白麗祭 〜Act7〜 司会者の声と共にステージに招かれた、 彼女たちそれぞれの夫はやはり高レベルだった。 先程とはうってかわって、男性陣より女性陣の声が 騒がしく響いているのもそれが原因であろう。 新一はそんなことをふと頭の隅で考えながら 隣に並んだ自分の夫を見上げた。 ステージには慣れている彼は、マジシャンに近い顔つきに なっていて・・・・。悔しいがほんの少し妬いてしまう。 快斗が注目されていることに。 そんな新一の視線を感じ取ったのか、快斗は観客から 新一へと視線を移すとにっこりとほほえんだ。 それが余計に新一にとっては悔しかった。 心を見透かされていそうで。 「さてさて、さすがはこれだけの美女集団の旦那様。 高レベルな争いになりそうですね。まあ、普通ならここで ご職業とかも聞いてみたいんですが、時間の関係により、 旦那様のことを奥様に紹介していただく形にしようと思います。もちろん、その中で旦那様のどこに惹かれたのかというのも 交えてお願いします。それでは、どうぞ。」 そう言われた彼女たちはどこか恥ずかしそうに 夫を紹介していった。 中には、年収を自慢する者などもいて、 会場は時々しらけたムードになる。 柏木美春の両親もその部類の人間だった。 夫の学歴に仕事での地位。 聞いているだけで反吐が出る。 「それじゃあ、最後に黒羽さん。お願いいたします。」 楽しみな顔をしている快斗の顔を盗み見て、 新一はかるくため息を付くと淡々と話し始めた。 彼がどんな人物であるかを。もちろん、快斗の職業を 具体的に明かしてはいけない、それによって雅斗が 親の七光りなどと言われてはたまらないからだ。 「彼は、夢を与える仕事をしています。 それは一身上の都合、具体的には申し上げられませんが、 私はそれは彼の天職だと感じているのです。 仕事の関係上、彼は愛想がいいのですが逆にそれが彼の心情を 掴みにくくして、彼の真意を探ることが会うたびに 私の楽しみとなっていきました。そして、同時に 彼に並ぶ存在でありたいと思うようになったのです。 どちらか一方が守って貰う形ではなく、 どちらか一方だけが支えてあげる関係でなく、 お互いが並んで歩けるような関係を 彼となら築いていける気がしたんです。」 新一は会場中が静まったのを肌で感じることが出来た。 そして同時に、快斗が馬鹿みたいに喜んでいることも。 「あら、悠斗じゃない。」 新一のスピーチを先程の場所とは離れたところで 由梨と聞いていた哀はふと隣に悠斗が居ることに気づいた。 その顔は女装の為の化粧もおとしてすっかりいつも通りのもの なのだが、機嫌は最悪とでている。 「女装、なかなかだったわよ。」 「哀姉、俺がそれを言われること嫌いだって分かって言ってる?」 「ええ、もちろん。でも、機嫌の悪さは 女装の件だけじゃないようね。」 ギロリと哀の慎重と同じくらいに成長した悠斗は 非難の視線を向けたが、それが哀に通じるはずもなく、 哀はほそく微笑んで言葉を続けた。 「お母さんが、妬けるくらいお父さんを紹介したから。」 その理由を述べたのは、悠斗ではなく その隣に彼と同様不機嫌そうな表情をしている由梨。 悠斗はその由梨の言葉に“違う”といったが 由梨は全く取り合っていないようだった。 「本当に、母親至上主義よね。あなた達は。」 「哀姉さんもでしょ?それに、兄さん達もだと思うけど。」 「そうね。」 素直でない新一にあそこまで愛の詰まった形で 紹介される快斗を羨ましいと思わないはずがない。 後で幸せ一杯の表情で帰ってくる快斗にそれなりの報復は 許されるはずだと由梨は密かに思っているのだった。 「・・・あっ、すみません。 ちょっと聞き入ってしまいましたね。それでは、 次に2人の愛をクイズ形式で検証していきたいと思います。 題して“あなたはもう忘れたかしら?”クイズー!!」 寒いネーミングに先程とは別の意味で会場中が静寂に包まれた。 それでも、係りの者は準備を始めだす。 用意されたのは、しきりの入った机。 そしてノート型のホワイトボードにマジックだった。 「私が今から行う質問に2人がそれぞれ答えて、その答えが 全く同じだったらポイントとなります。一番に5ポイントに なった方のみボーナス得点を差し上げる仕組みです。」 「では、第一問。ずばり始めて会った場所は?」 中学になる子どもがいる親が、一体全体初めて会った場所なんて 覚えているはずがないじゃないか。そう思いながら新一は 快斗をこっそりと横目で見た。するとどうだろう、 彼のペンは迷うことなく文字を書き付けている。 マジかよ・・・。 ここで、書けなかったらなんだか負けのような気がして、 新一は推理以外のために始めて頭をフル活動させた。 「さあ、それでは一斉にお出ししていただきましょう。 せーの、ドン!!!・・・・・・いや〜、さすがに 難しかったですかね?正解者は一組です。」 正解したのは、快斗と新一ペアでもなく、 もちろん柏木家でもなく一番奥にいるおとなしい夫婦だった。 余程恥ずかしいのだろうか2人で照れて頭をかいている。 「新一。忘れちゃったの?」 「なっ、ぜってーここだ。おまえこそ間違うんじゃねーよ。」 「え〜〜。違う!!ここだって。」 2人は自分で書いたホワイトボードの文字を指でつついて 示しながら小声で討論を始めた。 ちなみに、快斗が書いたのは“時計台” 新一が書いたのは“ビルの屋上”だ。 「まだコナンになる前にあったじゃん。」 「はぁ?俺はコナンになってからしかおまえにあった覚えはない。」 その小声もだんだんと大きくなり、周りの視線を集めて いるのだが2人は会話に夢中で気づくことはなかった。 それを、後ろから見ていた哀は深くため息を付く。 「会ったていうのはお互いに認識してからだろ? 偶然、道ですれ違ったのと同じじゃねーかそれじゃあ。」 快斗が自分と出会ったシチュエーションを聞いて、 思い当たる節はあったが、それは快斗つまりKIDだったとは 認識していない。 そう主張する新一に対して快斗も負けじと反論する。 「なっ、道ばたですれ違うのと一緒にするなよ。俺はあの日の 出会いをずっと忘れることはできなかったんだからな。 俺が初めて自分に自信を失った時でもあるんだし。」 「それは、おまえの感情だろ?そんなこと俺が知るかよ。」 「あ、あの?次にいってよろしいでしょうか?」 痴話喧嘩を止めることほど恐ろしいことはないと この時司会者は心からそう思った。 「やべっ。すみません、どうぞ。」 「気にしないですすめてください。」 ようやく事の現状に気づいた2人は、引きつった笑いを 浮かべながら次の準備へ問いはいるのだった。 「やっぱりお母さんの勝利だったわね。柏木美春の 悔しいがる姿も見れたことだし。」 「最後はちょっと心配したけどな。」 右から雅斗、快斗、由梨、新一、由佳、悠斗の順番で 歩きながら、悠斗と由梨は先程の出来事を回想して 感想を漏らした。 あの後の解答もはちゃめちゃで、一度もポイントを取ることは 出来ずそのたびに痴話喧嘩をしていたのだが、 それが逆に仲の良さを示したとしてなぜか高得点を 獲得してしまったのだから驚きだ。 そして、見事優賞に輝いたわけなのだが、 新一と快斗の痴話喧嘩は終わっていない。 「みんな目標の一位をとれたわけだし。 オーストリアも行けるし。2人とも機嫌なおしなよ?」 「そうそう。今日はパーティーだし。」 先程から一言も話さない両親に由佳と雅斗も 声をかけるがまったくとりつく暇もない。 2人とも喧嘩など小さな事でしょっちゅうするのだが、 たいていは快斗が折れて謝る。 だが、今回は快斗も折れる気はないらしい。 「お帰りなさい。あら、まだ痴話喧嘩していたの?」 先に帰っていた哀が玄関まで出てくると同時に、 夕食の香が漂ってくる。 そして、中ではうるさいほどの騒ぎよう。 どうやら、全員集合での夕食のようだ。 「痴話喧嘩じゃねーよ。灰原。」 「今回は新一が悪いんだし。」 「なっ、おまえの思いこみが激しいからだろっ。」 ようやく口を開いたかと思えば、出てくるのは暴言。 それも、周りからすればただのバカップルの会話である。 「雅斗、由佳、悠斗、由梨。行くわよ。 2人は2階で話でもしてきなさい。 仲直りするまで食卓には立入禁止。」 「「なっ!!」」 「文句があるなら他の方法を考えるけど?」 「「・・・・・分かりました。」」 「あいかわずやな〜。黒羽達は。」 「仲がええ証拠やね。」 部屋に入ってきたメンバーを確認して大阪の夫婦は 事の経過が分かったらしく、平次は大笑いしながら、 和葉は柔らかな表情をしてそれぞれ言葉を発した。 それを聞きながら、探と紅子も苦笑を漏らす。 「でも、哀は相変わらず強いわね。」 「僕もそう思いますよ。」 「そんなこと無いわよ。毎回毎回、痴話喧嘩を処理する こっちの身にもなって欲しいわね」 雅斗達を迎えて再開された今夜の食事は どうやら黒羽夫婦が酒の肴らしい。 まあ、それでも後数分したらふてくされた新一と 幸せボケした快斗が部屋に入ってくるのだろう。 哀はそう思いつつも随分と人数の増えた夕食に 柔らかな笑みを浮かべるのだった。 ◇白麗祭 END◇ |