Stage8 時はそれからさかのぼって、1時間前。 彼らの息子達も又事件に遭遇していたと言うよりは 事件を起こす準備をしていた。 由佳と雅斗はパーティ会場に入り客から情報を聞き出し、 由梨と悠斗は中心部に当たるコンピュータを探り出し、そこを占拠する。 幼い頃から両親にたたき込まれた技術や知識は膨大な量で、 このようなことをするのは中学生と言えどもたやすいことだった。 [ねぇ、素敵な紳士様♪] 由佳は一人のオーストリア人とゆったりと踊りながら 彼の首に腕を回すと耳元でそっと呟いた。 [なんですか?] 紳士風の男はその甘いマスクでにっこりと微笑む。 普通の女ならそれで落ちてしまいそうだが、美形に囲まれて育った由佳に それは通じるはずもなく、同様1つせず話を進めた。 [今夜、私もオークションに参加するのですが。貴方もなんでしょう?] [ええ、良くお知りで。] [顔に出てますもの。] 本当は前日に集めた資料でオークションの参加者と そのカモフラージュするためのパーティの客の顔と名は 全てその優秀な頭脳におさめられているから分かったのだが、 男はそんなことなど知るはずもない。 [天使の涙。それが私の一番欲しい物] [その宝石も貴女にはかないませんよ。] [みたことがあるんですの?] [ええ。僕の部屋にありますが、来ませんか?5階なんですけど。] 見え透いた部屋に誘う口実。 だが持っていることは本当らしいと判断した由佳は クスクスと笑いながら耳元で甘く呟いた。 [本当に持っているのなら、全ての財産と私で買い取ります。] [僕には貴女だけで充分お釣りがきますよ。] そう言って2人は人知れず会場を後にする。 ・・・・・・・・・・ 「由梨。姉さんの盗聴するの変わってくれないか?」 「だいたい予想はつくわね。また男を引っかけたんでしょ? いやに決まってるじゃない。」 コンピュータルームの重要な2代のパソコンを カチャカチャと向かい合って打ちながら、 悠斗は本気で嫌だと言った具合で由梨に交渉するが、 彼女は画面から顔を上げることなくそう素っ気なく返事を返すばかりか “手を休めないでよ”とさらに拍車を掛ける。 「たっく。それより終わりそうか?」 「ええ。あとは闇取引の今後の予定を リストアップしてFBIに送信するだけ。」 「痕跡は絶対残すなよ。」 「あたりまえでしょ?」 そう、今回のFBIとの取引は今後の闇販売ルートの情報提供するかわりに 『天使の涙』を盗んでも良いと言う。 だが、そんな膨大な仕事を短時間で それも雅斗と由佳だけでできるはずもなく、 彼らに白羽の矢が立ったのだった。 「さて、そろそろ時間かな。」 由梨はそう呟いて、快斗からもらった懐中時計を胸元から取り出した。 ショーの開始まであと20分。 それまでに姉は戻ってくるのだろうか? 「まぁ、戻ってこなかったらいただかれちゃったって事よね。」 「姉さんにかぎってまずないな。」 知り合いの蘭姉さんに教わった空手に合気道など 様々な武術を身につけた姉に勝てるのはおそらく兄や父親くらいだろう。 「つまらないわね。」 「まあな。」 たまには痛い目にあった方が男をすぐ引っかけるくせも治るだろうに。 2人がそう同時に思っているころ、由佳は部屋の前まで来ていた。 [ここが僕の部屋だよ。そしてこれが天使の涙さ] 豪華なスイートルームに通され、 一番奥の頑丈な金庫からうわさの天使の涙がでてきた。 由佳はそれを目に留めると思わず顔をしかめる。 もちろん相手の男がこちらをみていないことを確認してだが。 ――――これがあの天使の涙?母さんの瞳とは比べ物にならないじゃない。 蒼と言うよりは黒に近いその群青色は まるで人間の汚い部分を凝縮したようだと由佳は感じた。 神聖なる母の瞳の蒼とはまるで正反対だ。 [どう?気に入った。] [え?ええ。素晴らしい宝石ね。] [なら、これは君の物。君は僕の物だ。] 男はそう言って由佳を抱き上げるとそっとベットの上におろす。 そうして、由佳を押し倒し、己の体を重ねてきた。 [日本では綺麗な花には棘があるっていうんだろうけど、あれは本当だね。 君は色香という棘を持っている。] [あら、解釈が違うわよ。棘って言うのは・・・。] 由佳は指に仕込んでいた麻酔針を男の首元に思いっきり刺した。 強力なそれに男は一瞬にして夢の中へと落ちてゆく。 意識のなくなった体は、由佳に重くのしかかるため、 由佳は彼を足で思いっきりけ飛ばした。 「日本語をもうちょっと勉強したら?じゃあ、この宝石は戴いていくわ。」 サッと変装を解いて、由佳は中学生へと戻る。 もちろん胸元には天使の涙を入れて。 『悠斗くん。お姉さま成功したよ!!』 「聞こえてた。全て。」 イヤホンに響く、ふざけた姉の声に 悠斗は勘弁してくれよといった雰囲気でそう返事を返した。 とりあえず一つ目の“天使の涙”は手に入れた。 そう一つ目。 この表現は間違いではない。 先日手に入れた情報ではもう一つあるらしいのだ。 どちらが本物かは分からないが・・。 それを盗むのはもちろん雅斗が扮するKID。 「それじゃあ、予定通り姉さんは会場に戻れよ。 もちろん中学生としてな。」 『あんた達も仕事が済んだらさっさと逃げなさいね。』 そこで通信はとぎれた。 これから自分たちのすることはすぐに脱出すること。 必要だった情報は全て手にしたし、ブレーカーが落ちるように タイマーもセットできたのだからここに留まる理由もない。 そう思って悠斗は“そろそろ行こう”と由梨に視線を向ける。 だが、由梨は楽しげに微笑んで会場の方を視線で示す。 彼女の言いたいことが悠斗には一瞬で理解することが出来た。 「由梨。兄さん達に怒られるぞ。」 「悠斗も見たいと思わない? 兄さん達の仕事。探偵としても血が騒ぐでしょ?」 「あのな・・・ってもう聞いてないよな。」 悠斗はどうにかして由梨を止めようとするが、 一度決めたら、てこでも動かない母さん譲りの性格を どうこうできるはずもなく、しかたなく後に続くのだった。 ・・・・・・・・・・・・・ 「さて、そろそろ時間かな?」 会場の客の5分の1ほどがぞろぞろと何処かへ行くのを見て 雅斗は人知れずそう呟いた。 先ほどの盗聴で由佳はどうにか上手く一つ目の“天使の涙”を 手に入れたらしい。 だが、それは雅斗の予想が当たっていれば “天使の涙”ではなく“堕天使の涙”。 愛する人への想いとして作られた“天使の涙”。 だがもう一つの瞳は愛する人と引き裂いた者への 恨みを込めて作られた物だった。 それを手にする者は必ず不幸が訪れる。 そんな理由からかいつしかその宝石は“堕天使の涙”と 呼ばれるようになっていた。 [何処に行かれるの?] [いえ、この後約束があって。] [もう少し良いじゃない。] 会場を立ち去ろうとした雅斗だったが先ほどまで聞き込みがてら 相手をしていた令嬢方がそう簡単にはいかせてくれそうにもない。 雅斗は適当な理由を言って立ち去ろうと試みるのだが、 令嬢達は雅斗を逃すつもりはないらしく腕を思いっきり捕まえて離れない。 ここから逃げることなどたやすいのだが、 それをして目立ってしまうと今後の行動がしづらくなるために 雅斗は二の手を決められずにいるのだ。 [美しい女性との別れはつらいのですが・・・。 どうしても遅刻できない用事なんです。] [彼の用事とは私のことです。] 雅斗に声を掛けたのは目の覚めるような金髪の美少女。 少なからず、これまで己の容姿と地位に自信を持ってきた 令嬢達であったが、彼女の前では その自信もことごとくうち砕かれてしまう。 [そう言う分けなんですよ。] 雅斗は予定外の人物に臆することなく にっこりと照れたように微笑んでそう告げた。 さすがにここまで来ると、我が道を行くお嬢様でも これ以上強引に彼を止めることは出来ないのだろう、女性を軽く 睨み付けながら、名残惜しそうに雅斗ぼ周りから散っていった。 [大変ですね。] [まあな。ていうか、その口調戻せよ。気色悪いぞ、由佳。] 雅斗のそんな言葉にブロンド美人は一瞬にして黒髪の15歳の少女に戻る。 まあ、それでも外見は高校生ほどに大人びてはいるのだが、 今まで演じた中国系の女性やブロンド美人ともほど遠い姿なので 誰にもばれることはない。 目の前の人物以外は。 「やっぱり分かった?」 「相変わらず変装は大したこと無いからな。」 あとがき どうも、行動と年齢がミスマッチすぎる。 特に、由佳ちゃん。 私の中では由佳って男を手玉にとって利用するタイプなんです(笑) 多分、有希子さんに似たんだろうな〜。 |