コンコンコンコン

昨日、快斗が親戚から貰ったという野菜を手際よくきざむ。

今日の朝食は、みそ汁に卵焼き、そして煮物と一般的な和食である。

ここに、鮭の塩焼きなんてものがあれば、完璧なのだが・・・。

新一はみそ汁の味見をしながら魚嫌いの旦那と息子の顔を思い浮かべて苦笑を漏らす。

外では、選挙が間近に迫っているためか、時間帯も気にしない選挙車の演説が響いていた。

 

 

◇いつもとは違う朝◇

 

 

“今日も完璧な朝食だ”と、最後に生野菜を付け加えようとした瞬間、

ふわりと何かが体を包み込む。

トマトを持った手から腰へと視線を移せば、日頃は魔法を生み出す手がそこにはあった。

 

「何してんだ?」

肩に顔を埋める快斗を睨み付ければ、気の抜けるような笑顔を向けてくる。

「ねぇ、新一。旦那さんが一番そそられる奥さんの姿ってなんだと思う?」

「裸エプロンか?」

「・・・・いや、それは、まぁ、男のロマンだけど。」

真顔でそう返事を返す新一に快斗は拍子抜けしたように乾いた笑みを浮かべる。

快斗は“知るか”と冷たい返事を予想していたのだから、まあ、無理はないだろう。

 

「邪魔だ。用がないなら離れろ。」

快斗が思考に没頭して動かなくなったのを見ると、新一は再び野菜を洗い始めた。

のんびりと準備をしているように見えるが、今日は平日。

この後、子どもたち4人分のお弁当も作らなくてはならないし、

午前中のうちに整理したい資料もある。つまり、暇ではないのだ。

 

「新一の匂いがする〜。」

「ウザイ・・・。」

火曜と木曜の週に2回、新一に当番が当たっている朝食の準備。

その日になると、快斗は必ず早く起きてきて子どもたちが来る前に新一を堪能するのが日課である。

まあ、夜はどうなのか?と聞かれれば乾いた笑いしか返せないが・・・。

 

肩に掛かるほどの長さの癖のない黒髪を一房取って口づけて、そのまま首元に・・・と

顔を近づけた瞬間だった・・ガツンと鋭い音と共に鈍い衝撃を足と頭に感じたのは。

 

見れば、足の上にはぐりぐりと踏み込む、一回り小さいスリッパ。

その近くには、おそらく頭に投げつけられたであろうボールが転がっている。

ちなみに、新一はいつものことだと相手にせず料理に熱中しているので

このスリッパをはいているわけでも、ボールを投げたわけでもない。

 

と、すれば・・・・。そう思って視線を横へと移せば見慣れた顔が視界に飛び込んできた。

 

「何してんの?父さん。」

「今日は雅斗か・・・。」

自分と似たような顔でニコリと微笑んでいるのは、今年、小学校最上級生となった息子の雅斗。

「おはよう、雅斗。」

「おはよう、母さん。」

雅斗は隣から掛かる声に快斗に向けた笑顔とは180度違う笑顔を向ける。

もちろん、快斗の足を踏むことは続けているが・・・・。

 

「仕事、遅れるんじゃねーの?」

「で・・・この、ボールは悠斗か・・・。」

キッチンと食卓とを隔てるカウンターに身を乗り出して、

悠斗は置き時計を快斗へと示す時計の針は午前7時30分を示していた。

 

確か、昨日マネージャーが“明日は7時30分に迎えに来ますから”と

張り切って話していた気がする。

 

「あんまり、マネージャーを虐めるなよ。」

「新一がキスしてくれたらすぐに準備してマネージャーも虐めないよ♪」

 

子どもが2人もいるこの状態で、新一が快斗にキスをするなど今まで一度もない。

雅斗と悠斗も由佳に誘われて盗み見はしたことはあるが、間近で見たことはなかったので

“また、マネージャーが泣くな”と軽くため息をついた。

 

だが・・・・

 

「・・・新一?」

「ほら、早く準備しろ。」

快斗の注文通りキスをしてやったというのに、何故か子どもたちまで真っ赤な顔になっていて・・・。

“日頃はあれだけ盗み見しているのに”と思わず笑みがこぼれた。

固まってしまった、息子2人の額にキスを落として新一は再び朝食の準備を再開する。

 

 

たまには、こんな朝も良いかも知れない

 

◇あとがき◇

突発的に考えた小説第2段。あとは、“苗木”とか“家庭菜園”の話を書きたいなぁ〜。

マネージャー、それに朝からいちゃつくお二人の話をかきたかったはずなのに・・・。

 

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