いつかは明らかにしなくちゃいけないことだってある。

それでも、今はまだ・・・そう思うのは贅沢だろうか?

 

―Truth―

じめじめとした梅雨も明けて、幾分、暑さの増した日曜日。
快斗は子供たちとフローリングに寝転んで遊んでいた。
ここに新一がいるならば、おそらく問答無用にクーラーに手が伸びているだろうが

体にあまりよくないとの配慮から、今は広い窓が開け放たれているのみ。
若干蒸し暑くはあるものの、フローリングに寝転んだりすれば涼は取れて、
それなりに快適な時間を過ごす。

 

はじめのうちは、子供たちの宿題を見ていた(彼らに言わせれば邪魔していた)快斗だったが
子供たちの宿題が終わったと同時に大きなスイカを冷蔵庫から取り出してにやりと口元をゆがめる。

「千葉産、高級スイカ。食べようぜ。」

子供のようにはしゃぎ気味の快斗に小学3年生の由梨と悠斗はあきれたように顔を見合わせた。
そのそばでは宿題を自室において戻ってきた雅斗と由佳がうれしそうに笑う。

「俺、一番大きくきって。」
雅斗は包丁をスイカに入れようとしている快斗に近寄って、
カウンターテーブルに両手をかけるとぴょんぴょんとジャンプする。

「食べられる分だけな。由佳は?」
「私、このくらい。」
由佳はそういって両手で大きく形を示した。
どうみても、もとのスイカより大きいそれに快斗は苦笑して“はいはい”とうなずいた。

「それじゃあ、不機嫌気味の悠斗と由梨はどのくらいの大きさ?」

冷房をつけないことに不満を最後まで漏らしていた二人。
新一にこんなところまで似ていると思いながらも、快斗は妥協しなかった。
体が一番大事。その定義は変わらないのだから。

「「厚さ5センチ、縦15センチ、横30センチ。」」

声をそろえてぶっきらぼうに言い放つその言葉は、まるで打ち合わせをしたようにまったく同じで
快斗はあっけにとられたように二人を見る。
おそらく、1ミリの誤差も許されないのだろうと思いながら。

切り分けられたスイカをそれぞれのお皿にのせる。
真っ赤な果実がみずみずしさを強調し、おもわず生唾を飲み込みたくなる。
テーブルに運ばれてきたそれに、子供たちはいっせいに手を伸ばした。
先ほどまでは憎まれ口をたたいていた悠斗に由梨も、やはりこんなところはまだまだ子供らしく
快斗は柔らかな笑みを浮かべる。

もちろん、一番おいしい部分は、愛しの奥様のために冷蔵庫で保存中だ。

スイカを食べて、他愛のない話をして、4時を回ったころ
子供たちは扇風機の回るフローリングで昼寝をはじめる。
前日に海に行ったので疲れたのだろう。
快斗は青いタオルケットをかけて、食べ終わったスイカの皿を片付け始めた。

そして、テーブルを布巾で拭いていたころ、玄関の開く音に軽く首をかしげる。
新一は事務所の仕事で夜まで帰らないと言っていたし。

すっと目を細めてフローリングの扉を見つめる。

「あら、4人とも寝てたのね。」
「天使みたいにかわいく眠ってるでしょ。」

予想通り、入ってきたのは隣人の灰原哀。
手には、なすびとキュウリそしてトマトが収まっていた。

「博士が貰ってきたの。今日の夕食にでも使って。」
小さな両手から転げ落ちそうなそれを受け取って快斗は人好きな笑顔を浮かべる。
「うん。夏野菜のカレーにでもしようかと思ってたし。ありがとう。
 哀ちゃんもよかったらスイカ、貰っていってね。」

「ええ。そうするわ。」

水色のグラスに麦茶を注いで、快斗は哀に席を勧めた。
彼女は“夕飯の準備もあるから少しだけ”といいながら素直にすわる。
そして、グラスについた水滴をゆっくりと指でなぞると、再び眠っている子供たちを眺めた。

「黒羽君。ひとつ、聞いてもいいかしら。」
「ん?」

「いつか、彼らには告げるつもりなの?KIDのこと。」
視線を快斗へと戻すと、哀はじっと彼の表情を見つめる。
ちょっとした、変化を見逃さないようにと。
だけど、快斗はいつもどおりのポーカーフェイスではぐらかすように苦笑した。

「いつかはね。話さなきゃいけない日がくるような気がするんだ。」
「そう。」
「雅斗と由佳は大丈夫だろうけど、悠斗と由梨は自信がないな。」

新一を目標としている二人は、正義感が強い。
それは、昔、探偵である新一に近づいたときの心境としているかもしれない。

「大丈夫よ。あなたの子供でしょ。」
「うん。だけど、しばらくはKIDの話はタブーでお願いできる?」

今までどおり。

「わかってるわ。」
哀はゆっくりと席を立つと、いつのまにか準備されたスイカを手に取る。
そして、雅斗達を一瞥すると、何事もなかったように玄関へと向かった。

玄関の扉をあければ、突き抜けるような青い空。
ジワジワと時間を惜しむように鳴く蝉。

遠くのほうから見知った顔が見えて、哀は少し表情を和らげる。
相手も気づいたようで軽く片手を挙げて、玄関から入ってきた。

「早かったのね。」
「ああ。こう暑くちゃ仕事にもならねーよ。もう帰るのか?」
「ええ。・・・工藤君。」
「ん?」
「・・・いえ。冷房、あまり強くしないようにね。」

哀は言いたかった言葉を飲み込んで、自宅へと足を向ける。
新一は少しだけ思案したようにその背中を見つめた。

快斗は玄関から感じる新一の気配に顔を緩ませる。
そして、お出迎えにと部屋をでようとして、ふと眠っている子供達を見つめた。

「まだ、本当のこと言えなくてごめんな。」

あどけなさの残る子供達が、KIDを知るのは、数年後のこと。

あとがき
HP
復活に、このノンカロリーなお話です。
導入的なお話なのでご勘弁していただくと幸いです。
黒羽家シリーズで、大事な話を抜かしていたと気づいて、ただいま取り掛かっております。
やっぱり、重要ですよね?父親の正体を知るエピソードって・・・多分。

 

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