◇ラッピングと共に気持ちを込めて◇ 前編 快斗に自分でラッピングした何かを贈りたい。 そう思ったきっかけは、少年探偵団の手伝いをしていたときだった。 「新一さん。ほんとに手伝わせてごめんなさい。」 「いいのよ、吉田さん。どうせ、暇をもてあましているだけだから。」 「灰原。お前が言うなよ。」 机の上に広がるのは、クリスマス風の包装紙。 赤地を主としたものと青地を主としたものとがあり、 それぞれにトナカイやツリーがちりばめられている。 どうやら、来週学校でプレゼント交換があるらしく、 そのラッピングを先生から頼まれたらしい。 「一年生へのプレゼントだからがんばろうね。光彦君、元太君、哀ちゃん。」 様々なおもちゃを眺めながら歩美が元気良くそう言うと、 元太も光彦も顔を紅くしながら元気良く返事を返した。 「しかし、凄い量だな。」 「ほんと、何でお店にしてもらわなかったのかしら?」 「分かってないな〜。新一さんも哀ちゃんも。 ひとつひとつ手で包むことによって一緒に気持ちも包み込めるんだよ。」 そう力説して歩美はおぼつかない手つきで一生懸命プレゼントを包んでいく。 そう、この言葉が新一の脳裏にしっかりと残ったのだ。 「一緒に気持ちを包み込む・・・か。」 日頃から感情を表に出すことを苦手とする新一にとって それはとても有効な表現法じゃないかと感じていた。 もちろん、気づいてはもらえないかも知れないけれど、 それでも、気持ちを包み込んだという自己満足にはなるはずだ。 恋人のあいつに、たまにはそんなことをしてもいいかなとも思う。 「思いついたら吉日だ。」 片づけたはずなのに、まだ残っている包装紙の切れ端を ゴミ箱に捨てて、新一は街へと繰り出す。 もちろん、快斗から去年のクリスマスに貰ったマフラーをつけて。 「しかし、何を贈ろう。」 思いついたのは良い。ラッピングに使う包装紙も 母の有希子が趣味で集めていたので買う必要はない。 しかし、問題は贈る物にあった。 クリスマスまであと残すところ2日だ。あまり迷っている暇もない。 「やっぱ、喜んでもらえる物が良いし。」 去年は悩みに悩んで、結局何も買えなかった気がする。 そして、当日はそれを素直に話して謝って・・・・。 『新一といることが俺にとっては最高のクリスマスプレゼントだよ。』 相変わらず気障な台詞を吐くあいつに、 “俺だけがプレゼント貰って悪い”と言ったら、 あいつはまた言葉を続けて俺を抱きしめたんだっけ? 『ならさ、これからずっと、クリスマスは一緒に過ごしてくれる?』 「って、女々しいじゃねーか。思い出に浸るなんて。」 ブルブルと頭をふって、少し赤らめた頬をかるく叩くと新一はトコトコと歩く。 人混みが苦手なせいか、無意識のうちに裏路地へと足は向いてた。 そして、そこで見つけたのはなんともアンティークなお店。 赤煉瓦の壁に、かわいらしい煙突がある。 「歩美ちゃんとかこういうの好きそうだよな。」 今度、元太や光彦に教えてやるかと思いながら新一はその店の扉をくぐった。 店の中は質の良い賞品だけを集めた雑貨でいっぱいだった。 何処か懐かしさを感じる物から、暖かさを感じる物まで。 あまりにも静かな空間を持つ店。 店主は居ないのかと見渡せば、会計の場所で老人が寝息を立てている。 あぶねーんじゃねーか? そう思いながらも新一はとりあえずプレゼントになりそうな物を物色する。 ブリキのおもちゃに、音の鳴るツリー。 木製の鉛筆削りに、シンプルなネックレス。 どれも、新一の趣味に合うものだったがこれというものはなかなか見つからない。 ここもないか そう思って会計のそばにあるガラスケースの中を覗いた。 「これ、いいじゃねーか。すみません。」 「・・・う〜ん。」 「すみません。」 「はっ!!いかん、又寝むっとった。」 バッと顔を上げた老人はサンタクロースみたいにひげを生やしていた。 案外本当にサンタかも知れない。 新一は眼鏡をかけ直している老人を見て内心、がらにもなくそう思っていた。 「で、何かね?」 「ここにある、万年筆が欲しいんですけど。」 新一はそう言いながらガラスケースの中の2本セットになっている万年筆を指で指し示した。 老人はその言葉に合点がいったようで“ああ、これか”と呟くとそれを丁寧に取り出す。 「若いのにいい目をしてるね。これは、なかなかの物だよ。」 「ええ、一生使える物が欲しいと思って。」 「それなら、筆跡に合わせて作ってもらう物じゃないかい?」 「いいえ。勘ですが、これは合うと思うんです。」 大切なときには必ず必要とされる万年筆。 長く使っていく場合、完全なオーダーメイドで作るのが一般的に基本だ。 それでも、新一は何故かこれが快斗にも自分にもしっくりくるような気がした。 「私はね万年筆は人を選ぶと思っている。 万年筆を自分に合わせて作るんじゃない、 自分に合う万年筆を時間をかけて捜すんだ。」 老人はそう淡々と述べると、ことりとセットの万年筆を机の上に置く。 黒と蒼の下地色をしたそれぞれの万円筆の 金と銀のフック(服などにかけるカギの様な部分)には 小さなクローバー型の宝石がキラリと輝いていた。 本当に気づかない程度の細工。だが、それは高度な技術であることは間違いない。 快斗に贈ろうと思う黒地の物は輝く金のフックだった。 そこに付いているのは蒼いクローバーだ。 黒は闇。金は月。群青に近い蒼のクローバーはあいつ。 闇をさっそうと駆けるキッドにぴったりのそれ。 「ラッピングはしなくていいね。」 「はい。」 渡された万年筆を持って新一は満足した面もちで店を出たのだった。 早速家に帰って、新一は気持ちを込めて上品な包装紙でそれをくるむ。 最後に赤のリボンでキュッと締めると完成だ。 「これでよしっと。」 綺麗にラッピングされたプレゼントを新一は満足げに眺めて、 机の中にそっと入れるのだった。 それを再び見るのはクリスマスイブの日だ。 |