「「私たちは夫婦として、順境にあっても逆境にあっても、

病気の時も健康の時も、生涯互いに愛と忠実を尽くすことを誓います。」」

 

 

2人で声を揃えて告げられた言葉にジェームズはニコリと微笑み、

ベストマンと呼ばれる男にチラリと視線を向けた。

それに答えるように、ベストマンは指輪をジェームズに渡す。

その間、新一はブーケと手袋を、教えられたとおりメイドオブオナーに預けた。

 

 

〜永久花・45〜

 

 

 

知識として知っていた結婚式も、

実際にやっているとどうにも不思議な感じだと新一は思う。

 

特にバージンロードを眠ったまま新郎に抱えられてやってきた新婦など

自分くらいではないだろうか・・とも。

 

そんなことをぼんやり考えていると、スッと横から手を取られた。

 

「新一、たのむから式に集中しようね。」

 

小声で新一にだけ聞こえるように告げ、快斗は指輪を彼の白魚のような指に通す。

2人の父親達が頼んだ店で同じように頼んだ指輪は素晴らしいできで。

そして、今度は新一がジェームズから指輪を受け取り、同じように快斗の指に通した。

 

シンプルでそれでいて品のある指輪を眺めながら、どこか見覚えがあると新一は感じる。

そう。快斗の母からお守りにと借りた指輪だ。

 

「新一・・・。」

 

また、トリップしている新一に困り顔の快斗をみてジェームズが苦笑を漏らす。

彼はひとつ疑問を持つと、どうにもそっちに集中してしまうらしい。

もちろんそんなことは今日、参列している人々は熟知しているので、

皆は一様に穏やかな表情でそんな彼らを見守っていた。

 

その後、2人で証明書へ著名を行い、祭壇中央のキャンドルに火を灯す。

 

「では、最後に誓いのキスをお願いします。」

 

ジェームズの良く通る声が静かな教会全体に響いた。

わぁっと色めきたつ女性陣の顔に新一は本当にするのかと快斗を見上げる。

キスは頬でもOKなのだが、新一との結婚を誰よりも周囲に宣言したくて

たまらなかった快斗がそれで我慢できるはずも無く。

 

快斗は満面の笑みでそっとベールをあげた。

 

絡み合う双眼。

先ほどもキスで目覚めたはずなのだが、

あの時のキスとは180度違う感情に快斗は内心で苦笑を漏らす。

 

今まで幾度と無く交わしたキス。

そしてこれからもきっと交わしていくそれ。

 

けど、この1回はきっと何物にも比べられない。

 

 

「今度こそ永遠を誓うキスだね。」

「ああ。」

 

新一も快斗の言葉に観念したのかそっと目を閉じた。

 

 

 

そして、2人が長いキスを交わし、会場が大きなどよめきと拍手に包まれた瞬間・・・

 

 

ポンッ

 

小さな爆発音と煙とともに、祭壇から2人の姿は消えていた。

 

 

 

「は!?」

「き、消えた?」

 

変わりに残ったのは、快斗と新一からのメッセージが入ったカードで。

みなの手の中にひらひらと落ちてくる。

 

 

その内容に参列者は別の意味でさらにどよめきを増したが、

さすがは快斗と新一の知り合いともいえるだろう。

 

すぐにそれは呆れた笑いや、雑談へと変わっていった。

 

 

「もう!新ちゃんの披露宴の計画が流れちゃったわ。」

「そうですよ、新一にお色直しさせようって私も園子も張り切ってたのに。」

「新一君め。帰ってきたら覚えてなさいよ!」

 

カードに書かれていたのは、二人でこのまま新婚旅行に行くというもので。

 

「まったく、わが息子ながらやってくれるわ。」

 

快斗の母はいつのまにか手の中に返された指輪を眺め、再び指につけた。

今は亡き夫が残してくれた大切なそれ。

 

「盗一さん。快斗は最高の伴侶と幸せになったの。貴方もみててくれてるわよね。」

 

その呟きに、キラリと彼女の薬指に嵌められた指輪が光っていた。

 

 

 

「さすがは元怪盗。みなの心を奪っていきましたね。」

 

カードを指で弾き、白馬は清々しい笑顔を浮かべる。

それに隣で平次はげんなりとした表情を作った。

 

「白馬、くさいで・・・それ。おまけにまだKIDって疑ってるんかいな?」

「まぁ、ええやん。今日はめでたい日や。」

「遠山さんのいうとおりよ。探、くだらないことは言わないの。」

「くだらないって・・。分かりましたよ。」

 

紅子はうな垂れる旦那を後目に視線を前方へと移す。

そこにはブーケを持った哀が

どこか寂しさと充実感に似た表情を浮かべていた。

 

 

 

 

この計画を唯一知っていた哀は

自分だけに贈られたカードとブーケに苦笑を漏らす。

 

『灰原へ

 最後まで迷惑や心配をかけてごめん。そして本当にありがとう。

 おまえが居てくれたから、俺達家族はどうにかやってこれたんだと思う。

 これからは、自分の幸せのために生きてくれ。それが俺達の願いだ。そして・・・。』

 

 

「早くいい相手を見つけろって?余計なお世話よ。」

 

「哀姉は知っていたの?」

 

前の席から由梨は振り返ると、穏やかな表情の彼女に尋ねた。

哀は髪を耳にかけながら、微笑とともに軽く頷く。

 

「貴方達ももう1人立ちの時期でしょうしね。」

 

雅斗も由佳も悠斗も由梨も、今までの経験をもとに生きていける年齢だから。

 

 

「哀姉。私も旅に出る。

いろんな人にあっていろんな経験をして、自分だけの道を見つけるの。」

 

「ええ。由佳ならきっと見つけられるわ。」

 

「俺は父さんを越える。父さん達が世界のどこかで俺の名前を耳にできるように。」

「俺も母さんに負けない探偵になる。」

 

「雅斗、悠斗。楽しみにしてるわよ。」

 

「私は人を救える薬を作るから。それは不死不老じゃない、人として生きるための薬・・。」

 

「実験体が欲しい時は言ってね。由梨。」

 

本来なら両親が聞くべき子供達の誓いを変わりに聞きながら

哀はカードに追伸として書かれた言葉にもう一度視線を落とす。

 

『無責任かもしれないけれど、4人のことを隣から博士と見守っていてください。』

 

「本当に昔から無責任。いったいいつ、帰ってくるつもりなのかしら。」

「ワシが生きとるうちに帰ってきてくれればいいのぉ。」

「あら、博士なら大丈夫よ。それに案外すぐにフラッと戻ってくるかもよ。」

「優作君と有希子君も突然来るからの。はは、そうかもしれん。」

 

 

「お幸せに、工藤君、黒羽君。」

 

 

 

 

 

 

 

心地よい海風を浴びながら、オープンカーは颯爽と長い道を走っていた。

運転手はしばらくの休業宣言を出すことに決めた世界的マジシャン。

そして助手席に座るのは、元の性別に戻った名探偵。

 

それぞれ私服に戻っており、一見すれば、

年若い友人が一夏のバカンスを楽しんでいるようにも見えた。

 

「いい加減、髪も切るかなぁ。」

「えーーー!!」

「快斗、うるせぇ。てか、前を見ろ、前を。」

 

ゴムで髪をまとめながら新一は呆れたようにため息をつく。

 

「暑苦しいだろ、男なんだし。」

「けどさぁ、もったいない・・・。」

「ふ〜ん。やっぱ女のほうがいいわけ?」

 

渋る快斗にそう告げると、彼は慌てたように首を大きく振った。

それと同時にハンドルが若干左右にぶれ、新一はベシッと快斗の頭を叩く。

日頃は完璧なポーカーフェイスのくせに、どうしてこんな時は崩壊するのか。

 

もちろん気分としては呆れ半分、嬉しさ半分といったところだが。

 

 

「違う、俺は新一なら性別なんて関係無いっ。新一の全てを愛してるんだ!!」

「ばーろ。分かってるよ、んなこと。」

 

 

「ほんと?俺がどんだけ新ちゃんを愛してるか、本当に分かってる?」

「ああ。おまえこそ分かってるのか?」

 

「え?」

 

「俺がどれだけ快斗のことを愛してるのか。」

 

チュッと頬に感じた感触と、滅多に無い新一からの告白に快斗の手元が狂い

新婚旅行が大事故になりそうになったのは言うまでも無いだろう。

 

END

 

 

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