蘭達がうるさくて家にいられない。 新一がそう思って、外を歩いていたのは、ちょうどお昼時。 にわか雨の止んだ後で蒸し暑い路地だったが、図書館へ行けば涼もとれるだろう。 久々に向かう図書館に新一の足取りは軽い。 〜永久花・1〜 しばらくして見えてきた建物に駆け込んで、軽く息をつく。 首元の汗が冷房によってじんわりと冷えていくのが分かった。 新一はとりあえず洋書を手に取ると人の少ない場所を選んで、席につく。 夏休みの昼時だったが、 子どもは少なくパラパラと紙をめくる音だけが図書館全体の空間を満たしている。 いつも読むミステリーとは違う、ヨーロッパの洋書は、とある戦争にまつわる短編を綴った物語集。 小さな内戦から、革命などの中に生きる人々が儚げに文書化されていた。 「あっちー。」 「おい、あっちに座ろうぜ。」 「銀治(ぎんじ)も来いよ。」 それからどのくらいの時間が経過したのだろうか。 新一は騒がしい声に、洋書から視線を外して、ふと顔を上げた。 そして、新一の思考は凍り付く。 「ジン・・・。」 白い半袖シャツを着た集団の中に、見知った金色の髪が鮮やかだった。 「銀治、知り合いか?」 「超、美人じゃん。紹介しろよ。」 「先に行ってろ。」 短くなった金色の髪。 知っているときよりは随分と若返ったあの男が一歩一歩自分へと近づく。 「久しぶりだな。工藤新一。」 「随分と変わったな。ジン。」 冷ややかな視線を交えれば、組織を潰したあの日のことが鮮明に思い出される。 「脱走したとは聞いたが、まさかアポトキシンを服用したとは思わなかった。」 新一は洋書をテーブルの上へと置き、本棚にもたれかかっているジンを見る。 ジンは新一の言葉に軽くその口元をゆがめた。 「おまえらと同じような事をしただけだ。 小学生からどうにかここまで成長できたし・・・そろそろ再建しようと考えている。」 「俺が見逃すとでも思うのか。」 「平和ボケしたお前に負ける気はない。」 ジンはゆっくりともたれかけていた体を起こすと、意味ありげな言葉を残して去っていく。 新一はただ、足先までの力だが抜けていくのを感じていた。 姿は変わっていてもなお、衰えることのない冷ややかな殺気。 感情をうつさない瞳。 「ジン・・・。」 お前はどうして俺の前に現れた? 友人と会話する彼に一度視線を向け、新一は本を棚に返すと図書館を後にした。 「・・ち、新一。」 「あっ?」 「どうかしたのか。顔色悪いけど。」 リビングでテレビを見ていた快斗は、隣でお気に入りの作家の小説を読んでいるはずなのに、 ページが進んでいない新一に疑問を持ち、声をかけた。 見ればその顔はひどく蒼い。 「何かあった?」 視線を外して答えない新一に快斗は言葉を続ける。 新一は正直迷っていた。 今日、あの男に出会ったのを、快斗や哀に言うべきなのかを。 哀はいろいろと、ジンにはトラウマを持っているし、快斗にもできれば嫌な思いをさせたくない。 それに結婚式前でもあるので事を穏便に済ませたいというのが新一の考えだった。 「GIN。」 「つっ。」 「買ってきたけど。飲む?」 ニヤリと笑う快斗の顔はしてやったりと言う感じ。 思いっきりその単語に動揺してしまう自分に新一はため息さえでない。 「新一もジンに会ったんだ。」 「“も”って・・・快斗もか?」 驚いたように見つめる新一に快斗は苦笑して軽く首を振る。 「俺じゃなくて、哀ちゃんが。新一には黙っていてくれって頼まれた。」 「灰原が?」 「まぁ、ジンには気づかれなったらしいけどね。」 唖然とした新一の様子をうかがいながら快斗はなおも話を続ける。 「本当は、俺一人でどうにかしようと思ったんだけど・・。」 快斗の言葉の途中で新一は彼の胸ぐらを掴んだ。 馬鹿なことを言うな。絶対にそんなことは許さない。 睨み付ける視線がその言葉を何度も繰り返す。 そんな、興奮気味の新一をなだめて快斗は立ち上がり、そして優雅に一礼をした。 それは、マジシャンでも黒羽快斗でもない独特の雰囲気。 窓辺で出会ったあの夜と同じ姿。 (参照Moon light) 「もう一度、共に戦いませんか?名探偵。」 「・・・生きる覚悟はあるんだろうな。怪盗KID。」 「もちろんですよ。」 再びあの戦いへと戻る時が来た。 でも、それはジンが脱走したと聞いたときから予想していたこと。 さぁ、ラストゲームをはじめよう あとがき 結婚式編じゃなかったのか?そんなクレームが聞こえてきそうです。 もちろん、結婚式がメインですが、すこしだけスパイスに“ジン”を登場させてみました。 あんまり、組織については触れていませんし。 まぁ、サブみたいなものですから、お気になさらず。 |
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