乾燥してもなお、色香を失うことのない永久花ような愛をここに誓って 〜永久花〜 「やっぱりこっちじゃない?」 「う〜ん、私的にはこれなんだけど。」 「新ちゃんにはやっぱり純白よね〜。」 「お色直しは、和服かしら。」 新一はリビングから聞こえてくる声に、軽いめまいを覚えた。 蘭に園子、そして母親の有希子と哀の真剣に悩む声。 自分が探偵でなくても、この会話を聞いただけで 彼女たちが部屋で何をしているのか簡単に予想できる。 そう、来月、ハワイで行われる結婚式の衣装決めなのだ。 結婚式を行うことが決まったのは3年前のホワイトデー。 その日のうちに母親に連絡したら、挙式は絶対にハワイでしろと返事が返ってきた。 理由は日本だとマスコミだのなんだの大騒ぎになるからだとか。 だがハワイでもそう変わりはないんじゃないか? その時新一はそう思ったが、特にこだわりなど無かったのでOKしたのだった。 快斗にその話をしたら、簡単に承諾されて場所はハワイの教会に決定。 そしてあれからあっといまに数年が経ち、 忙しくてなかなか話の進まなかった結婚式の具体的な計画も 結婚式まで1ヶ月と迫った数日前から本格的に決めはじめているのだ。 +++++++++++++++ 「あら、当人のご登場よ。」 「紅子も来ていたのか・・・。」 窓辺でアイスコーヒーを飲みながら、紅子はニコリと微笑む。 それはまるで、新一がいやがっているのを楽しむような笑み。 新一は彼女を見ながら、やっぱり灰原と同類の人種だと思わずにはいられなかった。 部屋に広がるのはカタログの山。 いったいどこからかき集めてきたのであろうかと思うほど 小物からウエディングドレスまでその種類は幅広い。 「さっそくなんだけど、新一。」 「服装は全部、快斗に任せてある。」 駆け寄ってきた蘭に新一がそう気だるげに返事を返せば、 園子と有希子、そして蘭が甲高い声を上げる。 「もう、新ちゃんったら。」 「相変わらずラブラブよね〜。」 「分かったわ、新一。ドレスは黒羽君に聞くわね。」 なぜ、そんなに興奮するのか新一は分からなかったが、 とりあえず面倒な衣装選びにつきあわなくてすむと分かると、 そのままリビングを後にした。 +++++++++++++++ 「おはよう、お母さん。」 「あれ、快斗達は?」 朝食を取るためにキッチンへ入った新一は、 一人で皿を片づける由梨の姿に小首を傾げた。 快斗や雅斗達もここにいると思ったのに。 由梨はそれに軽く肩をすくめて、外へと視線を向ける。 「優作さんと一緒に、結婚式のプランを決めに行ったみたい。 ゴンドラとかあの勢いだと使いそうよ。」 「冗談だろ。」 由梨は今朝、騒いで出ていった4人を想像して新一の問いかけに軽く首を振る。 あの様子で地味婚など想像できない。 きっと、世界に類を見ない結婚式になることは確実だ。 「で、悠斗は?」 「補習。授業、さぼりすぎたからね。 このままじゃ、夏休みの結婚式に行けないからがんばってるのよ。」 悠斗はこの数年で、目暮から依頼されるほどの探偵へと成長していた。 彼に会うたびに、“若い頃の君を見ているようだよ”と最近はよく言われる。 まぁ、そのお陰で、授業日数はやばいところまで来ているのだが。 由梨の言葉に、新一は先日、 悠斗の担任からかかってきた電話を思い出して苦笑を漏らした。 やまのような補習に、きっと今頃は居眠りでもしているのかも知れない。 「皿の片づけ、ありがとな。由梨。」 「このくらいするわよ。私、もう高校2年よ?」 そう言って微笑んだ由梨は、立派な一人の女性だ。 それほど月日が経過したのだろう。 あまりにも、事件ばかりの日々で結婚式の予定も実際の日取りから 3年も過ぎてしまったのだから。 世界屈指のマジシャン、黒羽快斗が既婚者でさらに子どもが4人いると示すのが、 今回の結婚式のもう一つの目的でもある。 それに、今、実力、人気共に鰻登りの雅斗が黒羽快斗の息子だと分かれば、 世界規模のニュースになることは間違いない。 この2年で、雅斗は彼自身の実力を認められた。 それは、同時に全てを公表しても良い時期に入ったということを提示していた。 「しかし、俺がこの年でウエディングドレスって無理ないか?」 「それは問題ない。絶対にね。」 由梨は自信を持ってそうきっぱりと言い放つと、軽い朝食を新一の前に並べた。 みずみずしいフルーツサラダとコーンフレーク。 夏ばて気味の新一には嬉しい朝食メニューだ。 「ありがとう。由梨。」 もう一度、御礼を言って、その食事に口を付ける。 夏の盛りを告げるセミの声が部屋の外で響いていた。 あとがき のんびりと開始〜。ここからいろいろとアクシデント多発の予定です。 おそらく、半年ほど連載が続くと思われますので、お付き合い下さると嬉しいです。 |