「あれ、今日。工藤は?」 いつも一緒に来るはずなのに、一人で教室に登校してきた平次に快斗は思わず声をかけた。 ―あかつき― 「自分、朝から来たクラスメイトに挨拶なしで、開口一発目がそれかい。」 「だって俺、平次君愛してないし。」 「アホ。それはお互い様や。鳥肌立つこと言うな。」 そう言ってケラケラ笑う快斗の頭をペシンと叩いて平次は重々しくため息をついた。 「で、工藤さんは?」 「白馬、おまえもか。まぁ、ええわ。あいつ風邪ひいて休みや。 あ、見舞いは遠慮しとくで、病人の体に騒がしいやつは毒やからな。」 近寄ってきた白馬にそう釘を刺して平次はどこか不機嫌そうに自分の席へとつく。 日ごろは朝から自然と彼の友人も集まるのだが、今日の雰囲気は人を寄せ付けなくて 彼と仲のいいクラスメイトも遠めで彼を見守るしかなかった。 快斗はそんな平次に新一の様子がそんなに芳しくないのかと考え、眉間にしわを寄せる。 それならばぜひ、お見舞いに行きたい。そう思ったとき後ろから肩を叩かれた。 「工藤さんなら心配ないわ。」 振り返ればあきれたような表情の志保。 その言葉に、快斗は彼女が医学に精通していることを思い返す。 「風邪って熱は?」 「昨晩はあったみたいだけど、今朝はもう大丈夫。今日は用心のためよ。」 「そっか。でもさ、それにしては服部のやつ、やけに不機嫌じゃない?」 虫の居所が悪いのは、新一の病気のせいかと思ったのだが。 それを言外に含ませて志保に尋ねれば志保はただ首を横に振っただけ。 『私がそんなこと知るはずないでしょ。』と言いたげに。 「それにしても困ったな。今日は体育祭の出場種目、決める予定だったのに。」 いつのまにか志保と快斗の間にやってきていた青子。 彼女は体育祭メンバー表と書かれた紙を持ち、軽くため息をつく。 「中森さんって、体育委員だったのね。」 「そう。快斗と一緒で。まぁ、誰かさんはまったく仕事しないけど。」 そう言って青子はぎろりと快斗をにらんだ。 どうやら休日に臨時であった委員会にサボったことを怒っているらしい。 「しょうがねーだろ。日曜は予定があったんだよ。」 「おばさんに聞いたら、またあの美術館に行ったんだって?」 「え?俺が?」 「なに?行ってないの?」 「いや・・あれ?」 青子の言葉に快斗は驚いたような表情で彼女を見上げた。 確かに休日になにか大事なよていがあったのは確かで、 それがKIDがらみだったこともなんとなく記憶には残っている。 けれど、大事な部分に霧がかっている気がして、快斗は軽く首をかしげた。 そんな彼に青子はポカンと快斗を見つめ、志保は視線だけを平次に向ける。 快斗の記憶の欠如、新一の体調不良。 それだけの手がかりがあれば彼女にとっては十分だったのだろう。 平次は志保の視線にあいまいな笑みを浮かべることしかできない。 ―――追求は避けられんな。ほんま恨むで、黒羽。 幼馴染と口論する彼に平次はやり場のない鬱憤を向けると つかれきったように机へと顔を伏せた。 「もう、仕事はしないし、ボケるし。本当にここに行ってないのね?」 あきれたようにため息をつきながら青子は持っていた何かで彼の頭をはたく。 それを受け止めた快斗は何気なく手に取ると、あるページで視線をとめた。 「・・・・これ。」 「快斗用の美術館のパンフ。渡すの忘れてたから。」 「じゃなくて。」 「何よ。」 「こんな展示品あったのか?」 見つけたのは、寂れた二体の石像。 赤い布の上に丁寧に並べられたそれは不鮮明な写真ながらも 快斗には十分興味が引かれるものだった。 何度かあそこにはKIDの仕事として足を運んだはずなのに。 「古代エジプトファラオの守り神。アヌビスとフォルスですか。」 「知ってるのか?白馬。」 そばにやってきていた白馬が快斗の横から覗き込むようにパンフを見つめ 『ああ。これですか。』と納得したようにその石像のなを告げる。 その名前にズキンと頭が痛んだ気がした。 「博識な黒羽君も知らないことがあるんですね。」 「俺は覚えたことは忘れないだけ。それにしてもアヌビスとフォルスか・・・。」 「おや、これはビックジェルではありませんよ。」 「俺はKIDじゃねーって言ってるだろ。それよか授業始まるぜ。 席に戻ったほうが良いんじゃねーの?優等生さん。」 あくまでKIDの見解としてみる白馬に快斗はため息をつくと、 片手でシッシっと追い払うようなしぐさを見せる。 そのしぐさとともに、現時刻を提示すれば彼を追い払うのなんてたやすいことだ。 そして、快斗の読みどおり、時計を確認した白馬はあわてて咳へと戻った。 それから数分後、担任教師が顔を出し、体育祭の話が始まる。 朝からのロングホームルーム。 青子は一人前に立って、体育祭のメンバー割りに勤しんだが、 快斗が動くことはなかった。 彼はただ、自分の席で見入るように先ほどの石造をみつめている。 「気になるの?」 「わからない。」 そっと耳打ちする紅子の言葉にゆっくりと首を振る。 紅子はそんな快斗の様子にただただ不信感を覚えることしかできなかった。 |
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