工藤新一(17)は本を立ち読みしていた。

ここは、江古田高校の文化祭のために集めたのだろう古本が、数十冊置いてあった。

その中から新一はお気に入りの推理小説を見つけて読んでいたのだ。

 

時刻は10時半を廻ったところだった・・・。

 

 

君の虜

〜文化祭パニック〜〈中編〉

 

 

ふとオレは推理小説から顔を上げた。

 

そういや快斗の劇どうなったんだろう? ・・・あの子がやんのかな・・・。

 

頭の中に先ほど快斗に喋りかけてた女子を思い出す。

実は見ていた。

声は聞こえなかったけど、快斗が何か笑顔で喋り、

女子の顔がみるみる赤くなるのが見えるぐらいの位置にオレはいた。

 

・・・向こうは気がつかなかったみたいだけど・・・。

 

それからなにかモヤモヤしたものが、オレをイラつかせていた。

眉間にシワがよる。

 

でも、快斗もあんなにあっさり引くことねーじゃねーか。

セリフだって快斗に付き合ってたから覚えてるし・・・・・・ってそうじゃなくて!

いつもしつこいぐらいなのに、今日はあっさり・・・でもなくて!

ああ! もう! なに考えてんだよ、オレは・・・・・・。

 

なんでこんなに悩んでんだよ・・・・・・。

ブツブツ言いながら、先ほどから手に持っていた推理小説を買う。

今の状態では読めないと思ったから。

 

「工藤君、どうしたの? 機嫌が悪いのかしら」

 

突然、後ろから声をかけられた。

振り向いて少し目線を下げる。

 

「灰原、どこ行ってたんだよ」

 

「ジュース。喉、渇いてると思って」

 

無表情で紙コップに入ったオレンジジュースを渡された。

灰原の紙コップの中身を見ると、アイスコーヒーらしかった。

 

「オレもコーヒーのが良かったな」

 

「わがまま言わないで。あなたは細すぎなのよ。糖分を摂りなさい、糖分を」

 

見た目、小学生に説教されてるオレって・・・。

悲しくなってきた。

 

とりあえず、ブラブラと歩く。

校庭は先ほどよりも活気づいていた。

 

「で、何を考えてたの?」

 

「? なにが」

 

オレンジジュースに口をつける。

甘酸っぱかった。

 

「眉間にシワがよってたわ。そんなに難しい本には見えなかったけど?」

 

灰原はオレの目を見てくる。

この目、苦手なんだよな・・・。

なんでも見透かしてるようで、心の中を見られているようで・・・・・・。

 

もう一口、ジュースを飲む。

 

「そんなんじゃねーよ、ただ快斗が・・・」

 

ピクッと灰原の瞳が揺れたのを、オレは見逃さなかった。

 

「・・・灰原ってさぁ・・・快斗のこと嫌いなのか?」

 

最後のジュースを飲み干す。

校内に入り、ゴミ箱に空のコップを捨てた。

 

「嫌いと言えば嫌いね。私だけのオモチャを盗られて、拗ねた子供ようなものよ・・・」

 

「なんだよ、それ」

 

「クスッ、内緒よ」

 

そう言ってやわらかく笑う。

この頃、こういう風に笑うことが多くなったと思う。

 

でも灰原の言ってることは全然わからない。

灰原の考えてることが全く持ってわからない。

 

オレは1つため息を吐いた。

 

「ため息つくと幸せが逃げちゃうよ? 新一v」

 

急に後ろから声をかけられた。

驚いて振り向く。

そこには笑顔の快斗がいた。

 

気配が全く無かった・・・。

さすが現役キザ怪盗・・・。

 

「なんだ、快斗かよ・・・。驚かすなよ」

 

「なんだとはごあいさつなv お姫様を迎えに来たんじゃないですかv」

 

「は? 誰が姫・・・」

 

言い終わらないうちに、オレの視界がぐらつく。

 

「それじゃ、お姫様は貰っていきますv ばいば〜い、哀ちゃんv」

 

「は? なにを・・・」

 

快斗の顔を見る。

この距離と感覚は・・・・・・。

まさかと思い、顔を赤らめた。

 

お分かりの人はお分かりだろう。

オレ、工藤新一は只今、黒羽快斗にお姫様抱っこされていた。

 

「だああぁぁぁぁぁぁぁぁー! おろせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ―――!!」

 

「ぼく、わかんなぁ〜〜〜いv」

 

「はぁぁぁぁ?! なにワケ分んないこと言ってんだあぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 

「あははははははv」

 

「ばあぁぁぁぁろおぉぉぉぉぉ――!! おぉぉぉろぉぉぉせぇぇぇぇぇ――――!!!」

 

快斗がものすごいスピードを笑顔で走っている。

オレは、そんな快斗にお姫様抱っこされながら、真っ赤になって騒ぎ散らす。

はた迷惑なそんなオレ達に、多くの視線が刺さって恥ずかしいのだが、騒ぐことはやめない。

 

オレはそのまま体育館の控え室まで運ばれてしまった。

 

 

 

 

 

 

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一方、アイスコーヒーが入っていた紙コップを握り締めていた灰原 哀は

 

「このままで済むなんて思わないでね、黒羽君・・・・・・」

 

紙コップを握り潰しながら黒いオーラを放ってたとか、いなかったとか・・・

 

 

 

 

 

 

 

                                      中編END

 

◇飛鳥様より◇

あといい(汗)

君の虜〜文化祭パニック〜〈中編〉いかがだったでしょう。

作者の飛鳥です。

個人的偏見で哀ちゃんは黒いと思い込んでるので最後はああなってしまいましたが・・・

ああ! 石を投げないで!!(笑)

 

誤字脱字、はたまた多字まである作品です・・・。

春日様にはいつもご迷惑をおかけしております・・・。

お礼のつもりがまた迷惑をかけていることを前提としこれを送らせていただきます。

 

お目汚し失礼しました。

                                                 2003.9.20

 

◇春日より御礼のコメント的感想◇

UPが大変遅くなってすみません(汗)

そして今回もステキな小説をありがとうござます!!!

いやぁ〜今回も新ちゃんがめちゃくちゃ可愛かったですね。

特に自問自答しているとこなんてww

なんやかんや言ってもやきもちやいちゃう新一君が大好きです。

そして、それを表に出さないつもりが哀ちゃんにはばれちゃうところも。

最後に自己中な快斗もいい味だしてますし。

哀ちゃんに負けっぱなしでは無いようですね(笑)

それに、お姫様だっこ!!!

シンデレラやる前から、もうラブラブで困っちゃいます。

ああ、その場にいれたらどんなに嬉しいか♪

 

それでは、最後に本当に心とろける小説をありがとうござました。

 

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