※注意※

快新で海賊物です。

平次と白馬が酷い人なので、2人のファンにはお薦めできません。

また、中途半端な作品が苦手な方もお読みにならないほうが・・。

本当に趣味で突っ走った作品ですが、それでも大丈夫という方はどうぞ。

 

 

スクロールしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこまでも続く水平線。

海に出てどれくらいがたっただろう。

青年はそんなことを思いながら、そっとジーンズのポケットから

小さな蒼い宝石のついたネックレスを取り出した。

 

青年の手にあるこの禍々しい紅く光る宝石こそ、代々彼の家に伝わる秘宝、パンドラ。

パンドラは古来より幸福の象徴と称され、

これを持つと世界を手に入れることができると信じられてきた。

そのため幾度となく争いが起き、石は幸福どころか不幸の象徴と変わっていく。

そしてその不幸の宝石が数百年前、彼の先祖の手に渡ったのだ。

思えばこの時から、彼の一家の運命は破滅へと歩みはじめたのかも知れない。

 

青年は宝石を太陽にかざして目を細めた。

何も遮る物がない海上では、海の照り返しと直射日光との光でその輝きは一層きらびやかになる。

 

 

父が死ぬ寸前に己に託した幸福の象徴。

決して悪人の手に渡してはならないと、最期まで石の行く末を気にかけて逝った両親。

 

「どうして・・・こんな物を持ち続けたんだよ。」

 

青年の嗚咽にちかい声は深い海に飲み込まれ、潮風にかき消された。

 

 

 

Voyage

 

 

 

この巨大海賊団に家族を惨殺され、そしてパンドラの守り人として無理矢理連れてこられて、

はや5年が過ぎようとしている。

 

 

「工藤君、こんなところにいたのですか?心配したんですよ。」

「キャプテン、すみません。」

 

新一は片膝を着いて目の前に立つこの船のキャプテンこと、白馬探の手を取ると、

敬愛の意味を含めてその甲に口づけを施した。

その新一の仕草に満足したのか、白馬は“顔を上げなさい”と告げる。

 

彼の言葉は呪文だ。

自分には決して逆らうことのできない呪文。

どうあがいても彼に飼われ続けるしか生きる方法はない。

 

新一はそっと顔を上げた。

白馬は満足げな笑みを浮かべている。

紳士的な笑顔には、頭にかぶっているドクロ入りのハットは

ひどく不釣り合いだと新一には思えた。

 

「体が冷えますし、それにもうすぐ次の島に着きますから部屋に戻っていてください。」

「また・・・襲撃をなさるんですか?」

 

「それが海賊ですよ、工藤君。大丈夫、君には血の一滴も見せません。

 服部、彼を部屋へ連れて行ってくれ。」

 

「了解や、キャプテン。」

 

いつの間にか傍に来ていた副船長こと服部平次が新一の腕をもって立ち上がらせる。

新一はそれに逆らうことなく、いつもの暗い自室へと向かった。

 

船は3層に別れている大型船で、新一の部屋はその最上階部分にある。

扉は南京錠が3つほどつけてあり、新一の意志で外に出ることは許されなかった。

今日はたまたま、平次が外へと連れ出してくれたのだ。

 

部屋のなかは、ベットと本棚、そして机のシンプルな造りになっているが

それでも船員に比べたら豪華な部屋。

だけど、そんな部屋であっても新一にとっては獄中とさして変わりはなかった。

 

「それじゃあ、わいはいくけど、あんまりキャプテンに心配かけたらあかんで。」

「悪かった。」

 

新一は部屋にある小さな窓から海を見つめたまま返事を返す。

平次はそんな新一の態度に気づかれない程度ため息を付いて、彼の近くへと歩み寄った。

部屋を出るはずの平次が近づいてくる気配に、新一は後ろを振り返る。

その瞬間、唇に彼の唇が重なった。

 

「んっ・・・。」

 

重厚で甘いキス。

まるで舌は生きているかのように、新一の口のなかをはいずり回った。

しばらくして、平次は唇をはなす。

口から零れた唾液が銀色の糸のようだった。

 

新一は何事も無かったかのように平次の口に右手の人差し指を添える。

 

「副船長。俺は誰にもなびきませんよ。」

 

「しっとるわ。だけど、わいが好きなんや。

 例え工藤が前の男を忘れられへんかったとしても。

 船長に毎晩、啼かされてると知ってても・・な。」

 

あっけらかんとそう告げて笑う目の前の男を新一はどうにも理解できなかった。

 

女禁止の船で欲求不満になることは仕方がないとは思う。

そのはけ口に、女顔の(自分ではそう思わないが)自分に手を出すことも。

だが、もしその事実を船長が知ったなら当事者は間違いなく殺される。

今までにそうして殺された船員を新一は知っていたし、何人も見てきた。

自分を犯し、殺されるのだから別段同情の余地もない。

まぁ、それを甘んじて受け止め、抵抗しない自分も自分だが。

そのせいか、最近は手を出す輩も減り、船長も対策として、

襲撃の間だけ女を強奪することを許可している。

 

だけど、平次は変わらず、船長の目を盗んでは自分を抱く。

街で女を抱くこともしないで。

 

「俺は愛玩人形で十分なんだよ。あいつが生きれなかった分、生きていれればそれでいい。」

「ほんま、生きてるんか?自分。」

「生きてるよ。あいつの思い出の中だけで。」

「“あいつ”さんが羨ましいで、ほんまに。」

「無駄話は終わりだ。」

 

新一はそう告げると、襲撃が始まるぞと平次を部屋から追い出した。

そして、1人になった部屋から再び蒼い蒼い海を見下ろす。

 

思い人の瞳の色に似た海だけが自分の正気を保つ術だった。

 

 

 

 

 

「黒羽大佐。本国の北北東にあります貿易港、サンフェルデに海賊接近とのことです。」

「分かった、すぐ行く。」

 

大佐室の扉が開き、息も切れ切れに海兵は黒羽に海軍襲撃の一報を告げた。

ここは、首都部に程近く、国内第2位の港町にある海軍司令部。

懸賞金1億以上の大物海賊団を潰した数は年間30を越える。

 

そこのトップこそ、20歳という異例の若き大佐、黒羽快斗であった。

 

快斗は机の上にある古びた写真にキスを落とす。

 

「行ってくるね、新一。」

 

誰よりも大切な人の命を奪った憎き海賊を殺すために。

 

 

傍にあるジャケットを羽織った瞬間、快斗の顔から先程の優しさは消える。

海賊との戦いの時は“鬼の大佐”と呼ばれるだけの気迫。

その身なりは、大佐からはほど遠いが・・・。

 

「大佐、今日も先頭に?」

「当たり前だ。」

 

海賊を処刑することで、快斗は正気を保っていられる。

海賊を殺す瞬間に思うことは、

こんな下等な生物に大事な人を奪われたという自分に対しての苛立たしさ。

そんな理由では海軍など向かないと、上司には散々言われたが、

今更、改心することなどできなかった。

 

「あいつら海賊をこの世から抹消すれば、俺は新一のそばに行ける。」

 

快斗は腰元の剣を抜き、本部の建物周辺に集まった海兵に告げる。

「生き残れ」ただそれだけを。男達の歓声が港町にとどろいた。

 

 

「遅かったですね、平次。」

「工藤が寂しがっとったからな。」

「貴方が副キャプテンでなかったら抹殺してますよ。本当に。」

 

操舵室に入ってきた平次に白馬は視線を合わせることなく、

航海士数名と、今後の進路を話し合いながら、淡々とそう告げた。

 

新一に手を出していることなど随分と前からばれているのは知っていた。

 

「副キャプテンやなかったら、強奪して逃げとるわ。」

「そうでしょうね。でも、工藤君はこの船から下りませんよ。」

「何でや?」

「それは秘密です。さぁ、今日は海軍も来るそうですからしっかり働いてください。」

 

白馬はそう言って双眼鏡を平次に投げ渡す。

確かに遠くの方に、海軍の船が見えていた。

 

「ありゃ、第2支部の船やないか。」

 

「ええ、噂の最年少大佐がいる部ですよ。気をつけてくださいね。

 それじゃあ、小型船から前に行かせますか。」

 

白馬はそう言ってパチンと指を鳴らす。

その音を合図に、周りにいた船員が隣の2隻に先頭で行くように信号を送った。

ここでキャプテンに逆らう人間はいない。

というよりは、逆らえないのかも知れないが。

 

先に出た2隻はあっけなく、海軍の大砲で海の藻屑となる。

だが、白馬は特に気にかけた様子もなかった。

 

「やはり、強いですね。今回は。」

「いっちょがんばるしかないな。」

 

拳銃を腰に備えて操舵室を出ていった平次を見送ると、白馬もまた甲板の方へと向かった。

基本は横付けして、船を乗っ取ること。

まぁ、あとは腕の良さそうな海兵を捕虜として捕まえればいい。

 

大砲の音が次第に激しくなり、戦いは始まった。

 

 

「黒羽大佐っ、母船に海賊が侵入しました。」

「分かった、今行く。」

 

快斗は軽く舌打ちしてデッキに出た。

やはり噂の大海賊団だ。一筋縄にはいかないらしい。

 

快斗は乗り込んでくる海賊を次々に斬り殺した。

素早い彼の動きについていける者はいなかった。

ただ、1人を除いて・・・。

 

「やるやないか、自分。」

 

相手の拳銃をどうにかその手から振り落として、2人はまさに剣だけで戦っていた。

細いロープの上。目下には荒れ狂う海が口を開いて待っている。

力は僅かに目の前の男が上だった。

刀がぶつかり合うときの衝撃がそれをありありと提示する。

 

それでもスピードは絶対に負けていない。

相手が刃こぼれするたびに快斗はそう確信した。

 

「あんた、うちの船にいる男に似てるなぁ。」

「俺を、貴様等なんかと一緒にするな。」

 

「それや、その死んだ目。生きてる目的のないその目。そっくりやわ。ほんまに。」

 

「・・・黙れ。」

 

キーンっと敵の剣が海へと消えた。

 

そしてその首をはねようとした瞬間、デッキにいた船長らしき男が声を挙げた。

 

「周りを見なさい。黒羽大佐。」

 

快斗は敵の首に剣の先端を押しつけたまま、そっと辺りを見る。

気が付けば部下達の数名が、海賊に周囲を囲まれ拳銃を突きつけられていた。

 

「部下を助けたいのなら、剣を捨てて海賊となりなさい。

 平次をうち負かすだけの力。実に望ましい。」

 

「誰が・・・。」

 

誰が海賊なんかに、そう言おうとして快斗は口を噤んだ。

ここで自分の欲に従えば、大切な部下を見殺しにしてしまう。

後ろから、海兵達の声が聞こえた。

 

自分たちは良いから、その男を殺して逃げてくださいと。

 

「海賊は海賊を潰すのか?」

「出会えばもちろん潰しますよ。」

「なら、承諾しよう。」

 

快斗は剣を海へと捨てる。海賊が殺せるなら海軍も海賊も変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

「おもしろい男が手に入ったで、工藤。」

 

 

血なまぐさい服を着替えて、シャワーを浴びた平次は新一の部屋を訪問した。

だが、新一から特に返事はない。

新一はただ、気が抜けたように窓を見つめていた。

 

「なぁ、その男に会わせてくれないか?」

「珍しいやないか。他人に興味をもつなんて。」

「おまえを負かした男なんだろ。」

 

「それは言わんでくれ・・・。待つっててな、キャプテンに承諾を得てくるさかい。」

 

めったにない頼み事やし。平次はそう付け加えると慌てて部屋を出ていった。

 

 

先程、廊下を通った船員達の会話から聞こえた言葉。

 

群青の瞳、史上最年少の海軍大佐、平次をうち負かす男

 

戦いは白馬の宣言通り、新一の部屋のある反対側で行われたのでまったく見ることはできなかった。

でも、あのキーワードが頭に残っている。

 

彼はもう死んでしまったと聞かされた。

15歳になってすぐに徴兵令で海軍へと入隊し、そこの訓練で事故死したと。

その骨や髪までも自分の目で見た。

本当に死んでしまったと思っていた。

でも、今考えてみれば、死体は見ていない。

 

「生きているのか?快斗。」

 

少しだけ希望の光が見えた気がした。

 

 

 

 

 

「工藤君が彼に会いたい?」

「そうなんや、なんや強いってことに興味が引かれたようやし。」

「まぁ、彼も君と並ぶ地位を与えるつもりですし、顔合わせくらいは必要でしょうね。」

 

白馬はふむと考え込んで、承諾の返事を返した。

 

「じゃあ、君が付き添いで、懲罰房に連れて行ってください。

 もちろん、万全の注意は必要ですよ。彼は死んだ獣の目をしていますからね。」

 

「わかっとる。」

 

平次はスキップしそうな勢いで、船長室を後にする。

新一に早くその吉報を告げるために。

 

 

久々に下りる階段だった。

懲罰房など、おそらく捕まって最初の一週間、入れられたとき以来だ。

高鳴る期待を沈めて、平次に感づかれないように振る舞う。

もし、本当に彼だったら、船長や副船長が何をするか分からないから。

 

 

 

 

 

 

近づいてくる足音に快斗はそっと目を開けた。

そして気だるそうに上半身を起こす。

食事かなにかだろうか。そんな感覚だった。

 

「おう、起きとったか。」

「服部だっけ。」

「そうや、おまえに面会したい奴がおってな。連れてきたで。」

 

「ふ〜ん、物好きだね。」

 

快斗は興味なさそうに適当に相づちを返す。

平次はそんな彼の態度に苦笑しながらも、手招きをしてその人物を呼び寄せた。

 

「ほら、こいや。」

 

新一は聞こえてきた声に彼だと確信しながらも、彼の目の前に立つのが恐ろしかった。

穢れた自分に彼と会う資格などあるのかと。

 

とりあえず知り合いと悟られてはいけないため新一は視線で平次を呼ぶ。

それに気付いた平次はどうしたんや?と首を傾げながら、新一の方に近づいてきた。

 

「あいつと2人で話しをしてみたい。」

 

新一は快斗に聞こえないように小さな声で平次に耳打ちする。

平次は一瞬とまどったが、鉄格子があいだにあるので大丈夫だろうと承諾した。

 

平次が階段を上がっていくのを確認して、新一はゆっくりと彼の居る牢屋へ向かう。

 

 

コツリと足が止まった。

快斗はそっと、そちらをみる。

 

 

 

そして、言葉を失った。

 

 

 

 

 

「やっぱり・・・生きていたんだな。」

 

「・・・新一?」

 

夢かと思った。

自分が海兵に連れて行かれて、1年後にようやく帰郷できたとき、快斗は新一の死を知らされた。

 

新一は村一の名家の一人息子で、徴兵令も両親の財力で免除された1人。

新一は快斗とともに海軍に向かうと行ったが、両親は決してそれを許さなかったし、

快斗もまた、あんな危険な場所に新一をやりたくなかったので、両親に協力して新一を説得した。

 

 

必ず一年で戻るからと。

 

 

新一の一族は全て海賊に殺されたと村人から聞いたとき、快斗の世界から色は消えた。

そしてその消えた世界を染めることのできる色は海賊の血だけだった。

 

だけど・・・・目の前に彼が居る。

随分と痩せてしまって、大人びた顔つきにはなっているけど色あせない蒼い瞳が決定的な証拠だ。

 

「どうして、ここに?」

「話せば長くなる。にしても、俺は両親の嘘を信じてしまったんだな。」

 

今思えば、あれは快斗を諦めさせるための嘘だったのだろう。

どうして気が付かなかったのか、自分でも笑えてくる。

 

快斗の約束を信じていれば・・・・。

 

「新一。もっと顔を見せて。だいぶ痩せたね。」

 

鉄格子の間だから手を出して、新一の頬を両手で包む。

本当にこの場で死んでもいいと思った。

 

「快斗だって、傷だらけだ。」

 

新一は快斗の両手に自分の両手を重ねる。

間を隔てる鉄格子がひどく邪魔だったけれど・・それでも快斗の体温が心地よかった。

 

「快斗、俺はこの船から逃げられない。理由は両親から受け継いだ秘宝にある。

 おまえだけを逃げさせる力があればいいんだが、船長に逆らえないんだ。」

 

「構わないよ。俺は新一がいるなら例え地獄でも喜んで受け入れる。」

 

「快斗・・・。」

 

新一の瞳から涙がこぼれ落ちる。

快斗はその一滴一滴を愛おしそうに舐める。

互いの死んでいた心に体温が宿った瞬間だった。

 

「工藤、そろそろいいかぁ?」

 

階段の上から聞こえる声。

新一は慌てたように快斗の腕の中から逃れた。

 

「快斗、船長と副船長は俺に執着している。だから快斗が知り合いとばれると・・。」

 

「うん、俺もなるべくはやく信用を確立して、

新一の部屋に出入りできるようになるから。もう少しだけ我慢して。」

 

「ああ。快斗も無理はするな。特に船長には逆らうなよ。」

 

どちらともなく、鉄格子の隙間からそっと唇を合わせ、微笑み合うと二人は離れる。

本当ならもっと傍にいたいけれど、今までの絶望に比べれば我慢できるから。

 

新一は“今行く”と平次に返事をして、外へと向かった。

緩みそうな口元を、幼い頃に身につけたポーカーフェイスで押し隠して。

 

END