贈り物は 昼は知り合いや友人を呼んでどんちゃん騒ぎ、夜は家族だけでお祝い。 それが、毎年5月4日の日程。 昼の疲れからか、夕食は決まって質素で軽い物。 ケーキも昼間に食べたから、メインはプレゼントを渡すことのみ。 こんな日は、さすがの警視庁も誕生日プレゼントの変わりにと、 どんな事件が起ころうと新一に事件解決の要請をすることはなかった。 朝から忙しく新聞を読む暇もなかった新一は活字をい目で追いつつ、 ふとテーブルに積まれた大量のプレゼントに視線を向ける。 「なあ。」 「ん?」 「誕生日を祝いだしたのはいつからなんだ?」 「さあ。でも、人がこの世に“時間”を定めてから始まったんじゃないの。」 「じゃあ、けっこう長いんだ。」 「そりゃあね。昔もそれに今も、大切な人がこの世に生まれてきてくれた日だから、 祝わないと損でしょ。」 「そんなもん?」 「うん、そんなもん。」 快斗は首を傾げながらプレゼントを手にとって眺めている新一を “何年たっても可愛いんだから”と内心口ずさんで、新一の耳をペロリと舐める。 それに、ビクッと反応して手の中のプレゼントを思わず落としてしまい “割れ物だったらどうするんだよ”と睨み付けるが、 それは煽るだけだと新一は気づいて、慌ててソファーの端へと逃れようとする。 このパターンで何度、快斗に鳴かせられたことか。。。 「お父さん。なに、いちゃついてんの。大人の時間は私たちが プレゼントを渡してからって決まりでしょ。」 「お、大人の時間って。」 小学5年生だというのに、全てを悟りきったような由佳の台詞。 快斗は隣で“わりぃ。”と苦笑しているが、今の言葉は親として 突っ込まなくて良いのだろうか、と新一は内心思っていた。 もちろん、それが日頃の両親のいちゃつきぶりの影響だとは 鈍い新一が気づくはずもないのだが。 「お母さん、はい、お誕生日おめでとう。」 「ありがとう。」 まず、先陣を切ったのは由佳。 小さな包み紙には、メッセージと一緒に子どもらしい“お手伝い券”が入っていた。 それを、確認して、“なんだ、年相応じゃないか”と安心したのもつかの間、 その“お手伝い券”の内容に新一は絶句する。 「これが、“お父さんが3日連夜でお母さんを鳴かせたときに制裁を与える券”でしょ、 そして、“事件ファイルのまとめを手伝う券”、“お母さんの両親を帰国させる券” こっちは“しつこい依頼客を撃退してあげる券”、で、最後が“肩たたき券”♪」 まともな“お手伝い券”は最後の一枚だけのような・・・。 「どう?けっこう使えるでしょ。」 「あ、ああ。ありがとう。」 にっこりと自信満々に告げる由佳に新一は とてもこの“お手伝い券”について突っ込むことができずにいた。 「じゃあ、次は俺から♪」 パチンという音と共に新一の手の上にはちょうど手に収まるほどの箱が乗っていた。 ちょこっと演出の効いた渡し方はなんとも雅斗らしい。 今度こそは、普通の物だろうと新一はその包みを開ける。 「・・・ボール?」 「見た目はね。そこのボタンを押してみて。」 銀色の球体のてっぺんにある小さなボタンを新一はそっと押した。 すると、見る見るうちにそれはドラ○モンのようなロボットになる。 とはいっても、きわめて小型の物だが。 「まあ、よくある防犯ベル。最近、物騒だし。 どんな仕掛けがあるかは使ってからのお楽しみ♪」 「・・・これ手作りか?」 「もちろん。」 どの辺りが“よくある防犯ベル”なのか新一は分からなかった。 おまけに、小型ミサイルが内蔵されているように見えるのは気のせいだろうか。 「喜んで貰えた?」 「も、もちろん。ありがとな。」 新一の言葉に雅斗は満足して新一の前からソファーへと移動し、 入れ替わりに今度は悠斗がそこへと歩み寄る。 もう、どんなプレゼントでも驚かずにすむはずだ。 新一は悠斗の手の内にあるプレゼントに視線を向けながらそう己に言い聞かせた。 「母さんがほしがってたから。」 「ありがとう・・・ってこれ。」 渡されたのは、ホームズの初版本。 それも、コナンドイル直筆と思われる 先日博物館に寄贈された原稿用紙ともセットになっていて・・・。 「どこで・・。」 「図書館。」 「は?」 「まあ、今のは嘘だけど、俺の知人が俺に借りがあったから。 さすがに、原稿用紙の本物は無理だったけど、コピーだけど。 発表を途中で取りやめた幻の作品だし、結構楽しめると思うしさ。」 嬉しい。確かに飛び上がるほど嬉しいが何かが違う。 「読み終わったら、俺も読みたいから貸してくれる?」 「ああ、もちろん。ありがとな。」 度肝を抜かれるプレゼントを3つ貰って、嬉しいなりにも精神的に気が気ではなかった。 でも、もう大丈夫(何が?)。なぜなら、残すは由梨一人だから。 「由梨?」 新一の前に悠斗と入れ替わりで立った由梨はしばらく黙り込んでいた。 それを、心配するように新一は彼女の名を呼ぶ。 「本当は・・・歌と演奏をプレゼントしようと思ったんだけど・・ どうしてもできなくって、変わりにジュエリーケースタイプのオルゴールを買ったの。」 「うん。ありがとう。由梨のその気持ちだけでも凄く嬉しい。」 由梨は新一の言葉と表情にスッと肩の荷が下りて、ようやくいつもの表情へと戻った。 今日一日、どこか元気の無かった理由は不安だったから。 プレゼントがみんなの物と比べて、喜んで貰える代物じゃないということに。 新一はオルゴールを受け取って、ゆっくりとネジを回した。 そして、ふたを開ければ流れるのは“お誕生日の歌” ゆっくりと、優しい旋律が部屋中を包み込んで、 新一はその音色を目を閉じてしっかりと堪能する。 「でも、それだけじゃ悪いと思って、仕掛けもしておいたの。」 「へ?」 「ここのボタンを押してネジを回すと・・・超音波が流れるから。」 「なあ。」 「ん?」 「育て方間違ったのか?オレ達。」 「はは、プレゼントのこと。今年は新一をびっくりさせるってのが あいつらの中でのテーマだったらしいよ。」 「そうか、それで・・・。」 新一はベットの中サイドテーブルに置いておいた、プレゼントを眺めてホッとため息をつく。仕組んだ上でのプレゼントとなら、多少?変わった物でもおかしくないはずだから。 「だから、俺からも新一へはビックリするようなプレゼント。」 「あいつらのくれた物以上にビックリする物はねーよ。」 プレゼントから快斗の方へと体を向け直して、少し上の位置にある顔を見る。 快斗は新一の言葉にクスクスと声を出して笑っていた。 「これ♪」 「カギ?」 笑い収まった彼が新一へ手渡したのはカギの束。 車?金庫?いったいなんのカギであろう? 「警視庁の極秘資料室へ入るためのカギ。 18の扉があって警視庁のTOPがそれぞれ持ってるんだ。何かと必要でしょ。 服部とかも、まだまだヒラだし警察からの情報は そこの中央コンピューターでしか見れないしね。パスワードはこっちだから。」 「・・・一応礼は言っとく。」 “あいつらの非常識はぜってーこいつ譲りだ”と、 今は各自の部屋で眠る子ども達を思い浮かべながら 新一は自分のことを棚の上に上げて、内心毒づくのだった。 あとがき はい、ギャグです。読み終わったら笑い流して下さると幸いです。 |