夜のとばりが俺を変える。 なんて、ちょっと気障っぽい台詞を吐きたくなるような時間帯。 まあ、実際に日頃の俺とは似てもにつかないような姿へと変わってはいるんだけど。 そんなことを考えながら、俺は守り神を見据えた。 満月は今夜もまた格別に輝いている。 |
◇2人のKID
VS 2代目平成のホームズ◇ 〜前編〜 |
「雅斗、準備はできたの?」 「あたりまえだろ。俺を誰だと思ってるんだ?由佳。」 「3代目、怪盗キッドでしょ?」 この世に生を受けて15年。 快斗の息子も又、快斗と同じ場所にたっていた。 ただ、付き人がもう随分と年をとって引退した寺井さんから妹の由佳へと変わっていたが。 目的は父とは違い、完全な義賊。簡単に言えば盗品の回収を行っているのだ。 それも、FBI直属の依頼で。 盗品と分かっていても、なかなかそれの証拠を見つけるのは難しい。 それなら盗んでしまった方がてっとりばやいというのが彼ら警察の言い分。 もちろんそんなことを知っているのはFBIとその他、雅斗の家族のみ。 日本警察も勿論知らない。 雅斗はそれを好んで引き受けた。 FBIにコネを作っておくのはきっと今後役立つだろうから。 「さて、そろそろ行くかな?」 「油断しないでよ。今日は服部葉平、それに白馬紅里も来ているんだから。」 「楽勝!!じゃっ、サポート頼むぜ。」 「あんまり頼りにしてないくせに。」 由佳がそう愚痴ったとき、3羽目の白きとりはもう空へと羽ばたいていた。 「キッドが現れたぞ!!」 1人の警備員の声で全ての者は空中を見上げた。 無駄のない仕草でその白き鳥は地上に降り立つ。 「父さんが捕まえられなかった気障な怪盗。わたしの手を持ってすればたやすいことだわ。」 「なにゆうてんねん。わいがあいつを捕まえるンや。 まあ、わいらが指示した警備配置なら、そう万全な状態ではこれへんやろけど。」 「これはこれは、若き探偵様方。お初にお目に掛かります。」 目標の物の前に立ちはだかる2人をみてキッドは先代と同じ口調で述べた。 ここまでの警備をどうやってくぐり抜けて来たのだろうか、 息の乱れ1つもしていない怪盗に2人は険しい表情となってしまう。 「まだまだ爪が甘いですよ。 あれで、わたくしを捕まえようなんてまさか思っていないですよね?」 「あたりまえや。自分のてーつこうて気障なこそ泥を捕まえるのは、わいの仕事やからな。」 「さあ、お縄に掛かりなさい。怪盗KID!!」 紅里の声と共に待機していた警察が飛び出してくる。 もちろん、全てを予想していたキッドは その警備員の数に動じることなく閃光弾を床に投げつけた。 一瞬にして強烈な光が部屋全体を包み込む。それと共に、彼も又姿を消していたのだった。 「「ただいま〜。」」 ズダダダダ 「雅斗、逃げろ!!」 「は?」 「いいから、お前もまだ死にたくないだろ?」 家に入った瞬間、快斗から肩を、がしりと掴まれた雅斗は何事かと思いながらも、 ゆっくりとした動作で器用に靴を脱ぐ。 「意味が分からないんだけど、父さん。 だいたい、俺にはむかえる敵なんてどこにもいな・・・・。」 そして、靴をそろえて顔を上げた瞬間、 今まで見たこともない顔をした由梨が立っていた。 「一人居るだろ・・・。雅斗。」 「その通りです。」 おだやかな表情ではあるが、腕を組んで口元が少し引きつっているのを 雅斗が見落とすはずもない。 間違いなく由梨は怒っている。それも猛烈に。 「雅斗兄さん。お帰りなさい。話があるからお父さんと一緒に来てくれない?」 「はい。」 「お父さんも。」 「はい・・・。」 ニコリと微笑んで述べる由梨に逆らえるはずもなく2人は内心嫌だと思いながらも 即答で返事を返した。それが、世間を騒がすゲームの始まりになるとは、 おそらく2人は予想もしていなかったであろう。 「これがなんだか、分かるよね?」 左から悠斗、雅斗、快斗の順番で横長のソファーに腰掛ける3人の前に出されたのは、 一枚のフロッピーディスクと粉々になった試験管、そして灰になったレポートだった。 「悠斗、フロッピーディスクにコーヒーかけたよね?」 「あれは、事故で・・・。」 「かけたよね?」 バキッ そんな音と共に砕けるフロッピーディスク。それに悠斗はこくりと頷いた。 「雅斗兄さん。私が1ヶ月かかって作った新薬の入ったこの試験管、落としたよね?」 「はい。落としました。」 「最後にお父さん。私の明日提出のレポート、今日、落ち葉と一緒に燃やしたよね?」 「はい。燃やしました。」 前からこのようなことは時々起こっていたし、由梨も多少は怒るものの、 こんなおだやかな表情で言うことはなかった。 つまり、簡単に言うと今回は偶然にも3人の過失が度々重なり、 おまけにその内容がかなり悲惨だったために、ついに由梨はキレたのだ。 これから、どんな恐ろしい罰がくだるのだろうか? 男3人、プライドも何も無い状態で、ジッと由梨を見た。 どうか、軽い刑ですみますようにと、願いを込めて。 由梨はそんな3人を見ながら、クスっと冷笑を浮かべる。 こんな表情は本当に哀にそっくりだと新一はその様子を見ながら思っていた。 だが、悠斗、雅斗、快斗の3人はそんなことを思う暇もなくただ生唾を飲むだけ。 そして、由梨がごそごそと何かを学校の鞄から探し出す。 そこから出てくるのは、どす黒い色をした新薬か? それとも拳銃の類であろうかと由梨以外の家族全員が視線を向ける。 そして、彼女が手にした物は・・・・ 「携帯?誰に電話するんだ。」 予想外の物が出てきて、思わずそう呟いてしまった新一に由梨はニコリと楽しそうに笑った。例えるならまるで、いたずらをするときの子どものような表情だ。 由梨の白い指が小刻みに動き、その番号を打ち終わる。 「あ、目暮警部ですか?由梨ですけど。今度のKIDの捜査に 悠斗を加えてくれるよう、中森警部に頼んでいただけたでしょうか? ・・・はい。あ、いいんですか。すみません、お手数かけて。 ありがとうございます。きっと悠斗も喜びます。はい、失礼します。」 ピッと携帯を切った瞬間、 悠斗が思いっきり席から立ち上がって由梨に駆け寄った。 「どういうことだよ、由梨。」 「3人のうち2人だけに新薬を飲んで欲しいの。今回はそれで許してあげるわ。」 「で、その2人はどうやって・・・・・。まさか・・・。」 悠斗はひとつ思い浮かんだ答えに顔を蒼く染めていく。 血の気が引くとはこういうことなのだろうか? 「悠斗は宝石を守り通せば勝ち。お父さんと雅斗兄さんは宝石を盗み出せれば勝ちよ。 勝者は一人。それ以外は、罰ゲームね。」 「怪盗KIDが2人か・・・・。おもしろそうじゃない。きっとニュースになるね。」 遠目で聞いていた由佳も由梨の提案にその時の様子を予想して楽しそうに声を弾ませた。 新一も又、なかなか面白くなりそうな一戦に自然と瞳に好奇心の色が浮かぶ。 「悠斗の探偵としての意地と、現KIDと元KIDの怪盗としての意地のぶつかり合いか。 楽しそうじゃんか。その日は是非ともあけとかないといけねーな。」 「じゃあ、そういうことだから。がんばってね。」 由梨はスッと席から離れると、足取りも軽く自室へと戻っていった。 「ねえ、お母さん。きっと、悠斗はあれを用意するわよね。」 「まあ、2人に共通して苦手な物だからな。しかし、楽しくなりそうだぜ。本当に。」 由梨が去ったあと、あっという間にそれぞれの部屋に散っていった3人を見送り 新一と由佳は食卓で暖かい紅茶を飲みながら、クスクスと笑った。 決戦の日は一週間後。 史上初の対決が今まさに始まろうとしていた。 ◇あとがき◇ 私はいったい何を考えているのだろう。 白麗祭も終わってないのに・・・。 次回は必ず白麗祭を書きますから。 この続きを読みたいと思っている方(いないでしょうが) しばらく、お待ち下さいね。 |