白麗祭 〜Act7〜 「さあ、今年初めての試みとなる第一回青嵐中学美奥様コンテスト。 栄えある最初の優勝はさてさて、どのような奥様の手に渡るのか! ちなみに今回の優勝者には超豪華、オーストリア6泊5日の 旅にご招待だ!!オーストラリアじゃないぞオーストリアだぞ。 そこら辺のところ間違わないように。」 なんとも、ありきたりな司会の声と共に、 ぞろぞろと着飾った若奥様方がステージの袖から出てくる。 値段の張ったコートやアクセサリーをジャラジャラと付けていたり 案外質素な物でまとめていたりと、その格好は様々だ。 「あなたが由梨さんのお母様で?」 「えっ?」 歓声が響く中でさえ、しっかりと横から聞こえてきた声。 声の出所を見れば、昔、ドラマやテレビなどで 見たことのあるような女性がたっていた。 その顔に新一は彼女が午前中にあった少女の母親だと悟る。 「柏木美春さんのお母様、ですよね?」 茶色の髪を高い位置で綺麗に束ねて、ピアスには大きめのダイア。 新一は彼女をそっと横目で観察しながら、 改めてその女性の気品の高さを実感した。 「ええ。確かに娘の言ったとおり美しいですわ。」 「いえ。柏木さんには敵いませんよ。」 「またまた。まあそうでしょうけど。 わたくし、これでも名の知れた美人女優ですし。」 “ぜってー親子だ” 高笑いする彼女を見ながら新一は心底そう感じていた。 容姿では彼女に勝てないと思うが(いや、絶対勝ってる。By快斗談) 他の分野でどうにかして勝ちを手にしよう。 新一は彼女には絶対に負けまいと心に強くそう誓うのだった。 「いや〜。さすがに美しい御方ばかりですね。 それでは、皆さん、目の前をご覧下さい。」 そう言って司会者が示した先には、箸と2枚の皿に大量の大豆。 誰が見ても、やることはたったひとつ。 「お分かりとは思いますが、やはり女性と言えば箸使いは肝心です。 そこで、今から一分間でいくつの大豆を隣の皿に移せるか 競って貰います。よろしいですか?」 ここで、“嫌ダメです”なんて言われたら どうするつもりなんだろうと、新一は司会者の話を聞きながら のんびりとそんなことを考える。 周りでは、他の奥様方が闘志を燃やしているというのに・・・。 「こういうのは、冷静にやるのが一番ですのに。」 隣でそんな女性達を見ながら美春の母は薄笑いをしていた。 新一はその言葉に ただの自意識過剰な人間ではないことを察知する。 とりあえず、本気で取り組んだ方が良さそうだ。 「では、皆さん準備はよろしいでしょうか?よ〜〜〜い、ドン!!」 「随分と古典的な方法よね。」 「まあ、日頃の箸使いがしっかり見えるから おもしろいんじゃない。」 「いけっ、いくんやーー。由希ーーー。」 「和葉おばさん。少しは落ち着いたら?」 「言っても無駄よ由梨。」 会場の最後尾で哀、紅子、和葉、由梨、紅里の女5人はそれぞれの 私感から事の経過を見守っていた。もちろん、これだけの美女が 揃えば自然とステージ並に視線を集めているのだが 当人達は特に気にした様子もない。 「和葉ちゃんも出れば良かったのに。」 「うち、ああいうの苦手なんや。 それに快斗君の奥様にはかなわんしな。」 人並みをどうにかくぐって彼女たちの元へと到着した快斗は かるく周りに視線で規制を駆けると、彼女たちの会話に加わった。 「白馬も服部も仕事なんだってね。」 「ええ、まあしょうがないわ。」 「ほんま、警察は大変やし。それに、探偵業のほうに 力いれすぎて、仕事がたまってるんらしいんよ。」 新一が営んでいる探偵業。 それを手伝いがてらでやっている服部だが、どうやら規律のない そちらのほうが性に合うようで、 本業の警察よりも探偵をやっている方が多いとか。 「あら、豆の競争終わったみたいよ。」 「ほんま?で、由希は勝ったんか?」 世間の奥様よろしく会話を進めていた彼女たちだったが、 哀の声で快斗ともども皆の視線はステージへと注がれる。 見れば、柏木と新一の2人が同数で一位のようだった。 「お母さん、ああいうの得意だったっけ?」 「そこまで器用じゃないけど、まあ新一の場合 あのおばさんに負けたくなかったんじゃないの?」 勝利した新一に由梨は意外な母親の一面を見て 少々驚いたようだったが、快斗は負けず嫌いな新一も 可愛いな〜と、思いながらクスクスと笑っていた。 そうこうしているうちに競技はなぜか 早食い競争、○×クイズ、なわとび、など、 どこが美女コンテストに関係あるんだと思わせる内容で 着々と進んでいく。そして、コンテストが開始されて 数十分たった後、ついに、恐怖の歌謡コンテストの番となった。 「黒羽君、大丈夫なの?」 “皆さんにそれぞれ歌って貰います”と司会者が告げる中、哀は 心底心配した顔に恐怖を交えながらとなりにいる快斗を見上げた。 それに快斗はお得意のウィンクを返すだけで、何も返事を返さない。 新一の歌がどれだけすさまじいかと言うことを知る数少ない人物の ひとりである哀は彼の自信たっぷりな表情に何か策があるんだ と思いつつも、不安を隠すことは出来なかった。 「いや〜、さすがは元芸能人。美しい美声ですね。 それでは、最後にただいまTOPの黒羽由希さんに歌って 貰いましょう。どうぞ。」 「黒羽君、あれが作戦だったの?」 「私から見て、悠斗って分かるんだけど。」 「大丈夫。ばれない、ばれない。」 下からチリチリとくる軽蔑の視線に、快斗は冷や汗をかきながら 引きつった表情でステージを見つめた。もちろん、誰にもばれては いないし、悠斗の歌はなかなかなのだが歌う曲がまずかった。 美女がラップ系を歌っている・・・。 「まあ、私としては悠斗が ああいうキャラだったとは驚きだけど。」 「悠斗は滅多に歌わないから紅里が知らなくても 無理はないわ。でも、悠斗けっこう自室じゃ、 こういう系統の歌の練習してるのよ。」 がんがん響く音楽の中、発覚した黒羽家一の優等生?の秘密。 だが、会場はそれを不思議に思わずに一緒にノリノリで 体を動かしているからこれも又驚きであろう。 まさか、彼が最も自信ある歌がこれだったとは、 当の両親も知らなかったからお笑いだ。 「・・・いや〜、なかなかインパクトが強かったですね。 では、そろそろ最終審査にうつりたいと思います。 ですが、その前に、皆さんには隠していたことがひとつ!!」 会場に出場者全員が集合して、会場の熱気がようやくおさまった頃、 司会者が急に予定にはない言葉を喋り始めた。 どうやら、学校が緊急に提案した最後の競技があるらしい。 ざわざわと騒ぎ出す会場に司会者の声が響く。 「ここで、ボーナスポイント!! 皆様の旦那様との愛情の深さをここで示して貰います。 なんと、それで一位の方には5ポイント加えられます。」 司会者の言葉に、会場の後ろにいた女性軍は確信した。 これで、由希の優勝は決まったも同然だと・・・・。 |