空を冬独特の灰色の雲が埋め尽くす。 今にも雪の降りそうな空模様の中、雅斗は一点を目指して走っていた。 |
◇2人のKID
VS 2代目平成のホームズ◇ 〜中編〜 |
「博士ーーー。」 「お〜。雅斗君。待っとったぞ。」 学校が終わって速効で博士の家の前まで走ってくると 雅斗はぶんぶんとちぎれんばかりに手を振った。 それを、視線に止めた博士はトタバタと家の中からでてくる。 「頼んでいた、あれ。できた?」 「おう、ばっちりじゃ。」 雅斗を家へと招き入れながら、博士は自慢げにバンバンと自分の胸を叩いた。 もう、70をとっくに過ぎているというのに哀の努力のお陰か博士は健康そのものだ。 「あら、雅斗じゃない。」 「哀ちゃん。お邪魔してまっす!」 ラボに頼んで置いた品物を取りにいった博士をうきうきと 待っている雅斗を見つけた哀は紅茶を片手に彼に話しかける。 「工藤君から聞いたわよ、やっかいなことになってるみたいね。」 「まあ、今回は由梨を怒らせたからしかたないよ。でも、すっげーわくわくしてる。 父さんと悠斗の直接対決なんて初めてだから。」 そう語る雅斗の瞳に不安などまったく無くて、 哀はだんだんと父親に似ていくそんな雅斗を見ながらクスリと笑う。 快斗が新一(正確にはコナン)と対決する日も彼はそんな様子だった気がする。 「雅斗君、どうじゃ!!」 「おーーー、すっげーじゃん。さすが天才博士。」 「いやいや。」 博士が自信を持って差し出したのは、ジェットエンジンの付いた背中に背負う物体。 一昔前まで、某有名人が宝くじロトのCMで背中にからっていたあれだ。 「絶対、悠斗は俺と父さんの弱点をついてくる。 けど、これさえあれば・・・。ありがと!!博士。」 雅斗はそれをポンッと一瞬の早業でどこかにしまうと、 来たときと同じように大きく手を振りながら帰っていった。 「雅斗がKIDを始めてもうすぐ1年。良い機会かもね。」 「そうじゃな。油断が出やすい時期じゃ。」 「それにしても、あんなので大丈夫なの博士。悠斗だって予想してるんじゃない?」 「さあ。まあ、どうにかなるじゃろ。」 開発者がそんな不安げな言葉を発しているなどつゆ知らず、 雅斗は博士に作ってもらった物体を眺めながら今回の勝利を確信していた。 「いよいよ、明日だな。快斗。」 「まあね。」 仕事を終えていつものようにベットに入ってきた 快斗を見ながら新一は明日のことを考えていた。 組織を潰してからKIDを廃業した快斗。その意志を受け継いだ息子の雅斗。 そして、あの頃の自分と同じようにその怪盗に立ち向かう悠斗。 今回の話をもちかけたのは由梨であったが新一はこんな日がいつかくると思っていた。 親子同士が全力で己のプライドと意地をかける。 それも一流の力を全て・・・だしきって。 「新一。俺の勝利の瞬間を見ててね。」 「勝つ自信はあるのか?悠斗は俺の推理力にほぼ近い状態まで成長しているし、 雅斗は現役のKIDだ。」 「まだまだ、息子に負けるのは早いよ。」 抱きしめられた状態では新一の場所から快斗の表情を図り知ることは出来なかった。 それでも、強く抱きしめるその手から、好奇がしみ出ているなと新一は感じる。 「楽しみだな。」 「ああ。」 不安よりもなによりも心を埋め尽くすのは好奇心。 新一は高鳴る快斗の心音を耳元で感じながらゆっくりと瞳を閉じた。 「悠斗、なんで今日はおまえがおるんや。」 「私たちでは役不足とでも言いたいのかしら?」 「うっせーな。おまえらの力を持ってしても、捕まえられない怪盗に興味がわいただけだ。」 横で犬のようにギャンギャンと騒ぐ葉平、それにキツイ視線を向けてくる紅里に うんざりとしながらも、悠斗はとりあえず最終確認を行い始めた。 場所は、屋外のスケート場。 そして、宝石はどこかというと・・・・。 「氷の中とは、考えましたね。悠斗君。」 「・・・・探おじさん。」 「どうしてここにいるのか?って顔をしていますね。 僕も久しぶりに参戦したくなったんです。」 長いコートに身を包んだおなじみの格好をした探は スケートリンクの周りを悠斗と共に歩いた。 悠斗はそんな彼を見上げながら、居心地の悪さを感じる。 どうも、彼は昔から苦手なのだ。 「悠斗君。お父さんを捕まえる気ですか?」 何かを言い出そうとしていた探の様子は先程から感じていたが、 まさかこんな話とは悠斗も予想していなかったようで、 一瞬ポーカーフェイスが崩れそうになったのを慌てて整える。 「意味がよく分からないんですが。」 「ショックを受けないでほしいけど、 僕のデーターでは君の父親が怪盗KIDだと出ているのだよ。」 「もし、そうだとして。なぜ、捕まえなかったのですか?」 「証拠が不十分ということと、幸せな家庭を持つ彼を見たらどうしても それ以上追求することが出来なくなってね。だから、今日は君を止めに来たんだ。」 捕まえられなかったのは探自信の力不足のはずなのに、 そんな非難の眼差しを気づかれぬように探に向ける。 「父は関係ありません。だから俺は今日の物取りに参戦します。」 ふうっと深呼吸をして悠斗はきっぱりと探にそう告げた。 「「いったいどういうつもりなんだ?悠斗の奴。」」 違う場所で現場をそれぞれ見下ろしながら、快斗と雅斗は 同じ台詞を同じ時刻に呟いていた。 その原因は、今朝、悠斗からそれぞれに渡されたカード。 それを見るのは予告時間の10分前とまで指定を付けられて。 『KIDの守り神に最も近き場所に祝福の宝は存在す』 そこに書かれていたのは、暗号でも何でもない言葉。 わざわざ、宝の場所を明記した彼の意図が快斗にも雅斗にも理解できないでいた。 「KIDの守り神は月だよな?」 「それで。一番近い場所と言ったら、月が水面に映る湖とかだな。」 (くどいようだが、2人がいる場所は全く別々のところである。) 「「・・唯一天然スケートリンクになってるあの湖だな。」」 そう結論を出したのは全くの同時刻。 そして、彼らはその場に行くべく、ハングライダーを広げるのだった。 |