早朝、階段をのぼり終えて事務所の鍵を鞄の中から取り出してカチャリとドアを開ける。

そんな時、コンクリートの階段をコツコツと登ってくる音が

聞こえたと同時にふと隣に人の気配を感じた。

誰だろうと、視線を向けた先にはブレザー姿の女子高生が神妙な面もちでこちらを見ていた。

 

WISH:前編*

 

「えっと、真子(マコ)ちゃんだっけ・・・。」

「はい。」

下の名前だけを告げて、黙り込んでしまった彼女を

どうにか事務所の中に招き入れて、既に30分が経過していた。

話し始めるのをとりあえず待っていた新一だったが、このままでは日が暮れてしまう。

そう思って、当たり障りのない話しを切り出そうとするのだが、

どうもこれと言った話題が見つからない。

同じ女だとはしても、今の女子高生に受ける話しなど早々思いつかないのだ。

まあ、これが旦那だったら別だろうけど・・・。

 

重苦しい沈黙の中、新一は頭をフル回転させて彼女がここを尋ねてきた理由を検討する。

格好は、茶髪にミニスカートといたってその辺りのことは差し違えない。

荷物も特に多いというわけでもないから、家出も考えにくいだろう。

なら、なんなのか?

 

「あ、あの。私・・・・お願いがあって・・・。」

視線を彼女へと戻した瞬間、真子はようやく口を開いた。

その表情は、以前にも見たことがあるような気がするのだが・・・。

そう、思いつつも新一は話を進めるよう視線で促す。

 

「怪盗KIDってご存じですよね?」

「ああ、まあ。」

「私、彼に会いたいんです。」

 

ようやく話は進む・・・そう期待した新一は真子の一言でがくりと肩を落とした。

ただの追っかけか・・・。

まさか、こんなことで30分も時間を無駄にしたかと思うと、正直泣けてくる。

おまけに、真剣に推理もしたというのに・・・。

 

「悪いけど・・そっち関係の話しは。」

「もう一度会って、気持ちを確かめたいんです。あの時は、本気だったのかって!!」

「本気って・・・話しがよく分からないんですけど・・。」

「私、彼にキスされたんです!!」

 

“言っちゃった”そんな感じで顔をポッと紅くする彼女に

新一の頭痛は最絶頂期へと入ろうとしていた・・・・。

 

 

「雅斗!!」

「何?母さん。」

真子という少女のせいで、今日1日、仕事がまともにてにつかなかった新一は

八つ当たりをするには絶対こいつだと言わんばかりに、家に帰るとすぐ雅斗の元へと向かった。

 

ちなみに玄関まで出迎えに行き、

久しぶりの再会を味わおうとしていた快斗は後ろで地面とお友達となっている。

 

「なんかあった?」

「おまえは、女たらしの部分まで快斗に似たのか!?」

「ちょっ、俺は、新一、一筋だって。」

「快斗は、少し黙ってろ!!!」

家中に響き渡る新一の怒鳴り声に、部屋にいた兄弟たちもゾロゾロと顔を出す。

あんなに機嫌の悪い新一を見るのは本当に久しぶりだ。

 

さすがの、雅斗も尋常ではない新一の様子に、

なにか女遊びでもしたかと最近の行動を振り返り始めたが・・・・。

 

「多すぎて、わかんねぇ。」

 

雅斗の返答に、新一からの制裁が飛んだのは言うまでもないだろう。

 

 

「だから、さっきのは冗談だって。」

話し合う場所を、居間へと改めて、雅斗は新一に蹴られてズキズキと痛む左足を押さえながら

先程の返答を撤回していた。

 

本当に、ちょっとした冗談だったのだが、言うタイミングを外したらしい。

完全にご立腹の新一の機嫌を取り繕うなど、父親以外不可能であろう。

 

「それに、何があったんだよ。俺、急に怒られたってわかんねーし。」

KIDの時に、女子高生をたぶらかしただろ?」

「そんなの、いつものことじゃん。って・・ちょっとまて。足を振り上げないでくれよ。

 父さんだって昔してただろ。それに、母さんだってファンの子にウィンクのひとつ位

したことだって・・・。」

「俺が言っているのは、キスしたかどうかってことだ!!」

 

新一の言葉に、部屋中が一瞬沈黙に包まれた。

 

 

「なに、雅斗。ファンの子にもう手、出したの?」

ニタニタと笑いながら、由佳は雅斗の頭を茶化すように叩く。それを、手で払いのけて

雅斗は由佳を軽く睨み付けるが、今は彼女の相手をしている暇もなかった。

 

「で、どうなんだ?」

「してない。」

「本当だな?」

「ぜってーしてない。俺だってそりゃあ女に興味がないわけじゃないけど、

 別に好きでもない相手にキスしようとは思わねーもん。」

 

新一は雅斗が嘘を付いているようには見えなかったので、彼女の勘違いかと結論を出すが、

それでも、真子と名乗った少女はそう思いこんでいるのだから誤解を解くことは必要だ。

 

「とにかく、その子に会うときがあったら誤解だけは解いておけ。」

「ちょ、母さん。疑ったあげく蹴りを入れたのに、それで終わり?」

 

立ち上がって話は終わりだと告げる新一に雅斗は思いついたように慌てて声をかける。

その言葉に新一もやはり少し悪かったとは思っていたらしく、

手を顎に添えて考える仕草を見せた。

 

「・・・・ひとつだけおまえの頼み事聞いてやるよ。」

「その言葉、忘れないでよ、母さん♪」

 

雅斗は新一の言葉に一気に機嫌がよくなると、

ニコニコと言った形容がピッタリの笑顔を惜しみもなく振りまきながら部屋を後にした。

 

その一連の流れを見て、快斗達の機嫌が悪くなったのは言うまでもないだろう。

 

あとがき

なんか、序章って感じの話ですね・・。あと2,3話は続くかもです。

飛鳥様、もう少し待ってください。必ず掻き上げますので・・・・。

 

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