当時の俺は、初舞台の場所がどこかなんて分からなかった。 けど、マジシャンとして舞台を開けることが決まった時、 そこが再会の場所なんだって思ったんだ。 手の大きさは同じくらいかな。 身長は・・多分俺のほうが高いから、案外拗ねたりして。 なぁ、生きてるよな。新一。 〜二十歳の約束・後編〜 青子たちから分かれた快斗は1人野外ステージに向かっていた。 こんな雪の日に、それも何も行われていないステージを指定した快斗に タクシーの運転手は不思議そうに首を傾げる。 日にちは決めたけど、時間を指定したわけではない。 けれど、初舞台の開始時間は今でも覚えているから。 携帯に示された時間を見て、まだまだ余裕だと安堵する。 こんな寒い中、病気の彼を待たせるわけにはいかないのだ。 「この携帯より古い型だったよなぁ。」 新一の言ったとおり、変わったのはパソコンと携帯電話くらい。 あとは世の中の状態が不安定になってきたってことだろうか。 「お客さん、本当にここで?」 「はい、待ち合わせをしてるんですよ。」 「しかし雪の日にこんなとことは・・。」 「はは。でも俺にとっては思い出の場所なんで。」 「なるほど。そりゃ、ロマンチックだ。」 納得言った顔の運転手にお金を渡して快斗は外へと出る。 初舞台の日。空には夏の星座が輝いていた。 今はその代わりに、カシオペアや大犬座などといった冬の星座が綺麗に見える。 快斗は階段式で草の生えた席を進み、舞台上に立った。 見渡す限り暗く、今のところ客席に人は居ない。 自分の初舞台も、わずかな人しかおらず、こんな風にがらんとしていた。 けれど約束があったから。今日までやってこれたのだ。 「スリー、ツー、ワン・・・ゼロ!」 時間になり快斗は深々とお辞儀をする。 「 Ladies and Gentleman!It's show time!」 新一がいつ来てくれるかは分からない。 来てくれるかも分からないけど・・・。 快斗は夢中でショーを始めた。 あの初舞台のときのように。 「では、名残惜しいですが最後のショーとなりました。 今日は遠路はるばる来ていただいた皆様に感謝の気持ちを込めて 最高の贈り物をしたいと思います。空に輝く星を、皆様に・・・。」 そこで快斗の言葉も思考も止まる。 始まって30分。誰もいなかったはずの席に、人影があった。 暗くてよく見えないけれど、それが誰なのか快斗には分かる。 「空に輝く星を、新一に。」 弾く指の音が、澄んだ空気によく響いていた。 ************* 再会できたら、言おうと思ってたんだ。 初恋は実らないとか言うけど、それって嘘だよな。 だって 「星って・・指輪?」 「そ。今日の日のためにね。」 この会場では寒いからと、快斗は新一を連れて近くの喫茶店に来ていた。 場所が場所だけに人も少ないが、マスターと快斗は顔なじみのようで 奥の眺めのいい席に通してもらう。 快斗いわく、初舞台で緊張していた時、ここでマスターに励まされたとかでそれ以来の常連なのだとか。 最後のマジックで渡された袋を開けた新一は唖然と快斗を見つめる。 まさか指輪・・とは。 「新一っていつから居たの?」 「え?ああ。最初から。」 「マジ!?」 指輪を興味深く眺めている新一に、反応それだけ?と思いつつ とりあえず気になっていたことを尋ねる。 そしてその返答に驚いた快斗は身を乗り出し、軽くテーブルを揺らした。 「だって俺、前の初舞台の時も、こっそり見てたからさ。」 「あのとき居たんだ・・。」 「ああ。周りに迷惑しかかけられない自分が嫌で。死のうって思ってた。 そしたらたまたま無料のマジックショーがあってて。 おまえのマジックをみたら、さ。元気をもらえたんだ。死ぬのが馬鹿馬鹿しいって。」 新一の手の中で動いていた指輪が、新一の指に納まる。 新一はどこの指のサイズか確かめるように、親指から順番に差し込んでみていた。 「それって、15年前に言ってたこと?」 「そ。2度助けられたって。俺にとっては3年前だけどな。って、薬指かよ。」 ぴったりはまった指に新一は苦笑を漏らす。 できれば左手にお願いしますと快斗は内心で思った。 「新一。それで、病気は?」 「おかげさまですっかり。本当にあのときはありがとな。」 新一の手が、あの時と同じように快斗の手を包む。 優しく暖かな彼の手は、あの時と寸分の違いも無かった。 「おまえこそあんな寒いとこで長々とマジックして、大丈夫なのか?」 「俺って集中力すごいから。」 「知ってる。」 「ときどき、周りが見えなくなっちゃうんだ。」 「あの時は肝を冷やしたぞ。」 「だからさ・・・。」 「俺が傍に居て、名前を呼んでやるよ。」 これは夢なのだろうかと快斗は思う。 ずっと今日の約束を信じて、再会したら伝えようと思っていた言葉を新一から逆に言われるなんて。と。 そんなこんなで固まってしまって言葉もでない快斗をクスクスと笑い 新一は快斗の手を離すと指輪を左手の薬指に付け替えた。 「快斗。これからよろしくな。」 「うん。俺こそ。」 出会いは時間を越えたものだったけれど。 彼らの時は再び交じり合う。 これからは同じ時を刻んでいくために。 END |