Stage23 「黒の組織は黒、それに敵対する警察は白・・・その中間がR.Aの灰色。」 「え?」 「昨日の朝、哀姉さんに連絡入れたの。そしたら調べてくれたみたい。」 警察が優也をとらえたのを確認した後、悠斗と由梨の2人は電車の中にいた。 さすがに子ども2人では飛行機には乗せて貰えないので、 マリオネット劇場までは長い電車の旅となるのだ。 「黒の組織は警察の人間が多様に必要だった。それで優秀な警察をスカウトしたり、 組織からそういう人材を警察官へ送り込んだりしていたらしいわ。 その人々を組織の人間はグレイと呼んだ。」 「黒の組織が潰れた今、グレイがTOPとなり復活ってわけか。」 「哀姉さん・・言ってた。親子3代で組織と関わるなんて皮肉な物よね。って。」 由梨はその言葉を最後に、口をつぐむと、 日本とは違う美しさを持つオーストリアの風景を車窓越しに眺める。 悠斗は由梨が会話をする気がなくなったのを確認すると、由梨と同じように外を眺めるのだった。 +++++++++++++ 「あら、もう少しだったのに。ご登場とはついてないわ。」 グラスが手の中で砕け散ったために、ウイスキーで濡れてしまった手をハンカチで拭いながら、 ジェニーは嬉しそうに微笑むと視線を快斗の、いやKIDの方へと向ける。 部屋に入った瞬間、KIDは手に持っていた拳銃で彼女の持っていたグラスを貫いた。 その中に、何が入っているかなどは知らないが、危険な物と言うことは確かだったから。 「招待しておいて、その台詞は無いんじゃないんですか?」 「ふふ、それもそうね。黒羽快斗君・・・今はKIDと呼んだ方がいいかしら。」 彼女の言葉にKIDのポーカーフェイスは崩れることはなかった。 「雑談は結構です。彼女を返していただけますね?」 「あら、私はあなたとじかに話がしたくて呼んだのよ。 大丈夫、彼女はあと1時間はもつはずだから。確認したいことがあるの。 私の父とあなたの父、そして叔父、デイビットとの関係について。」 「KIDの正体はデイビットから・・・ですか。」 「ええ、心配しなくても他言していないわ。 KIDの血筋を殺すのは私の役目だから。さあ、雑談を始めましょう。」 ジェーンは拳銃を取り出してそれを新一へと向け、KIDに拒否権がないことを誇示すると 視線で扉付近にあるイスに座るように促すのだった。 +++++++++++++ 今から数十年前のあの日のことを私は今でも鮮明に覚えている。 『お父さん。お帰り。』 『ああ、ジェーンか。ただいま。』 いつもとかわらない時間に帰宅してきたお父さんはどこか疲れているような様子で、 小学生なりにもそれを感じた私は、お父さんにその訳を尋ねた。 『お父さんの大事な宝物を、泥棒さんが盗んでしまいそうなんだよ。』 そう言って目の前に差し出されたのは、変なマークが最後についている予告状らしき物。 『K・・I・・D?』 『お父さんは、それを守らなくちゃいけない。 守りきれなかったら、ジェーン達の傍にいられなくなるからね。』 『お父さん、何処かに行っちゃうの?嫌だよ、そんなの。』 『大丈夫。必ず守ってみせるから。 ほら、叔父さんのデイビット刑事も協力してくれるんだよ。』 『なら、大丈夫ね。おじさん、凄く腕の良い警官だってお母さんいってたし。』 私がホッとしたように笑ったら、お父さんは私を強くその太い腕で抱きしめてくれた。 今思えば、あの時からお父さんは知っていたのかも知れない。 叔父に裏切られることも、そして責任をとって自殺しなくちゃいけないってことも。 「叔父が、あなたの父親の手助けをした理由は、私が高校に上がってから聞かされたわ。 くだらない言い訳と共に、叔父は何度も私に謝ったの。父が死んで、 そのことがショックで母が痴呆症にから私を育ててくれた叔父の突然のその発言に、 何を今更って私は思ったわ。裏切られた気分だった。」 ジェーンは隙を作らない程度に目頭を押さえて、軽くため息をつく。 そして、じっと見つめてくるKIDの視線を感じながら話を続けた。 私は当時、叔父のような警察官になるのが夢でそれ相当の技術を叔父に教えて貰っていた。 拳銃の使い方や、かんたんな医学など、様々なことを。 『ジェーン、話があるんだ。君のお父さんのことで。』 『まだ気にしているの叔父さん。叔父さんが悪いんじゃないわ。 叔父さんはICPOの刑事として頑張ったじゃない。』 『俺は・・・君のお父さんを裏切ったんだよ。KIDに協力した。』 「鳩が豆鉄砲を食らう?だっけ。日本にそんな言葉があったでしょ。まさにそんな感じ。 叔父は言ったわ、KIDは世界のためにあの宝石を確認しなくちゃいけなかった、 だから、必ず返すということを条件に手伝ったって。でも、返す前日にKIDは殺された。 マジックショーの最中に。その時、叔父はあなたのお父さんの名前を口走ったわ。 つい、ぽろっと言っちゃったって感じだった。 KIDを殺した組織が宝石を奪ったって聞かされて、私の恨む相手は一気に増えた。 KIDと組織と叔父・・・。 私の幸せな生活を奪った彼ら全員を潰してやろうと決意したの。」 「それで、R.Aに入ったのですか?」 「ええ、高校に行きながらも、情報収集を行ってね。随分と時間が掛かったわ。 KIDを必ず誰かが引き継ぐっていうのはなんとなく予想できたから、 その後継者のKIDが活動し出すまで待たなきゃいけなかったし。 叔父も、平穏な生活に戻る直前に殺してやりたかったしね。 前振りが長くなったけど確認したかったのは、KIDが宝石を盗む理由よ。 今は警察の犬みたいな感じになっているけど、昔は何を追っていたの?」 彼女の問いに、KIDはゆっくりと首を横に振った。 お前の問いに答えるつもりはないとでも言うように。 ジェーンも期待をしてはいなかったのか、 “ならいいわ”と新一に向けていた銃口をKIDへと向ける。 「とにかく、過去に何があろうが、 今、私の大切な人に手を出すあなたに容赦をする気はありません。」 「容赦なんてことしたとたんにあなたを待っているのは死だから、全力で戦いなさい。 お互いの、大切な物を賭けて勝負しましょうよ。」 細く長い腕を、ゆっくりと垂直に挙げ、引き金が引かれる。 乾いた銃声と共にジェーンにとっては怨念や羞悪という感情にけじめを付けるための KIDにとっては父親がやり残した仕事を終えるための最初で最後の戦いが始まった。 あとがき あと、2,3話で終了。もう少しだけお付き合い下さると嬉しいです。 |
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