、 苦笑しながら脱いだコートをクローゼットに掛けにいく。 「お互いさすがに冷えたな。紅茶入れてやるからリビングで待ってろよ」 その後姿を横目に見ながら、自分はそそくさとそれらの動作を済ませ、キッチンへ向かう。 「?ありがと、新一」 いつにない気配りでそわそわしている新一を怪訝に思いながらも、調子が悪いわけでも なさそうなので、特に気にせず、快斗はその言葉に甘えて用意してもらうことにした。 半ば逃げるようにキッチンに入った新一は、 ――はぁ、あいつ俺の様子が変なのに気づいてたよな?…うわ、恥ずい! いや、もう折角用意したんだから覚悟決めて出してやるしかないよなぁ。 お湯を沸かしながら、今更そんなことを改めて考えていたのだった。 「入れたぞ。」 新一がキッチンで己の感情と戦っていた頃、 快斗はテレビをつけて世界のマジシャン大集結なる番組を興味深げに見入っていた。 「ん。」 ちょうどいい所なのか、画面に目を向けたまま新一が差し出したカップに手を伸ばす。 「……あれ?…新一、これって」 ついに来たこの時が。 このとき新一の頭に年貢の納め時などという言葉が横切った。 驚いた顔で自分のカップの中で揺れるチョコレート色と新一の顔を交互に見る。 「いや、まぁ、うん。紅茶じゃないぞ、それ」 新一は、この期に及んで訳の分からない誤魔化しの言葉を、しどろもどろに吐いた。 とっさのリアクションが出来ず呆けてしまった快斗。 しかし次の瞬間、停止していた脳が急速に動き出し、 そしてそれが下した決断によって、快斗は堪らず吹き出してしまった。 「…プッ、…クッ…紅茶、じゃぁないね。確かに、…くっくっ」 「………」 「くっ…アハハハッ」 押さえ切れず、本格的に笑い出す。 新一の気持ちが嬉しくて、そして、それと同時に、明らかに照れながら、 しかし、せめてもの抵抗とでもいうように、天邪鬼なことを言う新一が、可愛くて、可愛くて。 内緒でどこからか調達してきたのであろうこのホットチョコレート。 たぶん、お隣の灰原女史あたりだろう。と、快斗は的確に新一の行動を分析していく。 このうれしい出来事は、新一が自分と同じように思ってくれている証拠なのだ。 新一が自分のことを思って用意してくれた、ささやかだが、それがとても意味のあるモノ。 その形じゃないところがまた新一らしいだと思う。 不器用なその気持ちが嬉しいと快斗は感じる。 「……笑うなぁっ、この!」 どういう反応を返してくるのか、見守っていた新一だが、こうもあからさまに笑われると面白くない。 「ゴメン、新一。なんかもう、びっくりして…嬉しくてさ、本当に」 しかし、本当に嬉しそうに、満面の笑顔でそう言う快斗に、 もう何もいう気になれなくなった新一は、 気持ちを落ち着けるために自分用に入れたコーヒーを一口くちに含む。 「新一」 機嫌良く大切そうにホットチョコレートを飲んでいた快斗が不意に声をかける。 「ん?」 カップに口をつけながら、新一は俯いていた顔を快斗の方に向ける。 二人の目が会った瞬間を見計らって、いたずらに微笑む快斗が一言。 「愛してるよ」 ゴホッ いきなり愛の告白されて、むせる新一。 飲みかけていたコーヒーが、下にくだるタイミングを逃して気管に入ってしまったのだ。 「ゴホッ…いきなりっ、なにをっ!…ゴホッ」 目じりに涙を溜めて快斗をにらむ。 その頬が赤くなっているのは言うまでもない。 「今夜泊まって行っていい?」 「知るかっ!」 この期に及んで何を言うか。と、ばかりに一刀両断する。 しかし快斗は、そんな新一の態度などものともせずに、 近くのテーブルにカップを置くと、新一の手をとる。 なんだか雲行きが怪しい展開になってきたことに新一が気づいたときには時すでに遅し。 可愛いことをしてくれた新一によって、早くもラブモードのスイッチが入ってしまった快斗は、 掴んだ新一の手を自分の顔のところまで持ち上げると、 「大好きだよ」 その手の甲にキスとを落とした。 「!」 …さて、このあとの長い夜が快斗の思惑通り甘い夜になるのは時間の問題…。 Fin 〜あと書き的言い訳〜 またしても山のない話を書いてしまいました…しかもダラダラと…。 しり切れトンボだし(泣)スミマセン×10。 文章も統一感なくって、めちゃくちゃです(泣)。 新一が真剣に別モノです。誰なんでしょうかあの乙女が入ってるのは、 作者まで不用意にドキドキしながら書いていました。 私が書く快斗って何だかすごくイイ子……白いです。真っ白…。 今度は黒い快斗を挑戦したいと思います。 適度に新一カワイがる(イジメる)快斗を…! そして、書き終わって気づいたのですが、 私の書く快斗の笑いのツボは何処かおかしいかもしれません(汗)。 このような駄文を最後まで読んでくださいましたお客様、 心から御礼を申し上げます。 |