〜白麗祭〜 Act・1 中学の3大行事と言ったら、体育祭に修学旅行に文化祭であろう。 とはいっても、中学の文化祭は食料品もなければ、 自由な発表も出来ないと相場が決まっているといえる。 だが、雅斗達が通っている国立の青嵐(せいらん)中学は卒業生や 他校の中学生はもちろんのこと高校生やはたまた大学生に一般人まで 多く詰めかけるほどの人気を誇り、 模擬店やバザーなどもかなりの規模を誇るのだった。 つまり、高校の学園祭にも負けないほどのレベルの高さなのである。 そのため、準備は3ヶ月前から行われ、 学校はこの行事に全てを注ぐと言っても過言ではなかった。 「で?今年は何をするんだ?」 地域TV番組のCMで大々的に今年の青嵐中学校の“白麗祭”が 取り上げられているのを見て、新一は思い出しとようにそう呟いた。 もちろんそれは、快斗も同様に気になっていたらしく 後ろにいるであろう子ども4人に視線で尋ねる。 「よくぞ聞いてくれました。 今年からクラスごとじゃなくなってね、部門に分けてやりたい人を 3年〜1年まで合同で行うことになったの。 それで私は由梨を誘って模擬店のウェイトレスをするの♪」 「巻き込まれて迷惑しているんだけどね。」 楽しそうにうきうきと話す由佳とは対照的に由梨はその母親譲りの 美しい顔をゆがませて本当に嫌そうにそう付け足した。 それを聞いて、新一は苦笑するが、 一方の快斗は気が気でないような表情を作る。 「ちょっとまて。 それって俺の可愛い娘の生足を狼共に見せるって事になるじゃん!!」 「たっく、相変わらずの親ばかだな。まあ、どうせ甘味喫茶なんだろう。じゃないと、由梨が従うはずないもんな。」 「さすがお母さんね。それにお父さん。そんな下品な表現止めてよね。」 「まあまあ、由梨。お父さんも私の言い方に気が動転しただけだから。」 由梨の一言に快斗はまるでしかられた飼い犬のようにシュンとなってしまったのだが(それでいいのか!?)それを見かねた由佳が合間を開けることなくフォローに廻った。 「まあ、とりあえず今年の飲食部門の一位は決定したな。 ところで、雅斗と悠斗は何をするんだ?」 そんな旦那と娘のやり取りを横目に見ながら今度は雑誌に目を通している雅斗と新聞を読んでいる悠斗に新一は同じ質問をする。 まあ、おおかた予想はつくのだが。 「俺はもちろんステージ部門制覇のためにマジックショー!!」 「俺は展示。葉平に任せてあるからよくわからねーけど。」 「やっぱりな。ってことは白馬のところの紅里は 占いの館ってとこだろう?」 「展示部門はそこで決まりだから、葉平が何をしようとしても適当に 手伝うだけだし、気楽で良いよ、今年は。」 新一の一言に悠斗は本当に助かったというような表情でそう告げると、 又、新聞に視線を落とした。 そんな悠斗の様子にお祭り好きの由佳は何かを言おうとしたが、 それはある人物の出現によりすんでの所で止められてしまう。 「紅里と葉平の気配じゃん。」 玄関をくぐった辺りで由佳はその見知った気配に そうぼそりと言葉を発した。 もう、8時を過ぎた遅い時間だというのに、おまけに明日はいよいよ文化祭だというのにそんな疑問を持ちながらもとりあえず扉を開けに向かう。 もちろん、皆もその気配には気づき、快斗はお茶をつぐために、 新一と由梨はそれぞれ部屋を軽くかたづける為に席を立った。 「いらっしゃい、どうしたの?」 「あいかわらず嫌やな、お前の家は。」 「ええ本当。敏感すぎて怖いほどだわ。」 “扉をわざわざ開けてあげたのに、何よその言いぐさは”と悪態を つきながらも由佳はいつも通り2人を食卓のある部屋へと通した。 中では予想通りすっかり部屋も片づけられ、 紅茶がいい具合で湯気を立てている。 「どうぞ。」 快斗は入ってきた2人にお茶を勧めて席に座るよう即した。 それに、葉平と紅里は軽く頭を下げる。 「いつもすんまへん。黒羽のおっちゃん。」 「そして、相変わらず客のもてなしもしないのね、雅斗と悠斗は。」 温かい自分好みのアールグレイを口に含みながら、別に嫌みを言うわけでなく、もうおきまりとなった台詞を紅里は口にした。 「こんな遅くやってくる一般常識をわきまえていないやつに どうこういわれる筋合いはないんだけど?」 「俺も、同じく。」 「ふふ、まあいいわ。ところで今日は悠斗。今日は貴方に話があって きたの。もちろん明日のことでね。」 紅里の一言に悠斗はビクリと体を強ばらせた。 絶対に視線は合わせない方がいい。そう長年の付き合いで判断して新聞に意識を集中することに決める。だが、紅里はそんな悠斗の反応を楽しみながら続きを口にした。 「あなた達の展示と私の占いの館を合同で行うことにしたの。 そしたら、もう展示部門の優勝はもらったような物だから。 服部君には承諾もらってるわ。」 「わいらは、順番待ちのお客さんに茶を出せばいいだけや。 もちろん、悠斗はそれだけやないけどな。」 「それ以上言うんじゃねぇ。」 悠斗は決して振り向くことなくそうドスの利いた声で告げる。 だが、それを素直に聞く2人ではない。 なんせ、あの西の名探偵とおてんば大阪娘の息子に、 ロンドン帰りのコスプレ探偵と自称魔女の娘なのだから。 「もちろん、男のお客様も呼び入れなきゃ行けないの。」 「まあ、勘のいい悠斗や。もうわかっとるやろ?」 「何で俺なんだよ!!男相手なら女子生徒にたのめばいいだろ。 おめーら人気あんだから。 それにどうしてもっていうなら葉平がやればいいじゃねーか。」 新聞をばさりとたたきつけて悠斗はそう大声で叫ぶ。 その目は怒りに満ちていた。 それでも、くどいようだが2人は全く動じない。 つまり、悠斗に拒否権は存在していないのだ。 「ま、そういうことや。明日の朝、はよー白馬さんがくるさかい。」 「逃げるなんて考えても無駄だから。それじゃあ、お邪魔しました。」 叫び終わって肩で息をする悠斗を後目に2人はにこやかにそう告げ、 さっさと家を出ていってしまったのであった。 「がんばってね、悠斗。」 静まりかえった食卓に、全く励ます気もなく、それでいて楽しそうな由梨の言葉だけが響いてた。 |