「まったく無茶もいいところね。」

 

手首の包帯を巻き直しながら、哀は腫れの引いてきた手首をパシンと叩いた。

それに、新一は短く声を上げるが、今の哀には届かない。

 

 

「関節をはずすなんて、後先考えて行動したら。」

「それができねーことくらい、わかってるだろ?」

「開き直らないで。」

 

今日の哀は隙が全くなくて、どんな言葉もぴしゃりと言いきられてしまう。

新一は痛みの治まった手でぽりぽりとこめかみを掻くしかなかった。

 

説教はさんざん受けた。

最初は快斗、次に子供四人、そして警察の方々、最後はもちろん哀からだ。

それが自分の身を心配しているとわかっているから、言い訳の使用もない。

新一は事件の経過を思い出しながら、ふと手を口元に当てた。

 

「キスが忘れられない?」

「なっ、おまっ、どう・・・。」

「そんなに慌てないで。黒羽君の様子といまの仕草をあわせれば簡単に予想がつくわよ。」

 

顔を真っ赤にする新一に哀は軽くため息をつく。

新一は気を失っていたので知らないが、

男を殺そうとしていた快斗をなだめたのは哀だったのだ。

警察と共に、頃合いを見計らって向かったお屋敷。

2階では雅斗たちがまだ一悶着していて、警察はそこで足止めをくらった。

 

だが、哀だけは隙をついて3階へと向かったのだ。

 

「あの光景は恐ろしかったわ。」

 

息が切れかけている男を容赦なく水面へと沈める快斗の目は

まさに羅刹や般若のようで。さすがの哀も声を失った。

だけど、そのままやり過ごすことはできず、快斗の腕を掴んだのだ。

 

『哀ちゃん。離して?』

『だめよ。このままじゃ男は死ぬわ。』

『まだ大丈夫。それに殺しはしないよ。簡単には。』

『黒羽君。こんな男は放っておきなさい!!今は工藤君が先でしょ。

 はやく運ばないとやばいわ。』

 

そばに瀕死の新一がいたからこそ、彼を止めれた。

哀はそう今でも思っている。

 

もし、もし、工藤君が死んだら。

私は彼を止められないわ。

 

「どうした。灰原?」

「私のためにも生きてちょうだい。」

「はぁ?」

 

もう二度とあんな怖い彼に会うのはごめんよ。

 

哀は軽くため息をつくと、治療用具を片づけた。