Stage7 「始まったようだね。」 「まさかインターポールがいるとは・・・。」 「驚いた?とにかく外はジジイが何とかしてくれるだろうし、 ぼちぼちここからでるとしよう。」 優也はそう言って新一に手を差し出した。 だが、もちろん新一がその手を掴むことなどはしない。 「俺を女扱いするんじゃねーよ。それにまだ・・」 「信用はしていないって?分かったよ。とりあえず急ごう。」 優也は個室の扉をぶち破るととりあえずこの船を動かしている操舵室へと向かった。 そこには腕の知れたA級犯罪者がいるはずだ。 頭脳も一流だが拳銃の腕も一流。 優也は先日与えられた資料に書かれたことを思い返しながら、拳銃に手を掛けた。 「あんたはここでまってろよ。」 「あ?ああ。」 優也は新一を操舵室の近くに待機させると扉を蹴破って 銃口を彼がいるであろう位置に向けた。 だがそこには誰もいない。 「何?」 「Your idea is foreseen. I did not confide you from the
beginning. You will
regret poor head in the world of the dead. 」 ---------君の考えなんてお見通しだよ。 俺は最初からお前らを信用していなかったからな。 己の頭の悪さをあの世で後悔するといいさ。 カチャ こめかみに冷たい感触が当たる。 今回のやまは優也にとって初めての表舞台だった。 しかし、まだ甘さを残す20代の新任には不可能だったのか? そんな言葉が頭の隅をかすめる。 優也にはその時間が必要に長く感じられた。 目をゆっくりと瞑って殉職を覚悟したその時、1発の銃声が鳴り響いた。 だが、それは優也に向かって放たれた物ではない。 ドサリ。誰かが倒れるその音と共に優也は目を恐る恐る開いた。 そして視界に飛び込んできたのはあきれ顔をした新一。 「お前それでもプロか?」 「初仕事だったんだよ。って、おまえこそ何者だよ。」 麻酔針は綺麗に彼の首元に刺さっていた。 この距離から上手く動脈にそれを打ち込むのは至難の業。 それをやってのける彼女はいったい? 「お前が言ったんだろう?日本で有名な探偵って。それで充分じゃねーか。 それよりさっさと行くぞ、もっと大物が外にいるんだろう?」 「あ、ああ。」 いつのまにか、主導権が変わっていることに優也は全く気づかず、 ただ新一の即すままに動いていた・・・・。 「ちっきしょ。さすがはプロだぜ。」 客のいないメイン会場で机の陰に隠れながら、 快斗は血の流れる腕をきつく布で縛っていた。 プロのスナイパーを2人も相手にするのは初めてではないし 負けるつもりなど毛頭ないが、それでもやはり善戦に持ち込むには相手が悪い。 あっちのほうが自分より手負いなのは確実だが、 薬に強い2人をどう仕留めるかの決断は決まっていない。 「さすがに殺すのはまずいしな。」 殺すのなら一瞬で勝利を勝ち取ることは出来る。 だがそれは愛する人の最も嫌うこと。 黒羽家絶対のタブー。 「弾が切れるのまって肉弾戦に持ち込むかな?」 それまで自分の体が持てばいいが。 そんなことを他人事のように呟きながら、 また始まった銃弾の雨をよけ続けていた。 それからどれくらい時間が経ったのであろう、 銃弾がピシャリと止んで2人の気配が近づいてくる。 「・・・やっとかよ。」 快斗は意を決して彼らの前に飛び出した。 突然の快斗の出現に2人が発砲するタイミングが遅れる。 その隙に、快斗は思いっきり2人のみぞおちに5発ほど入れてやった。 これで立ち上がれる人間はまずいまい。 「快斗。」 「新一、じゃない。由希。無事だったんだな。」 戦いが終わったのを見計らってようやく新一たちも会場へと入ってきた。 後ろに続く優也を見て快斗はあわてて偽りの名を紡ぐ。 「操舵室にいた男は眠ってる。 乗客はそれぞれ個室に移動させられていたのを確認したし。 とにかくみんな無事だったよ。」 「そっか。よかった。って1人足り無くないか?」 デイビットの話しではあと1人、最初に会話したボスがいるはずだ。 しかし、今、快斗が倒した2人も操舵室の男もそのボスではない・・・。 それでは、いったいどこに? ズキューン 快斗がそう思った瞬間、外で一発の銃声が鳴り響いた。 「今の銃声、まさか・・・・。」 優也は広間からものすごい勢いで外へと飛び出した。 それに快斗と新一も続く。 案の定デッキにはこの強盗団のボスが拳銃を構えて立っていた。 その銃口の先には・・・・。 「デイビット!!」 優也は犯人のことなど全く気にせず彼に駆け寄った。 心臓を打ち抜かれた体はもうピクリとも動かない。 それどころか全身が傷だらけだった。 「この事件が終わったらお孫さんの所に帰るんだろ? やっと平穏な日々にまた帰れるのに。こんなところで死ぬなよっ。」 優也は日本語でそう何度も何度も冷たくなった老人に呼びかけた。 そんな無防備な彼の背中を狙う犯人。 打たれる。 新一と快斗がそう思った瞬間、 優也はデイビットの胸元にあった拳銃で、ボスの心臓を打ち抜いた。 「はじめて、人を殺しちまったな・・・。」 “お前のせいだよ”拳銃を海にほうり投げて 優也はデイビットに向かってそう告げる。 その哀しい微笑みに、新一と快斗は何とも言えない違和感を感じていた。 それから犯人一名、刑事一人の貴い犠牲をだして、この事件は解決した。 港に着いたとき優也と名乗った男はいつのまにか姿を消していて、 死んだ英雄の傍らには一輪の花が添えられていた。 警察と事件についての事情聴取を終え、快斗のいるベンチへと向かった新一は いつになく、落ち込んでいる彼を見つけた。 数十分とはいえ共に戦いデイビットと協力した快斗もまた 言いしれぬ現実に身を震わせているのだろう。 そんな彼に新一はそっと言葉をかける。 「快斗・・。」 新一の言葉に快斗は軽く顔を上げる。 「最後にさ、俺が何とかするって言ってデッキに残ったんだ。 雑魚とは言えまだ10人も残っていたのに。ボス一人に負けるような男じゃない。 きっとそれまでに交戦した相手から受けた傷が一番の要因だった。」 「だろうな。」 「俺がもう少し、後数分あそこに留まれば・・・。」 「・・・・。」 悔しそうに拳を握りしめて、下唇をかみしめている彼の話を 新一は声を掛けることなく、黙々と聞いた。 何を言ってもきっと気休めにしかならないことをよく分かっているから。 自分の過失で誰かが亡くなった事件の後、いつもそうやって傍にいてくれた快斗。 それが一番の方法だと信じているから。 ウィーンの夜の風が冷たく吹き付ける中、 新一は快斗の手を握ってずっと頷いていた。 〜あとがき〜 はじめて書いた気弱な快斗くん。 一応、お父さんの事を知っている人物でもあったし。 新一はたぶん、快斗が落ち込んだときこうするかな? っていう自分視点で書いちゃいました。 |